研究課題/領域番号 |
22K10235
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分57070:成長および発育系歯学関連
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
山方 秀一 北海道大学, 歯学研究院, 助教 (70292034)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2025年度: 130千円 (直接経費: 100千円、間接経費: 30千円)
2024年度: 130千円 (直接経費: 100千円、間接経費: 30千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2022年度: 2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
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キーワード | エナメル質 / ランタノイド / 蛍光 / ナノ粒子 / 錯体 / マイクロ波 / 矯正装置 / ボンディング材 / 希土類元素 / 大気圧低温プラズマ |
研究開始時の研究の概要 |
矯正歯科治療では、器具装着時には接着前処理を、撤去時には接着剤の削除を行うため、歯の表層(エナメル質)に損傷が起こることもあります。これを回避するために、プラズマを利用してエナメル質を傷つけることなく接着を強める研究や蛍光を発する接着剤を作ることで安全に削り取れるようにする研究を行っています。 この研究課題では、環境負荷が低い物質の利用とマイクロ波化学の応用によって、研究内容をさらに展開させていくことを目的としています。
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研究実績の概要 |
矯正歯科治療に用いるマルチブラケット装置の撤去後には、歯の表面(エナメル質)に残った透明または白色の接着剤を削り取る必要がある。その際、ある程度のエナメル質損傷は避けられないとされている。当該研究課題では、エナメル質損傷を低減・回避できる矯正歯科治療法の構築を目指し、削り取るときだけ「見える化」できる蛍光ボンディング材の開発に向け、優れた蛍光特性を持つユウロピウムの応用に着手している。1) ユウロピウム-β-ジケトン錯体[Eu(DBM)3Phen]または2) 均一沈殿法で合成するユウロピウム賦活イットリア(Y2O3:Eu3+)微粒子を歯科用レジンの基材(ベースモノマー)として一般的なビスフェノールA・グリシジルメタクリレート(Bis-GMA)、ウレタンジメタクリレート(UDMA)、トリエチレングリコールジメタクリレート(TEGDMA)と複合してボンディング材とするという開発研究を2ルート同時に実施している。 第2年度では光物理特性および機械的特定に及ぼすモノマー(UDMA、TEGDMA)混合比の影響に関する検証実験を追加実施し、投稿論文受理までの成果を得ることができた。具体的には以下のとおりである。 重合体の蛍光強度は重合収縮率との間に相関はなく、肉眼的にはベースモノマー混合比によらず非常に強く鮮やかであったが、統計学的にはUDMA:TEGDMA比4:1の試料は同1:1および2:1の試料より有意に強度が低いことを確認した。これについては、モノマーの粘度が高いほど微細な気泡を含みやすく、望ましくない拡散反射によって量子収率が低下すると判断した。各重合体試料の光退色に関しては論文にデータを組み入れられなかったが、現在も検証実験を継続中である。重合体の強さ特性に関しては、モノマー混合比によらず曲げ弾性率には統計学的有意差がないことも確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
第2年度までに①Eu(DBM)3Phenとジメタクリレートをベースモノマーとするボンディング材との相性に高い実用的可能性を見いだせている点、②ベースモノマー混合比が蛍光特性および機械的特性に及ぼす影響についての基礎的データが得られている点、③ほぼ可視光域に近い395 nm付近に励起極大波長を持つユウロピウムに有用性を見い出せた点、④重合体試料の作製が高い品質管理を保って可能となっている点、⑤光退色の影響に関する検証が順調に進んでいる点などに鑑み、進捗状況は次年度の研究実施に向け順調な段階にあると考えられる。また、既に1編の投稿論文が受理されたことは、第3年度内に光退色に関する知見を論文にまとめるうえでも大きな成果であったと考えている。 蛍光ボンディング材の開発においては時間や環境による各種特性の変化に関する実験、ユウロピウム-β-ジケトン錯体[Eu(DBM)3Phen]含有ジメタクリレート重合体に対する光退色に関する実験ならびに均一沈殿法へのマイクロ波技術の応用によるユウロピウム賦活イットリア(Y2O3:Eu3+)微粒子の合成に関する実験、大気圧低温プラズマの応用においては牛歯エナメル質の表面化学結合の分析ならびに剪断試験による接着強さの評価を開始するための理論的準備が整っており、次年度の研究実施に向けて順調な進捗状況にあると考えられる。 これらのことから、研究期間全体を通して予定どおりの成果が得られる見込みであると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
まず、これまでの研究成果に基づき、UDMAとTEGDMA共重合体の光退色に関する実験を最優先で取り組む。続いてBis-GMAおよびUDMA、TEGDMA共重合体を用いた実験に移行する。このための、疑似口腔環境で長期経過させた試料の蛍光特性、透明度、接着強さ等の実験の構想については概ね具体化できているが、適宜修正を加えながら実験の実施計画を策定していく。これらの進捗次第で、牛歯エナメル質への接着強さに関する実験を実施する予定である。なお、蛍光体にはこれまでどおりEu錯体[Eu(DBM)3Phen]およびY2O3:Eu3+微粒子の両方を用いることとし、両研究ルートを並行して進める予定である。特に第3年度ではマイクロ波技術を用いたY2O3:Eu3+微粒子の合成にも注力することとなるため、タイトな実験計画を組む必要があると考えている。 窒素ガス大気圧低温プラズマによる表面改質については、XPSによる牛歯エナメル質試料表面の化学結合状態の解析ならびに接着強さに関する剪断試験、引張試験を行う。また、エナメル質表面の疎水化処理に関しては、これまで八フッ化プロパン(C3F8)ガス大気圧低温プラズマの利用を考えてきたが、CO2の8,000倍近いとされる地球温暖化係数(GWP)を看過することはできないため、CO2よりもGWPが低く、かつ、大気中での反応性や毒性も低い六フッ化プロペン(C3F6)をフッ素ラジカルの代替供給源として着目し、ラジカル生成効率および危険性の両面から評価を開始する予定である。これは、ブラケット接着後に周囲エナメル質を疎水化することで細菌叢吸着の抑制、耐酸性の向上を試みる実験として位置付けられる。 当該研究課題の研究期間全体を通して得られる成果を、その先の展開領域へとつなげる戦略的検討を行っていく予定である。
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