研究課題/領域番号 |
22K11859
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分59040:栄養学および健康科学関連
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研究機関 | 高崎健康福祉大学 |
研究代表者 |
福地 守 高崎健康福祉大学, 薬学部, 教授 (40432108)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2025年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
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キーワード | BDNF / アルツハイマー病 / 発光イメージング / 生物発光 |
研究開始時の研究の概要 |
アルツハイマー病脳内において、記憶や学習などの高次脳機能発現に重要な脳由来神経栄養因子(BDNF)の発現が低下することが指摘されている。しかし、この脳内BDNF発現の低下は、アルツハイマー病の原因なのか?結果なのか?については未だに明らかではない。この問いに答えを出すため、本研究では、生体マウス脳内のBDNF発現変化を可視化可能なマウスとアルツハイマー病モデルマウスを組み合わせ、アルツハイマー病脳内BDNF発現と記憶学習能の関係性を明らかにする。さらに、アルツハイマー病脳内BDNF発現を増加させる物質を探索し、記憶障害への効果を検証することにより、アルツハイマー病治療薬・予防薬候補を探索する。
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研究実績の概要 |
本年度は、アルツハイマー病モデルマウスを用いて、アルツハイマー病の病態と脳内BDNF発現との関係性について解析を進めた。家族性アルツハイマー病で発見された変異を持つAPPおよびプレセニリン1を発現する5xFADマウスを用いて、海馬におけるBDNF発現変化を解析した結果、雌性5xFADマウス海馬では、BDNF転写産物が低下するが、複数種類存在するBDNF転写産物のうち、特定の転写産物のみが有意に低下することが明らかとなった。したがって、アルツハイマー病脳内では、ある特定のBDNF遺伝子転写制御系が抑制されることが示唆された。また、同マウスにおいてはBDNFタンパク質の有意な低下が認められたことから、これら転写産物の低下はBDNF産生低下に寄与することが示された。 さらに昨年度、人工発光システムAkaBLIを用いて5xFADマウス脳内におけるBDNF発現変化を生体マウスで評価可能なダブルトランスジェニックマウス(5xFAD/BDNF-AkaLucマウス)が作出できたことから、発光イメージングにより5xFADマウスおよび野生型マウスの脳内におけるBDNF発現変化の経時的な可視化を行った。その結果、野生型マウスと比較して、5xFADマウス頭部の発光は8~12週齢の時点でやや低い傾向にあり、28週齢では有意に低下することが明らかとなった。また、野生型マウスでは、10週齢前後と比較すると28週齢では頭部の発光が増加する傾向にあるが、5xFADマウスではこの傾向が見られなかった。したがって、5xFADマウスでは、発達・成長に伴う活動依存的な脳内BDNF発現の上昇が抑制される可能性が考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究の結果、アルツハイマー病の脳内、特に海馬においては、特定のBDNF転写産物が特異的に低下することを示唆する興味深い結果が得られた。これは、BDNF遺伝子転写に関わる特定の制御系がアルツハイマー病において障害される可能性を示すものである。また、この低下は、若い成体マウスで認められたことから、アルツハイマー病脳内におけるBDNF発現の低下は、アルツハイマー病の原因となることを示唆する結果であると言える。これらの結果は、早期のアルツハイマー病の脳内の病態の分子基盤を知る上での手がかりとなることが期待される。 また、アルツハイマー病脳内におけるBDNF発現の低下は、昨年度に作出した新規ダブルトランスジェニックマウスである5xFAD/BDNF-AkaLucマウスを用いたイメージングにおいても検出することに成功した。5xFAD/BDNF-AkaLucマウスは、生体マウスで脳内BDNF発現変化を評価することができるため、本マウスはアルツハイマー病脳内におけるBDNF発現の時空間的な変化の解析、さらには治療薬の候補物質、特に神経細胞でBDNF発現を誘導する物質がアルツハイマー病脳内におけるBDNF発現に及ぼす影響を解析するための強力なツールとなることが期待される。 以上より、本年度は研究がおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
すでに研究代表者は、神経細胞においてBDNF発現を誘導する化合物や抽出物などを複数種類同定している。そこで今後は、これら化合物や抽出物が、アルツハイマー病モデルマウス脳内において低下したBDNF発現を回復させるか検討する。本検討では、5xFAD/BDNF-AkaLucダブルトランスジェニックマウスを用いて、化合物や抽出物を継続的に投与しながら定期的に脳内BDNF発現をモニタリングし、必要な投与期間等の検討も併せて行う。脳内BDNF発現の低下を回復させる化合物や抽出物などが同定できた場合は、記憶学習障害に対する効果についても検討する。 またこれまでの研究の結果、アルツハイマー病脳内におけるBDNF発現は、比較的早期から認められることが示唆された。そこで今後は、アルツハイマー病発症初期の病態を示すモデルマウス(主にアミロイドβオリゴマーのみが神経細胞内に発現するトランスジェニックマウス)を用いて、脳内BDNF発現変化および記憶学習障害との関連性について検討を行う。この解析により、本研究の主要な目的の一つである「脳内BDNF発現低下はアルツハイマー病の原因・結果のどちらか?」について明らかにする。
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