研究課題
基盤研究(C)
細胞障害により放出された細胞外ATPは傷害細胞由来分子(DAMPs)として働き、炎症の形成・持続に関与する。脂肪摂取はATP産生を促進するが、脂肪の過剰摂取はミトコンドリアの機能不全を誘導し、肝細胞障害を招く。本研究では、脂肪の過剰摂取が①肝細胞内のATP産生亢進とミトコンドリア機能障害を誘発し、②細胞障害を引き起こすことでATPを細胞外へ過剰放出し、③ATP受容体であるP2X7を介しマクロファージの活性化、酸化ストレス産生を亢進し、④脂肪肝炎、肝線維化、肝癌を発症するという仮説をたて、脂肪肝炎、肝癌発症の新たなメカニズムを明らかにし、脂肪の摂取制限の重要性を再検証する。
ATP(adenosine triphoshate)は、全ての細胞内に存在し、細胞活動のエネルギー源として利用される。恒常状態の細胞外ATP濃度は10nM以下で維持されるが、細胞傷害によりATPが細胞外に放出されると、細胞外ATP濃度は100nM以上に上昇する。細胞外ATPは傷害細胞由来分子(DAMPs)として働き、免疫細胞を遊走、活性化、炎症性サイトカイン産生を促し、炎症の形成・持続に関与する。しかし、高脂肪食負荷による脂肪化肝細胞の細胞外ATP産生に及ぼす影響やマクロファージを含む肝内の免疫細胞の活性化、さらには肝発癌への関与の有無については不明である。本研究では高脂肪食が、肝細胞内でのATP産生増加、ミトコンドリア機能異常による肝障害、細胞外へのATP放出の増加、肝内マクロファージの活性化、肝発癌へ関与することを明らかにする。現在、ATP受容体ノックアウトマウスを交配し繁殖させながら、高トランス脂肪酸食、高脂肪コントロール食、通常食を用いて野生型マウスを、高トランス脂肪酸食、通常食を用いてATP受容体ノックアウトマウスを飼育し、血清、肝臓、内臓脂肪を3、6、12ヵ月後に採取を行っている。12ヵ月後のマウスにおいて発癌の有無を確認中である。これまでの結果で、高トランス脂肪酸食で飼育したマウスで発癌の割合が高いが、ATP受容体欠損マウスでは、やや発癌が低い傾向がみられている。また、肝臓内の脂肪合成は、ATP受容体ノックアウトマウスで低下し、マクロファージの分布に差がみられている。さらに、肝臓と内臓脂肪組織からマクロファージ,肝星細胞の分離を行い、炎症や線維化に関する因子について解析を行っている。肝臓のATP産生、線維化因子(TGF-β,αSMA)、酸化ストレス(NOX2)の発現については、一定の結果が得られていないため再解析を行っている。
4: 遅れている
繁殖させたマウスの大きさにばらつきがあり、一定条件で育てることに時間がかかり、実験全体が遅れている。また、肝臓から分離した細胞数が十分でないため、現在十分な結果が得られていない。条件の変更を行いながら、現在最適の条件を探している。
高トランス脂肪酸食、高脂肪コントロール食、通常食を用いて野生型マウスを、高トランス脂肪酸食、通常食を用いてATP受容体ノックアウトマウスを飼育し、血清、肝臓、内臓脂肪を3、6、12ヵ月後に採取を継続して行う。飼育後12カ月の肝発癌の有無、癌の個数の観察を継続する。また、組織を用いて、脂肪沈着量、炎症・線維化の程度の観察や肝臓のATP産生、線維化因子(TGF-β,αSMA)、酸化ストレス(NOX2)の発現を検討する。血清を用いて肝酵素、脂質、ケモカイン、酸化ストレスなどの変化を解析する。肝臓と内臓脂肪組織からマクロファージ,肝星細胞の分離し、マクロファージの分画を確認した後、ATP、脂肪酸で刺激し、炎症性サイトカイン、酸化ストレスの発現、ATPレセプターであるP2X7の発現について検証を行う。また、肝星細胞をATP、TGF-β、脂肪酸で刺激し、肝星細胞の活性化マーカーについて検証する。マウスから肝細胞を分離し、脂肪酸負荷を行い、濃度別にATP産生能、肝細胞生存率、ミトコンドリア機能、細胞外ATP濃度を測定する。
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