研究課題/領域番号 |
22K12233
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分61060:感性情報学関連
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
篠田 博之 立命館大学, 情報理工学部, 教授 (40278495)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2023年度: 2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
2022年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
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キーワード | 色覚特性 / 個人差 / 分光感度 / 条件等色 / 非単色光 |
研究開始時の研究の概要 |
人間の色覚は3種類の錐体視細胞の応答に由来する。そのため色は三次元情報として扱うことが可能で三原色に基づく色彩技術や色再現機器、色情報取得機器が飛躍的に発展した。しかし錐体分光感度には個人差が存在するため正確な色の扱いを難しくしている。そこで本研究では汎用的なディスプレイなどの非単色光を原刺激とする等色実験から観測者個人ごとの錐体分光感度関数を簡易に取得する手法を確立し、任意の原刺激や色覚特性で表色系を定義して異なる表色系間で色彩情報を互いに変換できる枠組みを構築する。さらに大量の色覚特性個人差データを集積し、真の標準観測者と複数の観測者類型からなる標準化モデルへの発展を目指す。
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研究実績の概要 |
既存の色彩技術は,分光組成(スペクトル)が同一でなくとも人間の網膜にある3種類の錐体視細胞の応答が等しければ同じ色として知覚する性質(条件等色)に基づいて確立されている.つまり多くのディスプレイやカメラなどは,分光組成そのものではなく三原色の出力・入力を介して色が制御されている.しかし厳密には,錐体の分光感度に個人差があるため,異なるデバイス間の厳密な色合わせにおいては,色の不一致が生じる.そこで個人差を考慮した色彩技術の開発が急がれており,そのために本研究では,(A)非単色光を用いた等色実験による観測者個人ごとの錐体分光感度推定手法の開発,(B)任意のデバイス原刺激(原色)と観測者の色覚特性で定義する表色系および異なる表色系間の色彩情報変換理論の提案,(C)個人ごとに得た錐体分光感度関数による色の見えや色差の予測と制御への適用,を課題とした. 2022年度は,(A-1)非単色光による条件等色から錐体分光感度を導出する計算理論の確立を目指して,汎用的な実験環境の設定,パラメータによる光学的および生理学的に妥当な個人差を考慮した錐体分光感度モデルの導入,等色結果のデータに基づく錐体分光感度関数の導出原理と適切な数学的手法の採用について検討した.また(A-2)としては,(A-1)で提案した手法の有効性をシミュレーション(仮想的な等色実験)を通して検証し,提案手法の理論的妥当性を確認した.さらに色弁別特性によって生じる等色の繰り返し誤差をシミュレーションデータに導入して手法の頑健性についても検討しその有効性を確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要に記した(A-1)に関して,実験環境としては汎用的なPCディスプレイを用いることとし,条件等色,つまり分光組成(スペクトル)の異なる刺激間の等色を成立させるために,色フィルタを用いることとした.ディスプレイから発する光にはさまざまな波長の光が含まれるため,波長の関数である錐体分光感度や測色値は表色系で参照される等色関数を直接得ることができない.そのため最小二乗法などの数学的な計算手法の適用が必要となる.そこで本研究では,3種の錐体の分光感度関数を先行研究の知見に基づいて10のパラメータを用いて表現することで推定すべき関数の次元(未知数)を減らした.さらに条件等色時に成立する等式の性質上,線形最小二乗法が適用できないため,進化的アルゴリズムの一つである差分進化法を用いてパラメータを導出する方法を提案した.次に(A-2)として(A-1)で提案した手法の有効性を検討するために,あらかじめ設定した推定分光感度関数を有する観測者を想定した仮想的な等色実験のシミュレーションを等してデータを作成し,作成されたデータに提案手法を適用して,設定したターゲット分光感度を正しく導出することを確認した.その際,ディスプレイや色フィルタは実際に手元にあるものを測定して得た分光データを用いることで現実的な実験における有効性を検証した.さらに色弁別閾値(色の違いを見分ける最小の色差)の特性に基づいて仮想的な等色実験のデータに揺らぎ(繰り返し誤差)を導入し,手法の頑健性を検証した.その結果,通常の色弁別閾値程度の等色のばらつきがあっても,6種類程度の参照色に対する等色を繰り返すことにより,正しく錐体の分光感度を推定できることを確認した.
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今後の研究の推進方策 |
2023年度はシミュレーションだけでなく,実環境の実験環境を整えて,等色実験を実施し,その結果に提案手法を適用して錐体の分光感度関数推定を試みる.その際,等色対象となる色の種類や数,さらに等色回数を適切に設定することと,パラメータによる個人の分光感度表現の有効性と限界についても確認する.
シミュレーションと異なり,個人差のばらつきが大きく,また色順応による色刺激ごとの分光関数自体の変位も想定されるため,より頑健な感度導出の数学的な手法の検討が必要になる.場合によっては2022年度に開発した手法の拡張や変更も余儀なくされる可能性もあり,その場合はパラメタライズされた分光感度関数への色順応メカニズムの導入,パラメータではなく各波長における分光感度を直接推定する方法についても検討することとする.後者の場合は推定すべき未知数が波長数×3錐体と膨大になるため,差分進化法意外の手法の導入についても検討する.
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