研究課題/領域番号 |
22K10608
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分58040:法医学関連
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
小谷 泰一 三重大学, 医学系研究科, 教授 (20330582)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
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キーワード | 虐待による乳幼児突然死 / ベイジアンネットワーク / 児童虐待 / 臨床予測モデル / 乳幼児突然死予防 / 虐待による乳幼児頭部外傷 / 乳幼児突然死 |
研究開始時の研究の概要 |
虐待による乳幼児頭部外傷は揺さぶり・殴打等の虐待で生じた頭部外傷の総称である。虐待の早期発見が予防や予後改善には肝要だが、4人に1人は見逃され、10人に1人が死亡している。一方、他の医学領域では臨床予測モデルが発展している。そこで、法医学教室に集積された症例の詳細な情報を用いてベイジアンネットワークを構築することで虐待の早期発見に資する臨床予測モデルを開発することにした。学習データには既存自験例と文献・医療統計データを、検証データには新たな自験例を用いる。有効なモデルが開発されれば、被害児および精神的ケアを必要とする養育者に対して早期に医療・福祉的介入が可能となり防止や予後改善を期待できる。
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研究実績の概要 |
本研究は“虐待による乳幼児頭部外傷(Abusive Head Trauma, AHT)”の数理統計学手法を用いた予防法開発を目指している。AHTの発症を予測したり診断することは困難であるが、虐待は初診時に見逃すと後日、命にかかわる事象が発生する確率が高い。一方、周産期や1ヶ月健診時の問診データを利用することで、その子どもが虐待されるリスクを予測できれば、その発症予測値、発症に寄与するリスク要因、そしてその予防法を育児指導に利用でき、虐待予防に繋がる。そこで、本研究では、ベイズ理論を基盤とした数理統計学的手法を用いて、その児に合わせた予防法を提示するAHT発症・発見予測モデルの構築を試みている。 モデル構築には、児童虐待例のリスク要因を学習データとして利用する必要があり、本研究では児童虐待の疑いで児童相談所に一時保護され、当施設に法医学鑑定を依頼された児に関する情報を利用している。研究初年度では、2020年8月以降に当施設に依頼された児童相談所一時保護児童すべての記録を後方視的に解析し、虐待の早期発見や発症予測に有用と考えられる要因の抽出・ワークシートデータ作成・要因カテゴリ化を実施した。抽出した要因は年齢・性・きょうだいの有無・出生時体重・妊婦健診受診歴・乳児健診受診歴・養育不全カテゴリ・虐待の種類・家族構成・養育者自身の虐待歴/DV歴/離婚歴等である。そして、研究2年目からは、これらのデータをさらに強化する目的で、新たに保護児童家庭のジェノグラム解析、養育者性格傾向の解析を進めている。この新たな2つの解析項目は本研究の特徴の1つである。 また、児童相談所鑑定で得られた知見を基盤とした児童虐待に纏わる一般論を招待講演で紹介したり、本研究の前段階として遂行してきた“乳児突然死予防に資する診断・発症予測モデル構築”の研究成果を国際雑誌、和文雑誌、学術集会で報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本研究では、次の3つのstepによる研究遂行を計画した。Step 1:自験例を学習データとしてベイジアンネットワークを構築する、Step 2:文献・医療統計を用いて学習データ数を増加させることで確率分布を更新する、Step 3:新たな臨床症例を検証データとして用いてモデルを検証する、の3 stepである。 Step 1での自験例には研究代表者の前任地での経験症例を利用する予定であった。しかしながら、代表者の現在赴任地の児童相談所一時保護児童症例が想定以上に多く、また、それらの症例からは前任地症例よりモデル構築にとって質の良い情報が得られることに気づいた。そのため、当初の予定を変更し、現赴任地の新たな症例のデータをワークシートに纏め、モデル構築用にカテゴリ化できた時点で、AHTの発症・発見予測を実行できるベイジアンネットワークを構築することにした。そして、初年度にはそのデータのワークシート化が概ね完了した。しかしながら、各児童相談所症例に関する膨大な印刷テキストデータから必要かつ適切なデータを抽出することを試みたために、当初の計画よりやや遅れてしまった。そして、この解析時にこの児童相談所症例からは、モデルの精度をさらに高めると考えられる一時保護児童の家族構成(ジェノグラム)や養育者の性格傾向が抽出できることがわかった。そこで、2年目はこのデータの収集を試みたが、データ収集・ジェノグラム作成・性格傾向調査、そしてこれらの解析が予想以上に難航したために、当初計画より進捗が遅れている。しかしながら、これまでのデータ収集や解析は、計画当初よりも精度の高い研究成果を導くためにはむしろ必要な研究段階であったと考えられる。 これまでに抽出、或いは、抽出中の内容は新たな研究成果として発表できる可能性もあり、今後さらに探索を進める予定である。
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今後の研究の推進方策 |
研究業績の概要や現在までの進捗状況で前述したように、児童虐待の早期発見・発症予測を可能とするベイジアンネットワークの構築に必要なデータとして、現赴任地の児童相談所一時保護児童の情報を前任地のデータに加えて収集し、現在も解析を進めている。次年度前半では、その中でも保護児童の家族構成(ジェノグラム)と養育者性格傾向のデータをモデル構築に利用できる精度のものに完成させる。そして、これと並行して、或いは、次年度後半には文献や公表されている臨床統計からモデル構築に利用可能なデータを収集し、学習データ用にカテゴライズなどを施す。そして、児童相談所症例のデータ解析をひな形としてAHT発症を予測するベイジアンネットワークモデルを作成し、前任地データや文献・公表臨床統計データでモデルの精度をより高いものとする。また、児童相談所症例のデータ解析結果を学会や講演などで報告することを目指す。 なお、他大学の留学生やビッグデータを用いて児童虐待に関するモデル構築を試みている研究者との連携を2年目から開始した。また、代表者の教室には大学院生が未だ不在であるが、医学部生が本研究への参加を希望している。今後は、これらの共同研究者とさらなる連携を進めることで、これまでの遅れを取り戻すべく研究活動を促進させる。
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