研究課題/領域番号 |
22K11616
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分59020:スポーツ科学関連
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研究機関 | 新潟医療福祉大学 |
研究代表者 |
越中 敬一 新潟医療福祉大学, 健康科学部, 准教授 (30468037)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
2024年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
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キーワード | グリコーゲン / エネルギー代謝 / 水 / 骨格筋 / 浸透圧 / インスリン作用 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、一過性の身体運動後に遅れて誘発される骨格筋のインスリン作用が亢進する現象について、その分子機序の解明を目的としている。分子機序として、身体運動によって生じる浸透圧の変化と関連した骨格筋細胞における水分子の動態が関与しているとの仮説をたて、in vivo及びin vitroの両実験系によってその仮説を動物実験により検証する。
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研究実績の概要 |
本研究では、骨格筋のエネルギー代謝において直接的なエネルギー基質ではない「水」に着目し、水分子の動態の変化による代謝調節機構の解明を目的としている。初年度は骨格筋細胞を浸透圧の異なる溶液中で培養することによって浸透圧刺激を負荷し、エネルギー代謝に与える影響を観察した。 骨格筋細胞は浸透圧の変化に極めて敏感であり、数分間の高浸透圧の刺激に対しても水分子の動態は急速に変化し、細胞にshrinkを誘発した。その際、筋内のエネルギー基質量は低下し、関連して、骨格筋のエネルギーセンサーの1つであるAMP-activated protein kinase(AMPK)の活性化や糖取り込みの亢進を確認することができた。糖取り込みに関しては、阻害剤の実験により責任分子を同定した。また、蛋白質の合成を促進する分子の活性化を多数確認したが、実際の蛋白質の合成量は正味で大きく分解に傾いていた。 低浸透圧の刺激に対して、高浸透圧での刺激時と同様に数分間の刺激に対して水分子の動態は急速に変化し、細胞にswellingを誘発した。その際の代謝変化を観察してみると、高浸透圧時と逆の変化が引き起こされることを期待したが、概ね高浸透圧時と同様の結果を示した。 このような水分子の動態の変化は、骨格筋から分泌される生理活性物質であるマイオカインの分泌にも影響を与えることを確認した。 上記の結果から、骨格筋細胞の水分子の動態は骨格筋の糖や蛋白質代謝の調節要因になることが明らかになった。また、その調節には多数の情報伝達分子が関与しており、マイオカインが関与する可能性も示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度においては、概ね計画書通りに進んでいる。細胞の水分子の動態の経時的変化にともなう細胞内の情報伝達分子の変化など、糖と蛋白質代謝に関連した多数の分子の動態を確認することができた。それらの中には、水分子の動態が変化した直後に一時的に活性化してその後早急に不活性化してくる分子の他、長時間にわたり活性が維持されている分子など、様々な動態を示す分子が混在していた。また、これらの分子の動態に加え、糖取り込みや蛋白質の正味の合成など、生理学的な機能の変化を同時に観察することによってその関連性を考察することもできた。さらに、swellingとshrink下による反応が逆にならないことも主要な結果の1つである。 高浸透圧の刺激によって活性化したAMPKは身体運動によっても活性化することがよく知られている。身体運動はAMPKの他、インスリンによる糖取り込みに必須なAktという分子も活性化するが、本研究においても高浸透圧刺激はAktを活性化させることを確認した。このように、水分子の動態の変化は、身体運動様効果の一部を再現しているとも考えることが出来る。身体運動中、骨格筋細胞は運動の状況に応じて水分子の動態を変化させており、このことは身体運動中のエネルギー代謝の調節要因の1つとして水分子の動態が関与している可能性も示唆している。
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今後の研究の推進方策 |
身体運動は一時的にAMPKを活性化し、運動終了の数時間後、この活性化が起因となってインスリン作用が増強される。インスリン作用の増強は糖取り込みの他、蛋白質の合成を促進することにも貢献することが予想される。初年度、高浸透圧刺激によって細胞を刺激し続けると、筋蛋白質の正味の合成は顕著に低下することを確認した。このことは、身体運動と同様に、刺激の継続ではなく“刺激後”にインスリン作用の増強効果が惹起される可能性を示している。今後のin vitroの研究においては、浸透圧の変化によって一時的にAMPKを活性化させ、その後刺激を中止し、十分な回復の後にインスリン作用を検討する試みを行う。身体運動様の効果が身体運動ではなく水分子の動態の変化によっても惹起される可能性が期待される。 また、本研究ではin vivoの実験を予定している。水分子の動態にはaquapolin4(AQP4)という分子が関与しているため、AQP4の阻害剤をin vivoで投与して骨格筋のエネルギー代謝に与える影響を検討する。身体運動は運動終了の数時間後に骨格筋のインスリン作用を増強させる。そのため、阻害剤を運動前に投与しておくことで水分子の動態を制限した場合、運動直後のAMPK活性に与える影響と、運動終了の数時間後におけるインスリン作用に与える影響を検討する。また、in vitroの実験では水分子の動態の変化にともないマイオカインの分泌が変化していた。よって、阻害剤の投与により、身体運動によって誘発されるマイオカインの分泌様相に与える影響も検討する予定である。
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