研究課題/領域番号 |
22K10615
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分58040:法医学関連
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研究機関 | 和歌山県立医科大学 |
研究代表者 |
野坂 みずほ 和歌山県立医科大学, 医学部, 講師 (00244731)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2023年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | 深部静脈血栓塞栓症 / 熱ショック蛋白質 / 血栓陳旧度 / 熱ショック蛋白 |
研究開始時の研究の概要 |
深部静脈血栓におけるHSP27及びHSP70についての免疫組織化学的検索や,タンパク質や遺伝子発現の解析結果から,これらの血栓内における病態生理学的役割とメカニズムを明らかにし,さらには法医学分野への応用を目指す.最終的には,HSPに関わる分子の動態を指標とした血栓の発症時期を推定する方法の開発と,その法医診断学への応用の可能性を検討するものである.したがって,本研究は下大静脈結紮による深部静脈血栓塞栓症モデルを用いた基礎的データの収集および陳旧度に伴う血栓内のHSPの病態生理学的役割とメカニズムの解析と,それに基づいた剖検例への応用の可能性についての検討から成る.
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研究実績の概要 |
深部静脈血栓症(DVT)は今後さらに増え続けることが予想され,それに伴い,剖検時に深部静脈血栓が発見される例や,その血栓が死因や死後経過時間推定に重要な意味を持つ場合が増加することが予想される.そこで重要な課題となるのが血栓陳旧度判定指標である.本研究課題では,実験用マウスの下大静脈(IVC)結紮によるDVTモデルを作成し,その血栓中の熱ショック蛋白質(heat shock protein: HSP)の動態を捉えることにより,新たな血栓陳旧度判定指標の確立を目指して研究を遂行した. 実験用マウスの下大静脈結紮から1~21日後の血栓を研究対象とし,これらの血栓の断面組織標本について,抗HSP27,抗HSP70抗体それぞれを用いた免疫組織化学的染色像から陽性細胞数を計測し,これらの血栓内における動態を評価した. 人体においてHSPは様々な疾患との関連が次々に明らかにされている. 本研究課題により,HSP27及びHSP70の深部静脈血栓における局在や動態と,血栓陳旧度との関連性を明らかにし,血栓陳旧度判定のための新たな指標の有用性が示唆する結果を得た.血栓中のHSP27及びHSP70の陽性細胞は,IVC結紮後3~5日以降の全ての血栓について観察され,その後10日目をピークとして増加傾向を示したが,14日目以降はともに減少傾向を認めた.血栓中における両者の遺伝子発現も陽性細胞数の変化と同様の傾向を認め,10日目をピークとして増加し,14日目以降では減少した.また蛍光二重染色の結果,血栓内の両者の主な産生細胞はF4/80陽性マクロファージであることが明らかとなった. 今後はさらにこれらの結果から,血栓中の両者の生理機能を解明することにより,血栓陳旧度推定法の確立を目指すことを目的とし,血栓の発症時期を推定する方法の開発と法医実務への応用の可能性を検討する.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに,血栓形成・溶解過程におけるメカニズムの解明を目指して,様々な因子について急性期から慢性期までの血栓においてその動態を明らかにしてきた.同時にヘマトキシリン・エオジン染色像やマッソン・トリクローム染色像により,血栓の形態学的検索を行ってきた.白血球(好中球,マクロファージ)や細胞外基質分解酵素群(MMP-2,MMP-9),ウロキナーゼ型および細胞型プラスミノーゲン活性因子(uPA,tPA),サイトカイン,ケモカイン(IFN-gamma,TNF-alpha,TNF-Rp55,IL-6,CCR5,CX3CR1),またそれらの受容体,骨髄由来線維細胞(fibrocyte),血管内皮前駆細胞(EPC)などの血栓内の局在を解明するために,免疫組織化学的染色または蛍光二重染色を,用手法ならびに,自動免疫染色装置を用いて行ってきた.特に,自動免疫染色装置を用いることにより,陽性領域や陽性細胞数の変化について,より定量的な評価を可能にした. また血栓におけるサイトカイン,MMPs,uPA,tPA等の遺伝子発現を,リアルタイムRT-PCRによって定量的に評価し,血栓陳旧度にともなう分子生物学的変化に関する結果を,現在もなお集積しているところである.特に血栓陳旧度判定においては,IFN-gamma,TNF-alpha,TNF-Rp55,IL-6,CCR5,CX3CR1の免疫組織化学染色結果より,血栓陳旧度の基準となり得る新たな指標を見出し,研究成果の発表している.本研究課題はこれらの実績を基礎として,HSP27,HSP70それぞれについての免疫組織化学的解析を行い,血栓陳旧度判定のための新たな指標を確立することを目的としている. 本研究の目的を達成するために,必要な結果を得ており,今後,国内外での学会発表を行う予定である.
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今後の研究の推進方策 |
国内外においてDVTを惹起する要因は今後も増え続けることが予想され,剖検時に深部静脈血栓が発見されること,そしてそれが死因や死後経過時間推定に重要な意味を持つ可能性がある場合も増える可能性がある.そこで以下の点に重点を置いて研究を推進する. 本研究は,実験用マウスを用いたIVC結紮によるDVTモデルから得られた,血栓の陳旧度判定指標を確立することが目的の一つである.血栓は血栓形成開始から1,3日後の急性期,5,7,10日後の亜急性期,14,21日後の慢性期まで,7段階の各状態の血栓組織標本について,抗HSP27,抗HSP70抗体それぞれを用いて免疫染色した結果に基づくものである.今後,さらに,血栓から採取したRNAについてリアルタイムRT-PCRにより,より詳細な分子病理学的情報を得られるものと考えている.これらの結果を応用して,法医剖検例において採取された血栓試料についても,実験モデルと同様の手法を用いて血栓陳旧度の判定を試みる.また,HSPの染色結果による血栓陳旧度評価結果は,これまでに発表してきたマッソン・トリクローム染色によるコラーゲン領域の変化や,白血球やマクロファージの数やその比をもとにした指標などとの関連や相関があると考えられた.血栓形成および溶解過程におけるHSPの動態を解明することにより法医実務的研究へと発展させることを目的として研究を推進していくのはもちろんのこと,DVTの予防や治療方法開発に示唆を与えることのできる結果を見出すことも,視野に入れている. 以上の結果については,国内外の法医学や免疫学,炎症,創傷などに関連する学会や,関連する分野の国際学会誌に発表する予定である.
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