研究課題/領域番号 |
22K09744
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分56050:耳鼻咽喉科学関連
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
前田 幸英 岡山大学, 大学病院, 講師 (00423327)
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研究分担者 |
高原 潤子 岡山大学, 医学部, 技術専門職員 (80448224)
大道 亮太郎 岡山大学, 大学病院, 助教 (20771299)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2024年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | マウス / 蝸牛 / 感覚上皮 / 自然免疫応答 / DNAマイクロアレイ / 次世代シークエンサー / リアルタイムPCR / 音響外傷 / 遺伝子発現 |
研究開始時の研究の概要 |
急性感音難聴の治療では一般にグルココルチコイド(ステロイド)が用いられるが、内耳(蝸牛)局所の病態においてステロイドが作用するメカニズムは不明である。当研究では、有毛細胞や支持細胞といった、感覚上皮を中心とする蝸牛組織において、音響外傷等による急性感音難聴発症時に自然免疫応答のメカニズムがどの様に制御されているか検討する。特にFkbp5やAtf3などの、ステロイドシグナリングや、免疫応答を制御する転写因子に関係する遺伝子発現を、急性感音難聴を発症するマウスの蝸牛において検討する。本研究の遺伝子発現解析は急性感音難聴の発症リスク・ステロイドの効果予測や、遺伝子治療モデルの開発に発展する。
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研究実績の概要 |
当研究では、感覚上皮(有毛細胞・支持細胞)などの蝸牛組織において、Fkbp5やAtf3をはじめとする、自然免疫応答に関係する遺伝子発現がどの様にコントロールされているか明らかにすると計画した。そこで2022年度にはまず、マウスの蝸牛組織から、微細な内部構造を剖出するための実験系を立ち上げた。当研究の分担者の大道亮太郎は2018年から2020年まで、米国アイオワ大学のMolecular Otolaryngology and Renal Research Laboratoriesで、マウスの蝸牛組織から、感覚上皮や有毛細胞を剖出する実験を経験してきたが、この時にもちいていたのとほぼ同じ機材(実体顕微鏡LEICA M205C)を我々の研究室に導入して実験系を再現した。2022年の秋までの段階で、未固定のマウスの蝸牛組織から内部構造を剖出する実験に成功し、例えばらせん神経節ニューロンのみを切り出して、DNA(クロマチンDNA)を抽出することなどが可能であった。 また、感覚上皮での遺伝子発現を検討するための準備として、マウス蝸牛組織全体から抽出したRNAを用いて遺伝子発現解析をおこなった。2022年度には強大音響暴露による難聴を発症した直後(3時間後)の、自然免疫応答に関係する遺伝子発現を検討した。これまでの先行研究で、難聴発症3時間後にはFkbp5の発現が増加すると、DNAマイクロアレイや次世代シークエンサーの実験で明らかにしていたが、これをより定量性の高いリアルタイムRT-PCRの実験で確認した。リアルタイムRT-PCRでは、難聴発症3時間後には、発症前にくらべてFkbp5の発現が約3倍に増加していた。(3.01±0.75 vs 1.02±0.22、P<0.01 by Mann-Whitney U-test)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書に記した当研究の目的は次のとおりである:音響外傷による難聴を発症するマウスを用いて、感覚上皮(有毛細胞・支持細胞)をはじめとする蝸牛組織で、自然免疫応答に関係する遺伝子発現がどの様にコントロールされているか明らかにする。免疫関連遺伝子Fkbp5やAtf3を中心に自然免疫応答やステロイドシグナリングに関係する遺伝子発現がどの様にコントロールされているか明らかにする。この際、難聴発症早期に3-12時間における、自然免疫応答のメカニズムに注目する。 この目的を達成する上でもっとも重要かつ困難なのは、蝸牛の微細な組織から感覚上皮を切り出し、遺伝子発現を検討する実験系を立ち上げることである。2022年度には我々の研究室で、実体顕微鏡を用いて蝸牛の内部構造を剖出する実験を滞りなく始めることができた。 次段階ではこの実験設備をもちいて、蝸牛感覚上皮で遺伝子発現解析を行うことを目標とするが、2022年度に難聴発症3時間後に、Fkbp5の発現が3倍に増加しているという予備データを得た。我々のこれまでの研究では、Fkbp5はマウス蝸牛組織のコルチ器、血管条、らせん靭帯、らせん板縁、らせん神経節などに広く発現している。したがって、感覚上皮での遺伝子発現解析でも、Fkbp5の発現変動が証明できるという見通しを立てることができた。また我々の研究室ではFkbp5ノックアウトマウスの飼育もつづけており、難聴発症3時間後の感覚上皮で遺伝子発現解析を行い、Fkbp5ノックアウトマウスと野生型マウスのデータを比較することもできる。以上のことより、2022年度末の段階で、当研究計画は当初の目標に沿って、おおむね順調に進展していると自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
当研究の目的は感覚上皮(有毛細胞・支持細胞)を中心とする蝸牛組織での、自然免疫応答のメカニズムを解明することである。この際、免疫関連遺伝子Fkbp5やAtf3に注目した解析を行うと計画した。今後の研究の方向性として、蝸牛の微細な構造から感覚上皮のみを剖出して、遺伝子発現解析(RNA-seq、DNAマイクロアレイ、リアルタイムRT-PCR)やクロマチン免疫沈降を行う実験系を確立することに力を注ぐ。2023年度以降には、まず2022年度までに我々の実験室で立ち上げた機材をもちいて、未固定の蝸牛から感覚上皮を剖出・収集する。組織からRNAを抽出してcDNAを合成して必要に応じて増幅する。そしてRNA-seqやDNAマイクロアレイによる網羅的遺伝子発現解析につなげる。同様の感覚上皮組織から、クロマチンDNAを抽出し、クロマチン免疫沈降による実験を行うことも考えられる。実験の遂行に必要な核酸サンプルの量から考え、網羅的遺伝子発現解析の方が実現しやすいと考えられるので、まず剖出した感覚上皮からRNAを抽出して、遺伝子発現解析を行う実験に着手する。 難聴を発症したマウスの感覚上皮からの遺伝子発現解析が可能になれば、発現遺伝子の機能をデータベース(David Bioinformatics Resources)で解析して、自然免疫応答に関係する遺伝子発現がどの様にコントロールされているか検討する。また、免疫関連遺伝子Fkbp5やAtf3やこれらに関係する遺伝子群の発現がどの様に変化しているか解析する。 さらに、以上の実験系をもちいてFkbp5ノックアウトマウスと野性型マウスでの遺伝子発現の違いを比較する。 感覚上皮での遺伝子発現解析が困難を極める場合には、蝸牛組織全体から抽出したRNAでの遺伝子発現解析を行い、変動する免疫関連遺伝子が、感覚上皮に発現していると組織切片上で示す方針に転換する。
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