研究課題/領域番号 |
22K12341
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分63010:環境動態解析関連
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
豊田 威信 北海道大学, 低温科学研究所, 助教 (80312411)
|
研究分担者 |
木村 詞明 東京大学, 大気海洋研究所, 特任研究員 (20374647)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
3,770千円 (直接経費: 2,900千円、間接経費: 870千円)
2024年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2023年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
|
キーワード | 季節海氷域 / 力学過程 / 数値海氷モデル / 変形氷 / 衛星SAR / 数値モデル |
研究開始時の研究の概要 |
本研究の目的は、季節海氷域化が進む北極海の現状と海氷モデルによる氷況予測精度を改善する必要性に鑑み、海氷のレオロジー理論と観測データの両面から、多年海氷域と季節海氷域の力学過程の違いを吟味して検証し、現在の海氷モデルの問題点を抽出してその改善に資することである。そのために、北極・南極・オホーツク海における現場データや海氷漂流速度データ、衛星データから見積もられた変形氷域を基に、統一的かつ定量的に季節海氷域の海氷力学過程を評価する手法を開発して海域の特性および経年変化を探求する計画である。
|
研究実績の概要 |
前年度に研究方針の妥当性が確認されたことを踏まえて解析領域を北半球全体に広げ、1.北半球海氷域の力学的変数の海域別特性および経年変化の解析、2. PALSAR-2画像を用いて北極海の変形氷を抽出するアルゴリズムの検討に取り組み、本研究の核心部の成果をある程度出すことができた。 1.について、北半球海氷域を12の海域に区分し、各々の海域において20年間(2003-22)の漂流速度グリッドデータを用いて、変形速度の大きさやシアー・収束成分など力学的変数の年々変動に着目して解析を行った。特に力学的環境変化の指標としては、塑性的なふるまいを仮定して観測から見積もられる降伏曲線のアスペクト比(e)を取り扱った。これは様々な物理過程をシンプルに表現し、数値海氷モデルに直接的に関与するパラメータであるためである。その結果、北極海内での平均漂流速度はどの海域も10-15%/ decadeで増加傾向が見られ、変形過程には収束成分よりもシアー成分が重要な役割を果たしていること、ボーフォート海では有意なeの増加傾向が認められ、海氷形態の変化が反映している様子などが明らかになった。 2.について、前年度行った解析期間を3年間(2019~21)に拡張することにより前年度の解析結果を補強した。すなわち、SAR後方散乱係数は表面融解が進行する夏季は顕著な増加(約7dB)が見られたものの、冬季に限れば各年ともに変動は比較的安定していることが確かめられた。また、入射角補正を施した後方散乱係数で見ると、海氷変形理論から推測される顕著なリッジングの発生に伴って全体的に約1dB程度の有意な増加が示され、冬季PALSAR-2画像から変形氷を抽出するアルゴリズムの実現可能性が確認された。 以上のように、北半球海氷域については本研究の目的をある程度達成することができた。今後はさらに南極海氷域への応用が期待される。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
季節海氷化が進む北極海の現状において海氷モデルによる氷況予測の精度を改善する必要性に鑑み、本研究の目的は長期間の観測データを基に海氷の変形理論と観測データの両面から現用の数値海氷モデルの問題点を抽出してその改善に資することである。初年度は典型的な季節海氷域であるオホーツク海を対象にして漂流速度データから海氷変形理論の検証を行うことができたので、令和5年度は対象海域を北半球全体に広げた。その結果、どの海域も海氷域の振る舞いを塑性体として扱ったレオロジー理論に基本的にはよく適合しており、塑性体の降伏曲線を楕円で近似した現用モデルの粘塑性レオロジーが機能しうることが確認できた。本研究のもう一つの重要な関心は、海氷形態の変化に伴い海氷域の力学的なふるまいの経年変化を診断するパラメータの定式化は可能か、もし可能であればその実際の経年変化を明らかにするという点にあった。これに関して、楕円降伏曲線のアスペクト比(e)が診断パラメータとなりうることを示し、各海氷域の20年間の最適値eの経年変化を調べた結果、特に形態変化の著しいボーフォート海でeの値が有意に増加傾向にあることを示せたのは、本研究課題にとって意義深いものと考えている。 一方で、モデルの変形過程を検証するためには、観測データに基づいて変形氷の分布をモニタリングする手法の開発は喫緊の課題である。この点においても多年氷が存在する北極海では、表面融解による影響が避けられる冬期間に限定すれば、PALSAR-2画像から変形氷を抽出するアルゴリズムを開発する可能性が見出せたことは、変形氷分布の時間発展が追随できることに繋がり、本研究課題にとって意義深いものであった。 以上のように、当初の計画で令和4年度と令和5年度に行う予定であった事項をひと通り遂行できたので、これまでのところ研究計画を十分に遂行できたと考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
令和6年度はこれまでに北半球の海氷域で得られた成果を論文にまとめると同時に、解析領域を南極海氷域に拡張する予定である。具体的には、1.海氷漂流速度分布データを用いて得られた北半球海氷域の解析結果を論文にまとめること、2.北半球と同様の解析を南極海氷域でも行い、北極海との類似点や相違点を明らかにすること、また、昨年度の研究成果を発展させて、3.北極海を対象として衛星SAR画像から冬季の変形氷を抽出するアルゴリズムの開発に取り組む方針で、内容は以下のとおりである。 1.について、北半球全体を対象に同一基準で海氷を塑性体として扱うレオロジーの妥当性が確かめられ、力学的変数の経年変化を明らかにできた点には新規性があると考えられる。そこで、10月ころに海氷力学を専門とする研究協力者(ハッチングス博士、米国オレゴン州立大学)を訪問して十分議論を行い、論文の執筆にとりかかる。 2.について、研究分担者(木村)が南極海を対象とした海氷漂流速度データを整備したので、このデータを用いて南極海をいくつかの海域に区分してそれぞれの海域で北半球と同様の解析を行う。注目する点は、海氷域を粘塑性体として扱うレオロジーの妥当性の検証、解析結果の北極域との比較である。特に南極海の海氷域は2015年を境に急激に減少しており、この変化が力学的変数の特性にどのような影響を与えたかに留意したい。 3.について、できれば入射角補正をした後方散乱係数(HH)の分布について観測データを基に検証を行ったうえで取り組む。検証に用いるデータとしては、現場観測データ(MOSAiC)や衛星高度計データ(ICESat-2)から得られる表面凹凸が候補であり、冬季限定で変形氷を抽出するアルゴリズムの開発を行う。 得られた解析結果は分担者および研究協力者と十分に議論し、研究成果は論文や学会等で発表する。
|