研究課題/領域番号 |
22K12006
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分60060:情報ネットワーク関連
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研究機関 | 宇都宮大学 |
研究代表者 |
藤井 雅弘 宇都宮大学, 工学部, 准教授 (20366446)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2023年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | 位置推定 / 無線LAN / Fine Timing Measurement / 測位 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究課題では,無線LANのフレームの送受信時刻に基づいて送受信端末間距離を測距可能なFTMプロトコルに拡張を加え,同時測位可能な端末数に制限のない測位システムについて研究を行う.本提案手法では,アクセスポイント間でFTMプロトコルを運用し,さらに,互換性のある拡張フレーム伝送を導入し,移動端末はそのフレームを観測するだけで,移動端末とアクセスポイント間の測距が可能な方式を検討する.数値計算機実験と実装実験を行い,提案手法の測位精度を検証し,数センチメートル程度の測位誤差の達成を目指す.
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研究実績の概要 |
本研究課題では,無線LANの送受信フレームの計測時刻の差分から移動端末(Mobile Station: MS)とアクセスポイント(Access Point: AP)間の距離を計測するために規格化されているFTM (Fine Timing Measurement) プロトコルを基盤とし,MSと複数のAP間の距離の計測からMSの位置を推定する手法について検討を行っている.通常のFTMに基づく位置推定手法では,MSと最低3局以上の位置が既知のAPとの距離を計測し位置を推定する必要がある.この時,無線LANのアクセス制御プロトコルの性質上,1つのAPと距離を計測できるMSは1つに限られるため,時間を分けて,APとの距離を計測する必要がある.しかしながら,位置を推定したいMSが多数存在する場合,APとの距離を計測するために順番待ちが発生し,さらに複数のAPとの距離を計測しなければならないので,場合によっては位置推定サービス要求がタイムアウトする可能性がある.そこで,本研究課題では,AP間で従来のFTMプロトコルに従ったフレーム交換を行う.APは位置が既知であるので,AP間の距離を計測する必要はないが,この時,位置を推定したいMSはAP間のFTMプロトコルによるフレームをスニーフすることができる.MSでのFTMフレームの観測の時刻をMS自身が計測し,さらに,FTMフレームのペイロードに含まれるAPのフレーム計測時刻情報をMSはスニーフにより得ることができる.これらの時刻情報の関係から,MSではMSと複数のAP間の距離差を計測として得ることができる.この距離差計測値はMSの位置の関数となるので,従来のFTMに基づく位置推定アルゴリズムが適用できる.この時,各MSはAP間のFTMフレームの交換を観測するだけでよいので,位置推定の対象の全てのMSは同じ時間条件で計測を得ることができる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度までに,まず,FTMプロトコルにおける時刻計測モデルを確立した.FTMプロトコルでは,通常の無線LANの規格上の信号構成であるので,MSとAPとの距離が離れるほど受信信号電力が減衰するので,相対的に内部雑音の影響が大きくなり,さらにフレーム同期の誤差が大きくなるので,フレームの受信時刻の計測に基づくFTMプロトコルの距離の計測に影響を与える.この影響を考慮した時刻計測モデルの下で解析的な検討と数値計算実験を行い,従来のFTMプロトコルに基づく位置推定の精度と,本研究課題で提案する方式での距離差に基づく位置推定の精度を比較した.数値計算実験の結果,従来方式と比較して,本研究課題での提案方式は,位置推定誤差の位置・時間率が若干劣化することが確認された.この結果を数理的に解析した結果,従来手法と比べて,提案手法では位置推定に利用する計測時刻の内,受信に関する計測時刻の項が多いことを理論的に示した.受信に関する時刻計測の方がその分散が大きいので,その影響により位置推定精度の劣化を引き起こすことを定性的に導き出した.しかしながら,提案手法は,同時での位置推定可能MS数に制限がないので,サービスのタイムアウトの可能性を完全に排除できるとは実用上大きな利点であることを示した. さらに,FTMプロトコルに対応した実機端末を用いて,屋内での距離の計測実験を行い,その距離に関する距離計測誤差に関して定量的に評価した.この際,距離の計測誤差はマルチパス伝搬の影響を強く受け,受信電波強度と強い相関があることを明らかにした.
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今後の研究の推進方策 |
最終年度であるR6年度では,これまで数値計算実験を主体として行ってきた検証を,実機による実験を通じて検証する予定である.現在入手可能なFTMプロトコルに対応している文線LAN機器では,本研究課題で用いるAP間のFTMフレームのMSによるスニーフを実現できるものは存在しない.そこで,通常のFTMプロトコルに基づくAPとMS間のフレーム計測情報から疑似的に提案手法を実現する手法を検討する.従来手法と提案手法の根本的な相違は,従来手法では距離そのものを計測するのに対し,提案手法では距離差を計測することである.したがって,従来手法として得られたAPとMSの間の距離を他のAPとの距離と差し引くことで,疑似的に提案手法での距離差の計測値を得ることができる.この計測を実現するためには,実際の利用場面より多くのAPとMSでシステムを構成する必要があるが,実用の場面を模擬することが可能である. さらに,位置推定のアルゴリズムについて検討を行う.距離もしくは距離差に基づく位置推定は非線形問題であるので,漸近的な解析手法を用いて最適な位置推定を実現するアルゴリズムを採用していた.このアルゴリズムは,位置推定の精度の観点からは最適であるが,繰り返し計算が必要であり,かつその繰り返し計算の中で線形方程式を解く必要があった.これを計算資源の乏しいMSで実現するのは困難な場合がある.そこで,繰り返し計算の必要がないマルチラテレーション(MultiLATetaton: MLAT)アルゴリズムの採用を検討する.MLATは従来のFTMプロトコルには適用可能であることは確認しているが,提案手法への適用の可能性は検証されていない.そこで,R6年度は,アルゴリズムによる位置推定精度と計算量の両側面からもシステム全体の評価を行う予定である.
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