研究課題/領域番号 |
22K09668
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分56050:耳鼻咽喉科学関連
|
研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
竹野 幸夫 広島大学, 医系科学研究科(医), 教授 (50243556)
|
研究分担者 |
濱本 隆夫 広島大学, 医系科学研究科(医), 助教 (70448249)
川住 知弘 広島大学, 病院(医), 医科診療医 (90893777)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
|
キーワード | 好酸球鼻副鼻腔炎 / 精密医療 / 気管支喘息 / 嗅覚障害 / 呼気一酸化窒素(FeNO) / 苦味受容体 / Oncostatin M / 血小板活性化因子(PAF) / 一酸化窒素(NO) / 好酸球性副鼻腔炎(ECRS) / 味覚受容体 / 上気道 / 嚥下障害 / 鼻副鼻腔 / トランスグルタミナーゼ / 遺伝子多型 / 抗菌作用 |
研究開始時の研究の概要 |
COVID-19がパンデミックとなって既に3年目を迎えています。新型コロナウィルス(SARS-Cov2)はS蛋白を介して、ヒトの鼻副鼻腔に非常に感染しやすい特徴を有しています。これは鼻の粘膜にACE2、TMPRSS2といった受容体が多く発現しているからです。一方で、ヒトの鼻副鼻腔には自然免疫機構といってウィルスなどの外来微生物に対して殺菌作用などで抵抗する能力を持っています。活性化した気体である一酸化窒素(NO)もその一つであり、副鼻腔を被覆する線毛細胞より多く産生されています。本研究は味覚受容体を介したNOの産生制御機構を解析し如何に抵抗力を強めるかなどの治療法の開発を目的としています。
|
研究実績の概要 |
「一酸化窒素(NO)の多機能性からみた鼻副鼻腔における感染防御機構の解析」を目的として、一連の研究を遂行し下記の研究成果が得られた。 1) 我々が蓄積した症例データベースを活用し、神経原性炎症の関与について検討した。1-a)オンコスタチンM(OSM)はIL-6ファミリーに属するサイトカインの一員であり、鼻粘膜のバリア機能を低下などtype2炎症との関連が示唆されている。そこでOSMに由来するサイトカイン刺激と細胞内シグナル伝達が、慢性鼻副鼻腔炎(CRS)病態にどのように影響するかを検討した。CRS患者では篩骨洞粘膜におけるOSM mRNAレベルが有意に増加しており、同時にTNF-α、IL-1β、IL-13、およびOSMR-α遺伝子発現と正の相関が確認された。これらの結果はOSMがType1およびType2炎症の両者を介したCRS病態に関与しており、同時に上皮間質相互作用の修飾作用も有していることを示唆している。1-b)血小板活性化因子(PAF)はリン脂質由来の炎症性メディエータであり、好酸球の活性化や遊走など炎症状態を引き起こす。本研究では、PAF代謝に関連する遺伝子、合成に関与する酵素、分解に関与する酵素などの発現を、CRSの臨床病態と階層分析に基づいた分類によりバルクRNAバーコーディングおよびシーケンス(BRB-seq)を用いたトランスクリプトーム解析を行った。 2)呼吸器内科と共同でECRSに伴う気道症状の評価を行った。本研究では喘息患者におけるFeNO値によって嗅覚障害の病因や発症頻度が異なるという仮説をもとに一連の解析を行った。その結果、FeNO値および血中好酸球数は,ECRS群で有意に高値であり,同時にECRS合併リスクが高い喘息患者は,FeNO値と嗅覚障害の有無を組み合わせることで高確率で抽出可能であることが判明した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
味覚受容体は口腔・舌のみならず気道系(鼻副鼻腔)にも存在している。中でも苦味受容体(T2R)と甘味受容体(T1R)は上気道自然免疫に関与している。上気道における苦み受容体の特定isoform発現が自然免疫応答を介して、気道のアレルギー・好酸球性炎症に対する防御機構の一翼を担っていることを確認した。またT2R遺伝子多型から日本人を対象としたCRS症例を解析し罹患率の差異について興味深い結果が得られた。さらにType2炎症における神経原性炎症の関与についての検討を行った。鼻のかゆみ(知覚神経刺激閾値の低下)が、治療効果指標としての客観的なEBM確立に寄与する指標となりうるかを検証した。具体的標的分子として、Oncostatin Mと血小板活性化因子(PAF)を検討した。その結果、OSMがType1およびType2炎症の両者を介したCRS病態に関与しており、同時に上皮間質相互作用(epithelial stromal interactions)の修飾作用も有していることを確認した。また重度のType2炎症群にPAF代謝は密接に関連しており、この解明は、CRSwNPの治療と管理に新たに貴重な情報が得られる可能性がある。両者のシグナル経路はCRS病態の治療標的として有用な候補と考えられる。 実臨床における上下気道気道病変を有する患者を対象としたsurveyでは,ECRSとNCRSの両方が喘息患者における嗅覚障害の主たる病因であることが示された。さらにFeNO値によりCRS病態の表現型の推測が可能であることを解明した。さらにECRS合併リスクが高い喘息患者は,FeNO値と嗅覚障害の有無を組み合わせることで高確率に抽出可能であることが判明した。引き続き、抗体治療の適応に関するバイオプレディクターの候補などに着目し、疫学データの収集と探索的な研究を継続している。
|
今後の研究の推進方策 |
1)鼻副鼻腔線毛上皮細胞における苦み受容体(T2R)の発現とNO産生を介した機能解析:自然免疫応答と線毛輸送機能の制御における苦味受容体(T2R)の機能的役割の解析を続ける。粘膜上皮細胞をALI条件下での分化誘導実験、並びに遺伝子導入を用いた線毛発生とNOを介した線毛運動制御機構の解析、苦味物質アゴニストの探索研究を予定している。線毛上皮細胞には、恒常的に発現するeNOSと、Type2炎症で誘導されるiNOSが存在している。NOはsGC-cGMP-PGK経路による線毛軸糸のリン酸化と細胞内Ca2+濃度上昇の二つの経路を介して線毛運動を賦活化し、生体防御と恒常性維持に寄与している。NOの下流に位置する経路のうち、cGMPは気管支喘息の重症化に伴って機能低下を示すことが知られている。 以上の観点に加え、臨床分野においても継続的な疫学データの収集と探索的な研究を継続する予定である。 2)慢性鼻副鼻腔炎症例における副鼻腔画像陰影の新たな定量解析手法の構築:副鼻腔CT画像陰影の評価には、Lund-Mackay スコアが広く用いられているが、客観性に欠けることが問題点として挙げられる。また陰影領域を定量的に評価することはできない。そこで客観指標であるCT 値を用いて軟部組織・空気・骨を区別し、各副鼻腔の体積や陰影率を定量的かつ客観的に解析可能か検討する予定である。AI補助下にプログラムすることにより臨床診断や重症度分類などに簡便に応用できる可能性がある。 3)下気道病変(気管支喘息)がECRS病態に及ぼす影響の解析と抗体製薬至適使用に関するバイオプレディクターの探索。引き続き呼吸器内科と共同研究で気管支喘息患者における副鼻腔炎と中耳炎の有無と、抗体製薬による喘息への治療介入がECRS重症度分類に及ぼす影響の解析を行う。臨床症状、検査値の改善効果などを収集し至適適応条件を解析する。
|