研究課題/領域番号 |
22K09551
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分56040:産婦人科学関連
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研究機関 | 自治医科大学 |
研究代表者 |
小柳 貴裕 自治医科大学, 医学部, 講師 (90742122)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | 卵巣がん / バソヒビン / 微小管制御 / 細胞周期 / 血管新生 / 婦人科悪性腫瘍 / バソヒビン2 |
研究開始時の研究の概要 |
バソヒビン2はがん細胞特異的に発現する血管新生促進因子であり、微小管活性に関連するチューブリン脱チロシン化作用も有する。卵巣がん細胞のバソヒビン2を抑制すると、1)脱チロシン化チューブリン発現が減少する、2)サイクリンB1発現が上昇し微小管脱重合阻害剤であるパクリタキセルの感受性が増強する、3)細胞周期関連遺伝子の発現が増加する。また抗バソヒビン2中和抗体は卵巣がん皮下移植マウスモデルで抗腫瘍効果を示す。 本研究では、1)腹膜播種マウスモデルを用いて、抗バソヒビン2中和抗体療法の至適レジメンを明らかにし、2)バソヒビン2の抗がん剤感受性増強における役割を明らかにする。
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研究実績の概要 |
バソヒビン2(VASH2)はがん細胞特異的な血管新生促進因子であり、血管新生阻害療法にむけた基礎研究が進んでいる。VASH2は微小管重合に寄与するチューブリン脱チロシン化作用(tubulin carboxypeptidase; TCP活性)も有することが近年報告された。パクリタキセル(PTX)は微小管脱重合阻害剤であり、VASH2と何らかの相互作用を示す可能性がある。CRISPR/Cas9を用いたゲノム編集技術によりVASH2をノックアウトした卵巣がん細胞株(SKOV-3、SHIN-3)を樹立した。細胞内のチューブリン脱チロシン化の状態をウエスタンブロッティング法で確認したところ、VASH2ノックアウト株では、PTX曝露による脱チロシン化チューブリン発現の亢進が抑制された。次いで、WST-1アッセイで抗がん剤に対する薬剤感受性を評価したところ、VASH2ノックアウト株ではPTX感受性がコントロールに比べて有意に増強した。一方でシスプラチンについては薬剤感受性に差を認めなかった。さらに、VASH2ノックアウト株では細胞周期のM期中期のマーカーであるCyclin B1発現が増加しており、細胞周期がM期中期で停止している細胞の割合が増加してPTXに対する薬剤感受性が増強したと考えられた。 また、内因性血管新生抑制因子であるVASH1もTCP活性を有している。VASH1をプラスミドベクターを用いて過剰発現させたSKOV-3、SHIN-3において脱チロシン化チューブリンおよびCyclin B1の発現が増強し、PTXに対する薬剤感受性が増強された。 VASHファミリーを標的とする卵巣がん治療戦略では、既知の血管新生阻害のみならずTCP活性による抗がん剤感受性増強作用など、より多角的な視点から新たな分子標的治療の確立が期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
卵巣がん細胞株において、バソヒビン2(VASH2)をノックアウトした際の細胞内脱チロシン化チューブリン発現やパクリタキセル(PTX)感受性について、in vitroでの検討を進めた。CRISPR/Cas9を用いたゲノム編集技術によりVASH2をノックアウトした卵巣がん細胞株(SKOV-3、SHIN-3)を樹立し、VASH2は細胞内の脱チロシン化チューブリン発現の亢進に寄与していること、これをノックアウトすることで脱チロシン化チューブリン発現が抑制され、PTXに対する薬剤感受性が増強することを明らかにした。さらにその機序として、VASH2ノックアウト株ではCyclin B1発現が増加しており、細胞周期がM期中期で停止している細胞の割合が増加してPTXに対する薬剤感受性が増強したと考えられた。 内因性血管新生抑制因子であるVASH1もTCP活性を有しており、VASH1を過剰発現させた際の細胞内脱チロシン化チューブリン発現やPTX感受性についてin vitroで検討した。VASH1を過剰発現させたSKOV-3、SHIN-3において脱チロシン化チューブリンおよびCyclin B1の発現は増強し、PTXに対する薬剤感受性が増強された。 上記のデータをまとめ学会発表を行い、英論文を作成し投稿中である。 これらの現象のさらなるメカニズム解明のため、VASH2ノックアウト卵巣がん細胞株についてRNAシークエンスを行い、細胞周期に関連する複数の遺伝子発現変動を確認した。また、in vivoでVASH1を過剰発現させる手法として、リコンビナントタンパク質投与やAAVベクターによる遺伝子導入を検討している。 以上より、本研究はおおむね順調に進展しているものと考える。
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今後の研究の推進方策 |
VASH2のノックアウトは細胞増殖や生存には直接影響しないため、VASH2以外の脱チロシン化酵素の存在が示唆される。VASH2ノックアウト卵巣がん細胞株(SKOV3)についてRNAシークエンスを行ったところ、細胞周期に関連する複数の遺伝子発現の増加および低下を認めた。今後はオントロジー解析やパスウェイ解析等を加えて、発現変動遺伝子のうち特に変動の大きいものや治療標的となりうる因子を抽出し、ノックアウト等の方法でがん細胞内の微小管活性や抗がん剤感受性に与える影響について評価する。さらに、バソヒビン2を過剰発現させた系においても同様に検討し、パルテノリドなどの脱チロシン化阻害剤の効果についても検証する。また、担癌マウスを用いたin vivoの解析について、我々はVASH2に対する中和モノクローナル抗体をすでに樹立しているため、抗VASH2抗体による治療実験を行い、腫瘍内における微小管活性の評価、既存の抗がん剤との相乗効果について評価する。 VASH1についてもその過剰発現が抗腫瘍効果を増強させうるため、今後生体内での発現増強方法(リコンビナントタンパク質投与、AAVベクターによる遺伝子導入など)について検討していく。
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