研究課題/領域番号 |
22K10186
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分57060:外科系歯学関連
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
田村 潔美 北海道大学, 歯学研究院, 助教 (90399973)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | 血管申請 / 転写調節 / 腫瘍 / 動脈硬化症 / 血管 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、Foxo1によるTAGLNファミリーの転写調節を介した血管伸長の調節メカニズムを明らかにする。また腫瘍血管におけるFoxo1とTAGLNの役割を同定し、相互作用による腫瘍血管の正常化の可能性を示す。令和4年度は、ヒト初代血管内皮細胞培養系を用いて、Foxo1によるTAGLNの転写調節のメカニズムを明らかにする。令和5年度は、血管蛍光発現ゼブラフィッシュを用いて、胎生期の血管発生におけるFoxo1とTAGLNファミリーの役割を解析する。令和6年度は、動物腫瘍モデルを用いて、腫瘍血管におけるFoxo1とTAGLNファミリーの相互作用、また腫瘍血管正常化における役割を解析する。
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研究実績の概要 |
抗癌剤を腫瘍に浸透させ十分な薬効を得る上で、腫瘍血管の脆弱性は大きな課題である。そのため腫瘍血管を正常化させることで抗癌剤の到達性を改善させる戦略が提唱されているが、その分子機構は不明である。私は、血管形成において必須のプロセスである血管内皮細胞の伸長機能に、転写因子FOXO1が重要な役割を果たすことを報告している(J Cell Sci.vol 129,p1165 -1178,2016)。また、これまで平滑筋細胞分化マーカーとして知られているTAGLN(SM22)が、血管内皮細胞の伸長に伴い発現し伸長機能の抑制に関与することを報告した(J Cell Sci.vol 134,jcs254920,2021)。本研究では、細胞培養系と動物実験系を用いて、FOXO1によるTAGLNの転写調節メカニズムを介した血管伸長の調節機構を明らかにし、さらに、腫瘍血管におけるFOXO1とTAGLNの役割と相互作用を解析し、腫瘍血管の正常化における可能性を検討する。 本年度は、主にヒト初代血管内皮細胞(HUVEC)の培養系を用いた解析を行った。TAGLNにはTAGLN2とTAGLN3のアイソフォームが存在し、以前の研究において、3つのアイソフォームは機能的に重複しており、いずれも血管内皮細胞の伸長機能の抑制に働くことが判明している(J Cell Sci.vol 134,jcs254920,2021)。そこでTAGLNの3つのアイソフォームについて、FOXO1発現のノックダウンによるmRNA発現の変化、またそれぞれのプロモーターにおけるFOXO1の転写活性への影響を解析した。これらの解析により、FOXO1が、TAGLNの3つのアイソフォームの全ての転写調節に直接関与する可能性が得られた。また本年度は、血管細胞の静止状態を破壊し、病的血管形成の誘因となる成長因子のスクリーニングを行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヒト初代血管内皮細胞(HUVEC)の培養系を用いて、siRNAを用いたFOXO1のノックダウンを行い、FOXO1発現の欠損におけるTAGLNの3つのアイソフォームの発現変化を検討したところ、TAGLNの3種全てのアイソフォームの遺伝子発現は、FOXO1のノックアウトによって増加することが明らかになった。また、ヒトTAGLN、TAGLN2、TAGLN3のプロモーターのコンストラクトを作成し、レポーターアッセイを用いてプロモーター活性を同定した。さらに、FOXO1による、これらのプロモーターの転写活性の変化を解析した結果、TAGLNの全てのアイソフォームの転写活性は、FOXO1の導入により抑制されることが明らかになった。一方、コンセンサス配列への結合機能を消失したFOXO1変異体は、野生型FOXO1とは異なり、TAGLN1,2,3-プロモーターの転写活性を抑制しないことから、FOXO1はTAGLN遺伝子への直接的な相互作用を介して転写制御を行うと考えられる。 血管細胞は通常静止状態を保ち血管の恒常性を維持しているが、動脈硬化症では血管細胞が活性化される。動脈硬化は年齢と共に進行するため、ほとんど全ての成人がある程度の症状を持っており、また腫瘍の発生に関与し、抗がん剤治療の効果を低下させる。マウス株化血管内皮細胞と血管平滑筋細胞を無血清コンフルエントで培養することで静止状態を誘導し、成長因子・サイトカインを投与し、静止状態を破壊できるかどうか観察した。検討因子の多くは血管細胞の増殖に影響を持つものであったが、bFGFだけが血管平滑筋細胞の静止状態を破壊し脱分化と増殖を誘導した。この作用はヒト血管平滑筋細胞でも確認される一方、血管内皮細胞では見られなかった。血管平滑筋細胞の増殖は動脈硬化初期の重要所見であり、今回の結果は、bFGFが関与している可能性を示唆している。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、血管内皮細胞特異的にmCherryを発現するトランスジェニックゼブラフィッシュ系統を用いて、発生期の血管発生におけるFoxo1とTAGLNアイソフォームの役割を解析する。 ゼブラフィッシュ成魚の交配により受精卵を得て、FOXO1またはTAGLNアイソフォームのモルフォリノオリゴヌクレオチド(MO)を胚にインジェクションすることで遺伝子発現のノックダウンを行い、血管発生における構造変化を観察する。また、これらのモルファントにそれぞれFOXO1とTAGLNのmRNAを注入することにより、モルファントの形質がレスキューされるかどうかを検討することでFOXO1とTAGLNの血管における機能を同定する。さらに、FOXO1とTAGLNアイソフォームのMOまたはmRNAを共注入し、FOXO1モルファントの形質がTAGLNの変化によって回復するかどうかを観察し、FOXO1とTAGLNの相互作用を明らかにする。
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