研究課題/領域番号 |
22K09978
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分57030:保存治療系歯学関連
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
多田 浩之 東北大学, 歯学研究科, 講師 (70431632)
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研究分担者 |
坂東 加南 東北大学, 大学病院, 助教 (20772198)
松下 健二 国立研究開発法人国立長寿医療研究センター, 研究所 口腔疾患研究部, 部長 (90253898)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | 慢性歯周炎 / Porphyromonas gingivalis / ジンジパイン / 好中球細胞外トラップ / 血液脳関門 / 認知機能 / 歯周病 / アルツハイマー病 / 歯周病原細菌 |
研究開始時の研究の概要 |
歯周病に罹患するアルツハイマー病(AD)患者の脳には、歯周病原細菌Porphyromonas gingivalisが蓄積することが明らかにされ、歯周病とADは密接に関連する。一方、感染に際して好中球が産生する好中球細胞外トラップ(NETs)はADを悪化させることが示唆されている。 歯周病罹患者の歯周ポケットにはP. gingivalisを含む歯周病原細菌が常在し、集積する免疫細胞の大多数は好中球である。本研究は、歯周病におけるP. gingivalisならびにNETsによる血液脳関門のバリア破綻機構について研究を行う。
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研究実績の概要 |
Porphyromonas gingivalisは歯周病の病態形成に深く関わる歯周病原細菌であり、プロテアーゼであるジンジパインは主な病原因子である。口腔の免疫細胞の約8割を占める好中球は、細菌を貪食することで病原細菌を破壊するが、感染が重度になると好中球自身の細胞内容物である好中球細胞外トラップ(neutrophil extracellular traps; NETs)を放出する。NETsは殺菌成分を含むことで捕捉した病原細菌を破壊する感染防御機構だが、過剰なNETs放出は慢性炎症や粘膜バリアを破壊する。歯周病に罹患するアルツハイマー病罹患者の脳にはジンジパインが蓄積するが、P. gingivalisによるジンジパインを介する血液脳関門破綻および脳機能障害の機序は不明である。本研究は歯周病におけるジンジパインとNETsが血液脳関門を突破し、脳機能に影響を及ぼす可能性について検討した。 令和5年度は歯周病マウスモデルを用いて、歯肉におけるNETsが脳へ移行する可能性について検討した。臼歯の絹糸結紮による歯周炎モデルマウス(LIPマウス)の口腔にP. gingivalisを感染させると、ジンジパインにより歯肉でNETsが放出され、炎症性サイトカインmacrophage migration inhibitory factor (MIF)が検出された。令和4年度の実績より、同マウスは認知機能が低下したことから、海馬におけるマイクログリアとアストロサイトを検出した結果、P. gingivalis口腔感染LIPマウス海馬のマイクログリアとアストロサイトが、ジンジパイン依存的に増加した。以上の結果から、歯周病の炎症歯肉においてP. gingivalisはジンジパインによりNETs放出を誘導し、同NETsは血液脳関門を突破して海馬を傷害し、認知機能の低下に至る可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和5年度の研究計画に基づき実験を実施した結果、次の研究成果が得られた。 LIPとP. gingivalis口腔感染の併用により歯肉に誘導されるNETs放出をシトルリン化ヒストンH3 (citH3)発現で評価した結果、LIPマウス歯肉にP. gingivalisを感染させることで、歯肉のcitH3発現が著明に亢進することを見いだした。加えて、citH3発現亢進はP. gingivalisジンジパイン欠損株では消失した。以上の結果から、歯肉の好中球はジンジパインの刺激を受けてNETsを放出することが示唆された。同マウス歯肉では、NETsとともに炎症性サイトカインであるMIFも同様に検出された。MIFは炎症反応の初期を担う重要なサイトカインであり、先行研究の知見から脳機能障害に関わる可能性が示唆される。また、P. gingivalis口腔感染LIPマウスの海馬におけるマイクログリアならびにアストロサイトの局在をIba-1ならびにGFAPを指標として解析した結果、ジンジパイン依存的に双方の細胞数の増加が観察された。 以上の研究成果から、LIPマウス口腔に感染させたP. gingivalisは脳に移行し、海馬においてジンジパインはNETsとともに炎症を誘導した可能性が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は次の研究計画の実施を予定している。 P. gingivalis口腔感染LIPマウスの歯肉におけるNETs放出の亢進により、NETsが血液脳関門のバリア機能を破綻させる可能性について、血液脳関門のバリア機能評価に広く用いられているヒト脳毛細血管内皮細胞株hCMEC/D3を用いた検討を行う。血液脳関門のバリア機能はタイトジャンクションにより担われており、claudin-5は脳毛細血管内皮細胞におけるタイトジャンクションの主要な機能を担う。P. gingivalisの刺激によるhCMEC/D3のclaudin-5発現低下の可能性について検討する。また、P. gingivalisにより放出されたNETsが血液脳関門のバリア機能を破綻させる可能性について、sodium fluorescein透過試験ならびにtrans endothelial electrical resistance試験により検討する。
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