研究課題/領域番号 |
22K11868
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分59040:栄養学および健康科学関連
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
福嶋 伸之 近畿大学, 理工学部, 教授 (10254161)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
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キーワード | 脂肪酸 / 卵巣がん細胞 / ペントースリン酸回路 / グルタミン代謝 / CD36 / オレイン酸 / がん細胞 / 代謝 |
研究開始時の研究の概要 |
オレイン酸(OA)はがん細胞の増殖を促進または抑制する報告がされているが、相反する理由は不明である。申請者はOAの作用機構解明がその一端を明らかにできると考えた。先行実験より、細胞外のOAが、がん細胞の脂肪代謝ではなくグルタミン代謝を制御し細胞増殖を促進する可能性が示唆された。本研究では、メタボロミクス解析、生化学および分子生物学的手法を活用してOAによるグルタミン制御機構を解明し、動物においてOA摂取ががん細胞増殖に影響することを示す。得られた成果を、OAの摂取制限など適切な脂質摂取ががん治療や予防に資するという健康科学のエビデンスとして役立て、プレシジョン栄養学を発展させる。
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研究実績の概要 |
脂肪酸は細胞膜の脂質成分やエネルギー産生の役割の他に、近年細胞間シグナル伝達物質としての働きが知られている。脂肪酸の一種であるオレイン酸(OA)はがん細胞の種類により細胞死の促進や逆に細胞の生存を促進することが報告されているが、その原因は明らかではない。我々はOAがRMG-1卵巣がん細胞に加えると一過性に細胞周期が駆動することを見出している。このOAの作用には脂肪酸受容体や核内受容体ではなく脂肪酸トランスポーターのCD36 が関与していること、OAの作用は細胞外グルコースおよびグルタミンに依存していることが明らかになっている。 R5年度は、昨年度に引き続きOAのRMG-1細胞の増殖に対する作用機構を調べた。OAの作用のグルコース依存性は、解糖系ではなくむしろペントースリン酸回路(PPP)の亢進によるものであることが薬理学的に示された。しかしながらOAはPPPの律速酵素G6PDを活性化するのではなく、急速なグルコース取り込み量を増加させ、その結果としてPPPにおけるグルコースの利用率が向上すると考えられた。これらのことは別の卵巣がん細胞(HNOA細胞)において、OAがグルコース輸送体の発現レベルを変化させ、グルコース利用を向上させる作用とは全く異なるものであった。一方、RMG-1細胞において、OAはグルコースの場合と同様に、グルタミンの急速な取り込みを促進し、細胞内グルタミン酸量の増加を引き起こした。この増加はグルタミン代謝経路のうちGlutaminaseを介したものではなく、核酸基質合成につながるAmidophosphoribosyltransferaseを介したものと考えられた。グルコースおよびグルタミン物質代謝変動はOA 添加後の比較的早い時間に見られる反応であり、細胞増殖に必要な核酸基質やアミノ酸の合成につながると思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初計画のCD36のノックアウト細胞の作成を断念した。ベクターの導入効率が低いことに加えて、恒常的な細胞代謝や形質が変化することが原因であると考えられたため、ノックアウト細胞の作成は断念した。 初年度にグルコース取り込み後に分岐するペントースリン酸回路が関わることが示されたため、この解析に時間を割いた。特に律速酵素のG6PDのプロモーター アッセイ系の確立や活性化を調べたがネガティブな結果であった。また、グルタミン代謝にはGlutaminaseを介した経路とAmidophosphoribosyltransferaseを介した経路があるが、OAの作用には後者の関与が示唆された。このためAmidophosphoribosyltransferaseの発現解析や酵素活性測定に時間を割いたが、発現量が低いため予想された結果を得るに至っていない。これらにより当初計画の一部が先延ばしになった。また、CD36を介してどのような経路でグルコースおよびグルタミン取り込みが亢進するのか、新たに解決すべき研究テーマが生じたため、これに時間を割くこととなった。
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今後の研究の推進方策 |
これまで、OAはHNOA卵巣がん細胞においてグルコース輸送体の発現量を増加させることによりグルコース利用を上昇させることを報告した。今回使用している RMG-1では転写レベルではなく、OA添加後急速なグルコースおよびグルタミンの取り込みが増加することが明らかとなったことから、CD36から輸送体への細胞内シグナル伝達が考えられた。例えば、CD36はチロシンキナーゼ活性化を引き起こすことが報告されていることから、リン酸化シグナルが輸送体の機能を変化させていることが考えられた。今後、このような伝達機構の解明に取り組み、新規細胞増殖機構を明らかにする。さらに、グルタミン代謝とグルコース代謝変動は OA 添加後の比較的早い時間に見られる反応であり、細胞増殖に必要な核酸基質やアミノ酸の合成につながる。この後に起こる反応の細胞周期やDNA複製に至る経路は明らかではないため、早い反応と遅い反応がどのように連動しているかを明らかにしていく。
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