研究課題/領域番号 |
22K09912
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分57010:常態系口腔科学関連
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
乾 賢 北海道大学, 歯学研究院, 准教授 (40324735)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2023年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
2022年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | 味覚嫌悪学習 / 記憶 / 視床下部外側野 / 接近行動 / 摂取行動 / 化学遺伝学的手法 / グルタミン酸性ニューロン / 摂食障害 / 味 |
研究開始時の研究の概要 |
「味の記憶」のメカニズムを解明するために,味覚嫌悪学習の中枢神経機構として,視床下部外側野の役割を調べる.視床下部外側野は興奮性と抑制性のニューロンを有し,それぞれが摂食の抑制と促進に機能する複雑な脳部位である.そのため,味覚嫌悪学習における視床下部外側野の役割についての知見は一致していない.そこで,化学遺伝学的手法によって興奮性ニューロンと抑制性ニューロンの活動を個別に制御し,申請者が開発した微細行動分析システムでその活動制御の影響を分析することで,視床下部外側野の役割を解明する.その知見によって視床下部の機能解明を進め,認知症や神経性食欲不振症における摂食行動異常の原因究明に貢献する.
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研究実績の概要 |
味覚嫌悪学習の想起における視床下部外側野のグルタミン酸性ニューロンの役割を調べることを目指した.野生型マウスの視床下部外側野にCaMKIIαをプロモーターとするアデノ随伴ウィルスベクターを注入し,興奮性人工受容体であるhM3Dqあるいは抑制性人工受容体であるhM4Diを発現させた.このマウスに人工甘味料であるサッカリン溶液を摂取させた後に体調不良を引き起こす塩化リチウムを腹腔内投与することで味覚嫌悪条件づけを施した.その後,3回のテストを行った.最初のテストではサッカリン溶液を再呈示してマウスが味覚嫌悪学習を獲得していることを確認した.2回目のテストでは,半分の個体には人工リガンドであるdeschloroclozapine(DCZ;50 μg/kg)を投与した(実験群).残りの個体には溶媒(1%DMSO含有生理食塩水)を投与した(対照群).投与の30分後にサッカリン溶液を呈示した.3回目のテストでは1回目のテストと同様にサッカリン溶液を呈示した.サッカリン溶液の呈示は全て独自に開発した微細行動分析システムで行った.このシステムでは摂取行動(以降Lickと表記)とシリンジへの接近行動(以降Entryと表記)を記録した.3回以上のLickが180ミリ秒以下の間隔で連続した場合をBurstと定義した.また,1つのBurstに含まれるLickの数をSizeと定義した.嫌悪が強いほどSizeが小さくなる.EntryについてはLickを伴う場合をEntry-Lickとし,Lickを伴わずにマウスがそのまま後退した場合をEntry-Stopと定義した.グルタミン酸性ニューロンの活動を亢進あるいは抑制しても条件刺激の摂取量やBurst sizeに有意な変化はみられなかった.しかし,活動を亢進した場合にEntry-Stop.すなわち摂取を躊躇する行動が有意に増大することが分かった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の予定通り,味覚嫌悪学習の想起における視床下部外側野のグルタミン酸性ニューロンの役割について,化学遺伝学的手法を用いて神経活動亢進および抑制の影響を調べる実験を行った.想定よりも早いペースでデータを集積することができている.また,研究計画時には予定していなかった1ビン法による摂取量測定実験を行った.これは,味覚嫌悪学習の実験を終えた後に,ホームケージにおいてDCZあるいは溶媒投与後に蒸留水あるいは塩化ナトリウム溶液を呈示する実験であった.この実験の目的は,グルタミン酸性ニューロンの活動を亢進あるいは抑制しても嫌悪性である条件刺激の摂取量が変化しなかったことから,摂取性である蒸留水や塩化ナトリウム溶液の摂取には変化が生じるかを調べることであった.これまでのところ,神経活動の亢進によって蒸留水や塩化ナトリウム溶液の摂取量は増加し,反対に抑制によって減少することが分かった.これらのことから,視床下部外側野のグルタミン酸性ニューロンの操作によって生じる摂取行動の変化は呈示される刺激の嗜好性に依存することが示唆された.
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今後の研究の推進方策 |
グルタミン酸性ニューロンの役割についての実験に関しては2年目の前半でさらに個体数を増やして,神経活動の亢進・抑制の影響について引き続き検討を行う.2年目の後半からは,視床下部外側野の GABA作動性ニューロンの役割を調べる.そのために既にVgat-Creトランスジェニックマウスを導入し,準備を開始している.この動物では,GABA作動性ニューロンにおいてのみCre組み換え酵素が発現する.Creが認識するLoxP遺伝子配列と人工受容体の遺伝子配列を持つウィルスベクターを用いて,視床下部外側野のGABA作動性ニューロンに興奮性あるいは抑制性人工受容体を発現させる.このマウスにおいて,これまでと同様に神経活動の亢進あるいは抑制の影響を微細行動分析システムを用いて調べる. また,これまでに行った追加実験において,視床下部外側野ニューロンによる味溶液摂取行動の調節はその嗜好性が影響する可能性が示唆されたことから,味覚嫌悪学習を経験していないnaiveな動物を用いて,グルタミン酸性あるいはGABA作動性ニューロンの制御が様々な味溶液の摂取行動に及ぼす影響を調べる.
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