研究課題/領域番号 |
22K09915
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分57010:常態系口腔科学関連
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
高井 信吾 九州大学, 歯学研究院, 助教 (30760475)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
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キーワード | 味蕾 / 糖 / GPCR / 栄養 / 味覚 / 栄養代謝 / オルガノイド |
研究開始時の研究の概要 |
我々は口腔内に存在する味蕾により食物の味を感じている。味感受性や味蕾の代謝は、全身の栄養状態に応じて逐次変化していると考えられる。これまでに、味蕾が味を感じるメカニズムに関しては研究が進んできたが、体内の栄養状態をどの様に感知しているのかは全く不明である。本研究では、細胞外の栄養状態を感知して細胞の代謝を制御する分子として知られるmTOR(mechanistic target of rapamycin)に着目し、味蕾におけるその働きを探索する。マウスを用いた動物実験や、味蕾を体外で培養するオルガノイドという技術を用いて、生体のエネルギー需要に呼応する味覚の調節機構を解明する。
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研究実績の概要 |
本研究計画は、味蕾における体内栄養情報の感知機構に着目して実験を開始した。研究を進める中で、体内栄養素のレセプターの候補として想定していたオーファンGタンパク質共役型受容体の一つであるGPRC5Cが、有郭乳頭味蕾、腸管、膵臓など、糖の受容に関わる臓器に比較的高発現することを見出した。免疫染色の結果、マウス有郭乳頭においてGPRC5CはII型味細胞、特に甘味受容体サブセットであるTAS1R3と高頻度に共発現していることがわかった。さらにマウスGPRC5C遺伝子をクローニングし、キメラGタンパク質(Gα16-gust44)とともに遺伝子導入したHEK293細胞を用いて細胞内カルシウム濃度アッセイを行った。その結果、遺伝子導入を行ったHEK293細胞では、単糖類(グルコース、フルクトース、ガラクトース)、二糖類(スクロース、マルトース)、糖アルコール(ソルビトール)刺激に対し一過性の強いカルシウム濃度上昇が観察された。一方、甘味を呈するアミノ酸(D-フェニルアラニン)や人工甘味料(SC-45647)には全く反応しなかった。興味深いことに、全てのカルシウム応答は、刺激溶液還流中ではなく、刺激終了後、一定のタイムラグをおいて開始することがわかった。このカルシウム応答は比較的長く続く応答であり、味覚受容体を含む既存の糖に対する応答とは全く異なるものであることが示唆された。本研究結果の一部を第101回日本生理学会大会、第65回歯科基礎医学会学術大会、日本味と匂学会第57回大会にて発表した。また、得られた結果を学術論文として発表した(The G protein-coupled receptor GPRC5C is a saccharide sensor with a novel “off” response:FEBS Lett. 2023 Aug;597(15))。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度、研究を進める中で腸管上皮や膵島α細胞、甘味感受性II型味細胞に発現するGPRC5Cが、糖に対し特異的に応答する可能性を見出し、共同筆頭著者、共同責任著者として国際誌に学術論文として投稿した(The G protein-coupled receptor GPRC5C is a saccharide sensor with a novel “off” response:FEBS Lett. 2023 Aug;597(15))。現在このレセプターのノックアウトマウスを申請者が所属する機関への導入が完了しており、繁殖および解析を開始している。また、成長や代謝を制御するシグナル伝達ネットワークにおいて中心的な役割を果たすセリン・スレオニンキナーゼであるmTORを薬理学的に阻害したマウス有郭乳頭味蕾のRNAシークエンスを行い、多数の遺伝子発現が変化していることを確認した。注目すべきことに、この発現変動遺伝子の中には、特定の味覚受容体をコードする遺伝子が含まれていることがわかった。当初の予想とは異なる結果ではあるが、この結果はmTORが末梢味覚器において特定の味覚受容体の発現をコントロールしていることを示唆しており、この点に関しては次年度以降に詳細な解析を行っていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
本年度、学術論文(The G protein-coupled receptor GPRC5C is a saccharide sensor with a novel “off” response:FEBS Lett. 2023 Aug;597(15))にて発表したGPRC5Cの応答特性は、HEK293細胞の強制発現系を用いた実験では、糖刺激を取り除いた後に応答が見られるという特殊な応答特性であった。この応答特性をもたらす要因は何なのか、同様の実験系を用いてより詳細に探っていく。また、現在このレセプターのノックアウトマウスを導入し、生化学的解析、また味覚生理学的解析を始めている。GPRC5Cが糖の受容に関わるのであれば、動物の糖摂取行動や味応答の調節に寄与している可能性がある。また、GPRC5Cは味蕾以外にも腸管や膵臓にも発現していたため、膵島α細胞、腸管内分泌細胞の機能にも着目し、解析を進める。これとは別に、ラパマイシン投与マウス有郭乳頭味蕾のRNAシークエンスの結果から、いくつかの味覚受容体、また細胞の代謝に関わる遺伝子の発現変化が認められた。これまでに栄養代謝シグナルと味覚受容体発現の直接のクロストークを示した知見はなく、極めて興味深い結果であると考えている。今後このモデルマウスの味覚における電気生理学的解析、味覚行動応答および味覚受容体遺伝子発現調節メカニズムの遺伝学的解析を行っていきたいと考えている。
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