研究課題/領域番号 |
22K09931
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分57020:病態系口腔科学関連
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
藤原 恭子 日本大学, 歯学部, 准教授 (40595708)
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研究分担者 |
井上 聡 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所), 東京都健康長寿医療センター研究所, 研究部長 (40251251)
高山 賢一 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所), 東京都健康長寿医療センター研究所, 専門副部長 (50508075)
長崎 瑛里 日本大学, 医学部, 研究医員 (70845354)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | ポリエチレングリコール / 口腔がん / TP53 / p53 |
研究開始時の研究の概要 |
土壌微生物由来の新規ポリエチレングリコール化合物PEG-Xは、ミトコンドリア呼吸の阻害により腫瘍細胞の細胞死を誘導する。最近我々は、PEG-Xががん抑制遺伝子TP53に変異のある細胞に対し特に強い毒性を示すことに気づいた。70%以上の口腔がん細胞がTP53の変異を持つこと、TP53変異細胞は既存の抗がん剤や放射線療法が効きにくいことから、PEG-Xは有効で副作用の少ない新規の抗がん剤として非常に有望である。本研究では、PEG-XがTP53変異型細胞特異的に毒性を示す分子機序を解明し、さらに有効ながん治療法の開発を目指す。
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研究実績の概要 |
土壌微生物由来の新規ポリエチレングリコール化合物PEG-Xは、酸化的リン酸化(OXPHOS) を阻害する機能があり、これにより細胞のATP産生を抑制し、腫瘍細胞の細胞死を誘導する。PEG-Xはがん抑制遺伝子TP53に変異のある細胞に対し特に強い毒性を示すが、70%以上の口腔がん細胞がTP53の変異を持つことから、副作用の少ない新規抗がん剤候補と考えられた。そこで、PEG-XがTP53変異型細胞特異的に毒性を示す分子機序を解明することを目的として研究を行っている。 令和5年度は、TP53野生型の細胞株のTP53をノックダウンまたはノックアウトすることで、PEG-Xへの耐性が変化するか検討を行った。TP53野生型の舌癌細胞株であるUM-SCC6にsiRNAを導入してTP53の発現を抑制し、PEG-X投与後の生存率を調べたがところ、コントロールsiRNAを導入したものと比べて、ほとんど差が見られなかった。確認のため、口腔癌細胞株以外のTP53野生型細胞であるMCF7(乳がん細胞) やSW48(大腸がん細胞)を用いてPEG-Xへの耐性を調べたが、UM-SCC6と同様に、TP53ノックダウンとコントロールの間で顕著な差は見られなかった。 一方、すでに変異TP53変異を持っている腫瘍細胞株と、野生型の腫瘍細胞株を比較すると、PEG-XによるATP濃度や生存率の低下が前者で明らかに高いことが確認できている。この祖語の原因として、TP53の発現低下により直接変化する分子ではなく、TP53の発現低下状態が長期的に続いた場合に出現する変化が、PEG-Xへの感受性に影響を与えている可能性が考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
令和5年までに、呼吸鎖複合体I以外のPEG-Xの標的を探索し、これらの標的に対するPEG-Xの作用がTP53変異の有無で異なるか検討する予定であったが、その解析を行う上で、バックグラウンドを均一にするためにTP53野生型の細胞株で、TP53をノックダウンまたはノックアウトした系で実験を行ってみたが、PEG-Xへの感受性の向上がみられず、仮説自体を考え直す必要がある可能性が出てきた。そこで、PEG-Xへの感受性はTP53の直接の下流ではなく、TP53の活性が低下した状態が長期的に続くことで変化する何らかの因子によって左右される可能性を考え、データベース解析により、そのような因子のスクリーニングを試みた。具体的には、TCGAに登録されているがん細胞株関連のデータを用い、TP53変異型とTP53野生型の細胞株の間で発現の異なる遺伝子を抽出した。これらの遺伝子のうち、複数のがん種で共通して変化しているものを絞り込み、5.に記した内容の解析を行うこととした。TP53の発現が低下した状態で長期培養した際にPEG-Xへの感受性が獲得される場合、その変化はゲノムDNAのメチル化などのエピジェネティック変異である可能性も考えられるため、そのような変異についてのスクリーニングも検討している。このように、当初の計画と大幅に変更があり、またPEG-Xの感受性に関係する遺伝子が同定できていないため、予定より遅れていると判定した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでにsiRNAを用いてTP53野生型細胞でTP53のノックダウンを行い、その直後からPEG-Xを投与して生存率やATP濃度の定量を行うことで、PEG-Xへの感受性を調べてきた。しかしながらTP53ノックダウン細胞とコントロールの間に差が見られなかったため、今年度はTP53ノックダウン後に数日間培養を行った後、PEG-Xへの感受性を検討する。この手法によりTP53ノックダウン後のPEG-Xへの感受性が向上した場合は、データベース解析で絞り込んだTP53下流遺伝子の関与を検討する。具体的には、TP53野生型細胞でTP53をノックダウンした後、候補遺伝子の発現レベルが変化するかreal-time PCR等で検討する。更に、これらの遺伝子の発現をノックダウンまたは過剰発現させた際に、TP53野生型細胞のPEG-Xへの感受性が変化するか検討を行う。これらの実験により、PEG-Xへの感受性の変化が確認できた場合は、さらにその作用機序を解析するために、候補遺伝子の発現を変化させた細胞で呼吸鎖複合体Iの活性が変化するか検討する。また、ミトコンドリアの形態への影響、細胞死や細胞増殖に関連する分子の発現パターンについても検討を行う。加えて、TP53ノックダウンがエピジェネティックな変異が起こり、その結果候補遺伝子の発現が変化する可能性についても検証する。具体的には、候補遺伝子の近傍にCpGアイランドが存在する場合に、それらのメチル化レベルがTP53のノックダウンまたは過剰発現によって変化するか検討を行う。以上の解析を通じて、TP53の下流にあり、TP53変異細胞特異的なPEG-Xの薬効に関与する分子の同定を試みる。
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