研究課題/領域番号 |
22K11824
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分59040:栄養学および健康科学関連
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
平田 洋子 岐阜大学, 工学部, 教授 (50271523)
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研究分担者 |
竹森 洋 岐阜大学, 工学部, 教授 (90273672)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
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キーワード | フェロトーシス / 酸化ストレス / 鉄イオン / オキシトーシス / 蛍光プローブ |
研究開始時の研究の概要 |
我々は、独自に開発したN,N-ジメチルアニリン誘導体GIF-2114、GIF-2115が、HT22細胞において、従来の抗酸化物質とは全く異なる機構で活性酸素種を減少させるフェロトーシス阻害剤であることを報告した。さらに、GIF-2114/GIF-2115に蛍光標識剤を付加したプローブの作製に成功し、細胞イメージングを行なった結果、本化合物は、後期エンドソーム/リソソームに蓄積し、鉄イオン代謝を制御することにより活性酸素種を除去することが示唆された。本研究では、この先行研究を発展させ、N,N-ジメチルアニリン誘導体の鉄代謝への影響を解明し、新しい戦略に基づくフェロトーシス阻害剤を開発する。
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研究実績の概要 |
フェロトーシス阻害剤の特徴づけとして以下の実績を発表した。 1. 我々は、N,N-ジメチルアニリン誘導体GIF-2114、GIF-2115が海馬神経由来のHT22細胞において、従来の抗酸化物質とは全く異なる機構でフェロトーシスを阻害することを報告している。フェロトーシスはアポトーシスやネクローシスとは細胞死に至る機構が異なることから、N,N-ジメチルアニリン誘導体はフェロトーシスに特異的であると推察できる。今年度は、N,N-ジメチルアニリン誘導体がロテノン誘導性の酸化ストレスによるアポトーシスを阻害しないことを報告した。ロテノンはミトコンドリア呼吸鎖複合体Iの阻害剤で、ミトコンドリアの膜電位を低下させ活性酸素種を増加させる。その結果、核の断片化を伴う典型的なアポトーシスが誘導されるが、N,N-ジメチルアニリン誘導体はこれらいずれにも影響を与えず、活性酸素種の増加を伴う酸化ストレスによるアポトーシスは阻害しなかった (Hirata et al., Eur J Pharmacol 928, 175119, 2022)。この結果は、フェロトーシスとアポトーシスは細胞死の機構が異なることを裏付けている。 2. ハロペリドールは統合失調症の治療薬であるが、GIF-2114、GIF-2115と極めて類似した機構でフェロトーシスを阻害する強力なフェロトーシス阻害剤であることが明らかとなった。すなわち、ハロペリドールは、後期エンドソーム/リソソームに集積し鉄イオンと反応することにより、0.01 μMという低濃度でフェロトーシスを阻害する。ハロペリドールは、GIF-2114、GIF-2115とは構造が全く異なることから、共通の機構で作用する未知、既知の化合物の存在が示唆される (Hirata et al., ACS Chem Neurosci 13, 2719, 2022)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1. GIF-2115の構造類自体 (GIF-2027、GIF-2228-r) およびそれぞれの蛍光プローブ (GIF-2261、GIF-2255) を作製し、酸化ストレス保護活性(フェロトーシス阻害活性)、後期エンドソーム/リソソームへの集積性、Fe2+濃度への作用を比較検討した。その結果、N-メチル基を持たないがジメチルアミノ基を持つGIF-2027の蛍光プローブGIF-2261は、リソソームへの集積性が著しく低下したが、フェロトーシス阻害活性を維持した。一方、N-メチル基を持つがジメチルアミノ基をもたないGIF-2228-rではフェロトーシス阻害活性および鉄イオンとの反応性はほぼ消失した。以上の結果から後期エンドソーム/リソソーム集積性にはN-メチル基が必須でフェロトーシス阻害作用に後期エンドソーム/リソソームへの細胞内局在化が重要であることが明らかとなった。 2. GIF-2114/GIF-2115応答性細胞内分子を、鉄イオンを中心に整理した。 In vitroにおけるFe2+特異的蛍光プローブFerroOrangeを用いたアッセイ系(無細胞系)を用いて鉄イオンとGIF-2114、GIF-2115の直接の反応性を検証した。GIF-2114、GIF-2115は、どちらも典型的な鉄イオンキレート剤のデフェロキサミンよりも強く鉄イオンと反応した。GIF-2114、GIF-2115は鉄イオンとのキレート構造は取れないので、鉄イオンを配位することによりその作用を抑制すると考えられる。GIF-2027はGIF-2115と同様に鉄イオンと反応したが、GIF-2228-rでは鉄イオンとの反応性は消失した。これらの結果から、GIF化合物応答性細胞内分子は鉄イオンであり、GIF化合物のジメチルアミノ基に起因するものであることが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
1. GIF-2114/GIF-2115応答性細胞内分子の鉄イオンは、トランスフェリンに結合した3価鉄イオンがトランスフェリン受容体を介したエンドサイトーシスにより細胞内に取り込まれ、リソソームでSteap3還元酵素により2価鉄イオンに還元され、フェリチンと結合して細胞質に貯蔵される。フェロトーシスによる細胞死のシグナル伝達におけるSteap3還元酵素の役割を明らかにするとともに、GIF-2114、GIF-2115がリソソームに集積し鉄イオンと反応する過程に、Steap3還元酵素が関与するかどうかを検証する。Steap3還元酵素をノックアウトするために、CRISPR/Cas9システムを用いる。我々はこれまでに、CRISPR/Cas9 KO プラスミド/HDR プラスミド(Santa Cruz社)を用いて、ヘムオキシゲナーゼー1、Nrf2、プロテインキナーゼR、シグマ1受容体などをノックアウトしたHT22細胞の樹立に成功しており、同様にSteap3還元酵素ノックアウト細胞を得ることが期待できる。 2. 2価鉄イオンは、過酸化水素を毒性の高いヒドロキシラジカルへ変換するフェントン反応を触媒することにより、フェロトーシスを増悪すると考えられている。しかし、フェロトーシスにおける3価鉄イオンの役割については明確になっていない。予備実験では2価鉄および3価鉄イオンは同程度にフェロトーシスを増悪した。鉄イオンの活性酸素種への影響、3価鉄イオン毒性へのSteap3還元酵素の関与などを検証することにより、鉄イオンがどのようにフェロトーシスを増悪するのかを明らかにする。 3. GIF-2115の脳移行性を検証する。マウスに化合物を腹腔内投与し脳組織(大脳、中脳、脳幹、小脳)を取り出し、GIF-2115の濃度を質量分析法により測定する。
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