研究課題
基盤研究(C)
ヒトパピローマウイルス (HPV) は子宮頸癌やその前癌病変 (子宮頸部上皮内腫瘍, CIN) の原因ウイルスである。現行のHPVワクチンは人工ウイルス粒子を抗原としており、中和抗体を誘導することによってHPV感染をブロックする。HPV接種プログラムが導入されてすでに10年が経過しワクチンの有効性が報告されているが、その裏付けとなる血清疫学的な検討は行われていない。本研究ではワクチン接種歴のある健常人女性・CIN/子宮頸癌患者を対象に接種年齢・接種回数・初交年齢・病変から検出されるHPV型のデータを全て収集し血清中の抗HPV抗体を測定することで、発症予防抗体価とその持続期間を推定する。
今年度より、血清抗体価の測定を開始した。血清サンプルを入手できたHPVワクチン接種者31例 (子宮頸部上皮内腫瘍グレード1 [CIN1] : 3名, CIN2/3: 18名, 健常女性: 10名) において、HPV16/18のウイルス様粒子(VLP)を抗原とするVLP-ELISA法を用いてHPV16/18血清抗体価を測定した。WHOから提供された標準血清(10 U/mL)を使用し、国際共同研究で決められた4.0 U/mLを陽性/陰性のカットオフ値とした。接種時の平均年齢は15.8歳であり、接種から採血までの期間は平均10.7年であった。接種したワクチンの種類は、2価(10例)、4価(2例)、9価(2例)、不明(17例)だった。抗体陰性と判定された症例が2名いたが、ワクチン接種歴については自己申告であることから、この2例についてはワクチンを接種したと勘違いしていて、じつはワクチン接種をしていなかった可能性が高いと考えられた。この2症例を除くと、全ての症例で自然感染では見られない格段に高いレベルの血清抗体価が維持されていた。HPV16とHPV18の抗体価の間には強い相関が認められ、2価ワクチンの方が4/9価ワクチンよりも抗体価が高い傾向が認められた。ワクチン接種歴ありのCIN患者と健常女性の間でHPV16/18抗体価に違いは認められなかった。ワクチン接種歴のあるCIN患者全員においてHPV16/18抗体価が高値でHPV16/18DNA陰性であったが、今後ブレイクスルー症例が生じていないか、引き続きモニターしていく予定である。同時に、ワクチン接種歴ありのCIN患者ではHPV52/58 DNAが多く検出されたことから、HPV16/18に加えてHPV31/33/45/52/58の感染も予防できる9価ワクチンの接種の必要性が強く示唆された。
3: やや遅れている
HPVワクチン接種者の血清を入手して抗体測定をする体制が整い実際に抗体測定を行うことができたことで、研究の進展は見られるが、症例数がまだ十分ではない。
今後はより多くの検体を集めることが重要である。とくにHPVワクチン接種歴があってHPV16/18陽性の病変を持つブレイクスルー症例の抗体測定が重要となる。HPVワクチン接種率が高い世代が20代後半から30代前半に差し掛かることから、さらに多くの血清検体の確保が期待できる。
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