研究課題/領域番号 |
22K11924
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分60020:数理情報学関連
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
宮本 幸一 大阪大学, 量子情報・量子生命研究センター, 特任准教授(常勤) (90936270)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
3,510千円 (直接経費: 2,700千円、間接経費: 810千円)
2024年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2022年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
|
キーワード | 量子コンピューティング / 金融工学 / 微分方程式 / 重力波天文学 / バイオインフォマティクス / マルコフ連鎖モンテカルロ法 |
研究開始時の研究の概要 |
近年の量子計算技術の急速な発展を受け、これを産業上の具体的な問題に応用するための研究が進みつつある。とりわけ、金融におけるデリバティブプライシングは重要なターゲットであり、量子コンピュータによる計算の高速化ならびに精緻化は、リスク管理の高度化、ひいては金融システムの安定化に資する。本研究では、実務上の重要性の高い問題設定に広範に適用可能な量子的プライシング手法を新規に開発し、古典対比の高速化の程度を評価する。加えて、金融に限らず他の分野も含めた幅広い問題へと応用先を拡げ、量子コンピューティングが社会にもたらす恩恵を最大化することを目指す。
|
研究実績の概要 |
研究計画にて設定した各テーマにつき、実績は以下のとおりである。 テーマ①:微分方程式求解の量子アルゴリズムを用いたプライシングの高度なモデルへの拡張 昨年度、本テーマにつき一定の成果を得ており、今年度は他のテーマに注力した。 テーマ②:線型回帰の量子アルゴリズムを用いた最小二乗モンテカルロ法(LSM)の高速化 当初構想したデリバティブプライシング手法をベースとして、より広範なファイナンスの問題へと量子アルゴリズムの応用を拡げた。具体的には、(1)後退確率微分方程式求解のためのLSMベースの量子アルゴリズムの開発(論文執筆中)、(2)直交関数展開による確率密度推定をベースとした、統合リスク指標計算のための量子アルゴリズムの開発(論文発表は2024年度)を行った。また、量子モンテカルロ積分に関する基礎的な研究として、Iterative Quantum Amplitude Estimationと呼ばれる量子振幅推定の一方式における推定バイアスならびにその軽減手法に関する研究を行った。 その他、デリバティブプライシングに関する研究を通じて獲得した知見の他分野への展開という文脈で、宇宙の構造形成シミュレーションにおけるボルツマン方程式求解のための量子アルゴリズムの開発を行った。解を埋め込んだ量子状態から興味のある物理量を数値として読み出す方法の開発にあたり、デリバティブ価格の量子状態からの読み出しに量子振幅推定を用いた過去の研究がベースとなった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
昨年度、テーマ①に関して、当初構想した手法よりも広範な問題に適用可能な数値読み出し手法を開発したのに加え、今年度は、テーマ②において、当初のスコープであった早期行使権付デリバティブのプライシングを越えて、多様な問題に対する類似の量子アルゴリズムの適用を検討することができた。後退確率微分方程式は、デリバティブプライシングを個別のケースとして含んだより一般的な理論的枠組みであり、LSMは有力な求解アルゴリズムとして現在の古典計算においても用いられている。そのため、LSMをベースとした量子アルゴリズムの開発は、デリバティブプライシングのみならず、ファイナンス全般、ひいては確率制御全般にとって大きなインパクトとなり得る。また、金融機関にとって、バリュー・アット・リスク等のリスク指標を計算することはリスク管理上の重要課題であり、量子アルゴリズムの適用も先行研究にて検討されてきた一方、多種多様なリスクを統合したうえで総合的なリスク指標を計算するというタスクに関しては、これまで量子加速をもたらす手法は提案されてこなかった。これに対し、我々は、個別のリスクファクターの確率密度関数を直交関数展開で近似するという手法を量子モンテカルロ積分と組み合わせることで、リスク統合に対しても量子加速を実現できることを見出した。この仕事は、量子モンテカルロ積分の適用対象を拡げたという意味で大きな意義がある。 また、昨年度に引き続き、デリバティブプライシングの研究で開発した手法の他分野への展開するという研究でも成果を得ている。宇宙論で登場する微分方程式への量子アルゴリズムの適用に関する研究では、デリバティブ価格を量子状態から読み出す手法が応用された。このように、異分野の問題に対する手法が相互に連関しながら発展していくという状況が実現できており、本研究のインパクトは着実に拡がっている。
|
今後の研究の推進方策 |
来年度は、テーマ②において開発した量子アルゴリズムをさらに深く研究していく。まずは、後退確率微分方程式のLSMベースの求解アルゴリズムにつき、現在最終段階にある研究を完遂し、論文として公表する。また、直交関数展開による密度推定と量子モンテカルロ積分を組み合わせた手法につき、より広範な問題への適用を目指す。具体的には、確率過程の経路生成の中に密度推定を組み入れることで量子回路を効率化するというアイデアを着想しており、これを検討する。すなわち、デリバティブプライシング等のモンテカルロシミュレーションにおいては、確率過程の時間発展経路を生成する必要があり、これを量子アルゴリズムの中で行うとすると、ナイーブには深い量子回路が必要になる。しかし、時間発展の途中の確率分布を直交関数展開の形で読み出すことで、量子回路を分割できる可能性がある。幅広い問題設定に適用できるような一般的な手法として定式化することを目指す。 加えて、微分方程式求解に関して、興味のある量を数値として出力するエンドツーエンドな手法を開発することにフォーカスしつつ、種々の問題に対する量子アルゴリズムを検討する。特に、微分演算子の固有値を求める手法について着想を得ており、これの具体化を目指す。固有値は解の形状を特徴づける重要な量であるのと同時に、解全体を読み出すのに比べれば、数値として取得するのは容易であると見込まれる。一般的な手法としてアルゴリズムを構築したうえで、種々の分野の具体的な問題への適用を検討する。
|