研究課題/領域番号 |
22K09680
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分56050:耳鼻咽喉科学関連
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
加納 嘉人 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 講師 (10633125)
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研究分担者 |
原田 浩之 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 教授 (40343149)
朝蔭 孝宏 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 教授 (50361481)
岡本 隆一 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 教授 (50451935)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2023年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2022年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | 頭頸部癌 / 免疫療法 / RASシグナル / オルガノイド / がんゲノム医療 / 薬物治療 / RAS標的治療 / 免疫チェックポイント阻害剤 / RAS-MAPK経路 / クリニカルシークエンス |
研究開始時の研究の概要 |
現在がんゲノム医療が実装化される一方で、難治性頭頸部癌においてその有用性は明らかではない。RAS遺伝子はヒトがんの中で最も高頻度に変異しており、近年有望な抗腫瘍効果を示す薬剤が報告され臨床への応用が期待されているものの頭頸部癌ではRAS遺伝子の治療的意義は明らかでない。本研究では頭頸部癌においてがんゲノム解析・新規腫瘍細胞培養法を駆使しRAS遺伝子に関わる分子に対する標的治療開発の可能性を探る。
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研究実績の概要 |
現在がんゲノム医療が実装化される一方で、その有用性を検討するためにはさらなるゲノムデータや標的治療のエビデンスの蓄積が求められている。RAS-MAPK経路はヒトがんの中で最も高頻度に変異しており難治癌にその変異が多くみられる。RASは長らく治療標的とするのが困難で「undruggable」とみなされてきたが、近年KRASG12Cといった特定の変異型に対しては阻害剤の開発が進み肺癌などでは効果を示している。しかしながらG12C変異は肺癌以外ではその変異頻度は低く、一般的な治療法とはなり得ていない。さらに他の変異型に関しては立体構造等からRAS自体を治療標的とすることはいまだに非常に困難であり、多角的なアプローチが必要である。近年申請者はRAS変異がんに対しホスファターゼであるSHP2の阻害が著明な抗腫瘍効果を示すことを報告し臨床への応用が期待されている。一方で扁平上皮癌を始めとした頭頸部癌ではRASの変異、増幅が報告されているもののその治療的意義は明らかでない。そのため本研究では難治性頭頸部癌に焦点を当て、ゲノムシークエンス解析を実施し網羅的な遺伝子プロファイリングデータを解析している。これまでに当院でゲノム解析を施行した50例以上の頭頸部癌に対する詳細な解析を行うと同時に、がんゲノム情報管理センター(C-CAT)に登録されている1000例以上の頭頸部癌症例の解析をおこない、扁平上皮癌と非扁平上皮癌では治療標的となる遺伝子や治療到達率が異なることを明らかとし論文報告している。 さらには頭頸部癌におけるRAS-MAPK経路が寄与する意義を明らかとし、抗EGFR抗体薬(セツキシマブ)などとの治療相関や、初代培養腫瘍オルガノイドを用いた基盤研究を行うことで、標的治療開発や予後予測を可能にするエビデンス獲得を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度の目標は、頭頸部癌における網羅的な遺伝子プロファイリング解析を行い、ゲノムシークエンスデータの蓄積にあった。当院における頭頸部癌54症例(扁平上皮癌34例、非扁平上皮癌20例)の解析が進められ、治療標的となりうる分子の候補が検討された。興味深いことに、扁平上皮癌と非扁平上皮癌では遺伝子プロファイリングが異なり、扁平上皮癌ではTumor Mutational Burden(TMB)高値に対する免疫チェックポイント阻害剤の効果が高いことが示された。非扁平上皮癌ではERBB2やNTRK変異が認められ、それぞれ標的治療が施行された。さらに、C-CATデータを用いた1000例以上の症例の同様な解析が行われ、日本人特有のデータが示されたと同時に、扁平上皮癌のTMB値、非扁平上皮癌でのERBB2やNTRK変異が当院のデータを裏付けるものであった(Noji R, Kano Y et al. Cancers 2022)。 リキッドバイオプシーを用いた治療前後の網羅的遺伝子解析により、抗EGFR抗体や免疫チェックポイント阻害剤施行例において治療抵抗性あるいは感受性に関係する遺伝子の同定が進められており、特にMAPKに関連する遺伝子群の変化が検討されている。パイロットとして10症例を目標にし、2023年度までに計10症例のエントリーが完了し、シークエンス解析が行われた。これらの結果は、米国臨床腫瘍学会総会(ASCO 2024)にて発表予定である。また、腫瘍オルガノイドライブラリーの作成準備も進められており、大腸癌ヒト検体を用いたオルガノイド樹立の手技が確立され、腫瘍微小環境との相互作用について詳細な解析結果の論文報告が行われた(Ogasawara N, Kano Y et al. iScience 2024)。今後はさらに頭頸部癌にこれを応用する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
リキッドバイオプシーの症例数が当初の予定に達し、ICIの反応性と遺伝子変異のシークエンシャルな変化のさらなる詳細な解析が行われる。リキッドバイオプシーと組織ベースのゲノムシークエンスとの比較が現在議論されており、本研究でも同一症例でのシークエンス結果について比較解析が行われる。今後は得られた知見を基に、頭頸部癌に限らずICI治療例において耐性あるいは感受性のバイオマーカー候補となる遺伝子変異の検討解析が行われる。C-CATのデータベースにて公開されているサンプルサイズは非常に大きく、頭頸部癌症例のゲノムデータが1000例以上蓄積されているが、当院でのデータベースでは目標のサンプルサイズに到達しないことが危惧される。C-CATでは治療効果などの項目が全て揃っていない場合が多く、遺伝子解析データと治療効果との相関を追えない可能性もあるため、第二の解決策として本学バイオリソースセンター(BRC)に蓄積されている検体から得られたゲノム情報を治療効果の観点から解析する方法が検討されており、2023年度はBRCデータを使用可能にする倫理申請が行われ、現在解析が行われている。約200例近くのシークエンスデータが得られており、RASシグナル関連遺伝子やSHP2とICIや抗EGFR抗体との治療効果との相関に関してさらなる解析が進められる。
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