研究課題
基盤研究(C)
情報学の分野では,点と辺からなるネットワーク構造において点の重要度を求めるPageRank等のランキング手法が研究されてきた.ネットワークが時系列的に変化すればランキングも変動するが,その要因を推定することは難しかった.一方で,代表者らは近年生物学で注目を集めている単一細胞遺伝子発現データを用いて,「遺伝子相関ネットワーク」を構築し,そのランキングが炎症進行メカニズムに有用な知見を与えることを確かめた.本研究では,時系列ネットワークのランキング変動要因推定手法の確立を目指すとともに,炎症進行メカニズム解明に貢献することを目的とする.
令和5年度は,これまで研究してきた遺伝子相関ネットワークの適用データの拡大と,研究計画書に記載した差分ネットワークの提案および検証,そしてこれらの分析手法となり得るネットワーク分析手法の研究を行った.適用データの拡大については,筑波大学・島野研究室で作成された2型糖尿病モデルマウスの膵島から得られた単一細胞遺伝子発現データを対象として前年度に引き続き分析を行い,Anxa10という糖尿病初期に重要と推測された遺伝子に関連の強い遺伝子群を,遺伝子相関ネットワークに対するPersonalized PageRankによって発見し,その結果を共同研究者らとまとめた論文がDiabetes誌に採録された.差分ネットワークについては,東京理科大学・松島研究室で作成された珪素誘導肺線維症マウスから得られた時系列データから,遺伝子同士の相関関係が変化した部分をネットワークとして抽出する手法を提案し,これに対するPageRankやクラスタリング等の結果を生物学の知識を用いて検証し,将来的に有用であろうという初期結果をまとめた論文を,国内学会DEIM 2024で発表した.ネットワーク分析手法の研究としては,その基盤であるネットワークフローの古典から最新のものまでの研究成果をまとめたDavid P. Williamsonによる書籍"Network Flow Algorithm"の翻訳を行い,丸善出版から刊行された.さらに,分析手法の応用として道路ネットワーク上による位置情報プライバシ保護手法を京都大学・吉川名誉教授らと提案し,IEICE Transactionsに論文が採録された.
2: おおむね順調に進展している
本研究の目的であるランキング変動要因推定手法の構築のために,遺伝子相関ネットワークの適用データを拡大することと,当初計画で提示していた差分ネットワークの提案および予備実験ができた.また,その生物学的検証も進展している.さらに,ネットワーク分析の成果も含め,論文誌2件の採録および書籍の刊行という形で本研究の成果を発表することができた.ランキングの変動分析手法はこれからさらに検討する必要があるが,上記から,概ね順調に進展していると考えられる.
令和6年度は,昨年度構築した差分ネットワーク等を対象として,本研究の目的であるランキング変動要因推定手法を構築する.これまで,特に肺線維症に関しては,数多くのランキングを作成し生物学的検証を行ってきたことから,遺伝子相関ネットワークにおける重要遺伝子候補が絞り込まれてきているため,その候補遺伝子およびネットワークにおける周辺遺伝子のランキング変動を分析し,変動の原因となっている度合いを定義し,検証することが有望と考えられる.その検証結果から,ランキング変動をモデル化し,要因推定手法を構築して実験を行い,手法を改良し,その成果を論文にまとめて発表する.また,差分ネットワークにおいて要因推定が困難であった場合に備えて,同一のデータを使用した機械学習,例えばベイジアンネットワーク構築ないしグラフ学習についても検討する.
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件) 図書 (1件)
IEICE Transactions on Information and Systems
巻: E106.D 号: 5 ページ: 877-894
10.1587/transinf.2022DAP0011
Diabetes
巻: 73 号: 1 ページ: 75-92
10.2337/db23-0212
Metabarcoding and Metagenomics
巻: 6 ページ: 261-280
10.3897/mbmg.6.79471