研究課題/領域番号 |
22K09486
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分56030:泌尿器科学関連
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研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
小林 秀行 東邦大学, 医学部, 准教授 (10408875)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2024年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | 男性不妊症 / AI / 予測診断 / 非閉塞性無精子症 / micro TESE / 無精子症 / 予測分析 |
研究開始時の研究の概要 |
無精子症の中でも非閉塞性無精子症に対する顕微鏡下精巣内精子採取術(micro TESE)における精子採取率は30%程度である。精子回収の予測因子はこれまで研究が数多くされてきたが有用な因子は見つかっておらず、未だに手術を施行して精子が回収できるかどうかを判断している状況である。本研究では、AIを用いて精子回収の有無を予測分析するモデル作成を行なうことを目的とする。方法は、2011年から2020年に施行したmicro TESEの詳細データを用いてAI予測モデルを作成する。作成したAIモデルは、2021年のmicro TESEのデータを入力してAIでの予測と実際の結果を比較し、有用性を検討する。
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研究実績の概要 |
無精子症は自然妊娠で挙児を得ることができない重篤な病態である。そのため、無精子症患者は精巣内精子採取術(TESE)を行なうことで精子を回収することできる。無精子症には2種類あり、閉塞性無精子症では、TESEを施行し80%以上で精子回収を見込めるが、非閉塞性無精子症では、顕微鏡下精巣内精子採取術(micro TESE)を施行しても、約30%~40%台でしか精子回収に至らない。非閉塞性無精子症に対する精子回収の予測因子について研究が行なわれているが、これまでに明らかな因子は定かではない。そこで代表者は、AIを用いて、micro TESEを施行する前に非閉塞性無精子症に対する精子回収の予測モデルの開発を試みた。 AI予測モデルを構築するために、東邦大学医療センター大森病院倫理委員会の承認を得て研究を行なっている。東邦大学医療センター大森病院リプロダクションセンターにおいて2011年1月1日から2020年12月31日までに施行したmicro TESEの430例から、年齢、身長、体重、BMI、各種ホルモン値 (LH, FSH, Testosterone, PRL, E2)、Gバンド、AZF検査、既往歴、精巣容積、精子回収の有無のデータを抽出した。これらのデータをソニービズネットワークス社のAI予測分析ツールである「Prediction One」で機械学習を行ない、二値分類によるAIモデルを作成した。 「Prediction One」により精子回収予測AIモデルを構築しAUCは0.726であった。作成したAIモデルを検証するために、2021年に施行した20例のmicro TESE のデータを用いた。20例中17例 (85.0%)で精子回収の実際の結果と予測結果が一致した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
代表者は、研究内容を2022年11月4日に開催された第67回日本生殖医学会学術講演会・総会において「非閉塞性無精子症患者に対するmicro TESEの術前に精子回収を予測できるAIモデルの開発」というタイトルで学会発表を行ない多数の質問を受けた。また、同学会のシンポジウムで「ノーコードが実現する男性不妊症の未来」というタイトルで講演を行ない、最先端の研究内容を発表することができた。研究内容に関して、「AI model developed using machine learning for predicting sperm retrieval in micro-TESE for non-obstructive azoospermia patients」というタイトルでAndrologiaに2023年1月に投稿した。 さらに、2022年8月に開催された第23回横浜ART研究会と2022年9月に開催された第21回生殖バイオロジー東京シンポジウムにおいても男性不妊症におけるAI研究の取り組みについて講演を行ない大きな反響を浴びた。代表者は、不妊症領域におけるAI研究のオピニオンリーダーの存在である。 また、代表者はmicro TESEの術前に今回開発したAI予測モデルを用いて精子回収の有無をあらかじめ予測し、医師および培養士と結果を共有することで実際の手術に臨んでいる。その成果を挙げると、AI予測モデルで精子回収ができると予測した症例では、精巣切開を小切開で行なうことで精子回収が可能であった症例を経験している。つまり、AI予測モデルの結果次第で、手術の侵襲を最小限にすることが可能となったことを意味している。今後も開発したAI予測モデルの実際の成果を試していきたいと考えており、さらに精度を上げる工夫が必要であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今回開発したAI予測モデルの研究成果をさらに周知するために、海外での学会発表も検討している。具体的には、2022年11月に欧州泌尿器科学会と米国泌尿器科学会に演題を応募した。さらに、日本泌尿器科学会総会の総会賞にも応募した。 また、今回開発したAI予測モデルは、非閉塞性無精子症に対してmicro TESEを行なう医師を対象としているが、実際にmicro TESEを行なう男性不妊症専門医は73名と少ないので、このAI予測モデルを使用するユーザーは限定的である。また、今回開発した精子回収におけるAI予測モデルは、非閉塞性無精子症から精子を回収するという術者の技量や、胚培養士が精巣組織からわずか1匹の精子を見つけるといったバイアスも含まれている。そのため、AIモデルの作成は、このようなバイアスを含まないデータのみで構築できるモデルの方が理想的である。さらに、もっと幅広く男性不妊症の領域におけるAI予測モデルを活用するために、異なった方向でのAI予測モデルの開発を検討している。具体的には、直接患者を対象としたAI予測モデルであれば、何百万人という人数での予測が可能となり、これまでの既知の検査を覆すような研究内容に発展する可能性を秘めている。つまり、男性不妊症のスクリーニングに着目して研究を計画している。 AI研究は、研究成果がすぐに実臨床に結びつきやすい性質を持っている。しかし、精度の高いモデルを作成するためには、適格なデータ収集が必須である。東邦大学医療センター大森病院リプロダクションセンターは、日本でも有数の男性不妊症におけるハイボリュームセンターでありデータ収集や精度に関しては、問題なく新たなAIモデルの作成を模索している。
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