研究課題
基盤研究(C)
我が国では、ここ数年来、中国から日本へ移流する越境PM2.5の健康影響が懸念されている。越境汚染物質中の二次生成有機エアロゾル(SOA)の組成は、室内実験の結果から大きく2つの議論にわかれている。1つは、SOAはオリゴマーやフミン様物質のような比較的分子量の大きい難分解性の有機物が主要成分であり、長距離輸送中に生成される。もう一つは、オリゴマーやフミン様物質は輸送中に光化学酸化反応などによって分解が促進され低分子化し、さらに分解副産物も生成するというものである。そのため本研究では、東アジアの国際共同観測ネットワークを活用し、上記2つの実態を解明することで健康被害の改善を目指す。
長距離輸送される同一気塊中のSOA を捕集するために、Shimada et al. (2020)を参考にして気塊の輸送経路である中国Tuoji 島、長崎と沖縄辺戸岬で同時に、2022 年〜2023 年の春季と冬季に大気観測(合計128 試料)を行った。TOC 計で全水溶性有機成分(WSOC)を分析した。全有機炭素(OC)と元素状炭素(EC)をOC/EC計で分析し、全疎水性有機成分(WIOC)はOCとWSOCの差分により算出した。どの試料が同一気塊中のSOA を捕集したか調べるために化学的変質を起こさないEC、衛星と3次元大気化学モデルを組み合わせた解析手法を用いて同定した。特に、その同定した試料の低分子有機物である高極性水溶性有機物(HP-WSOC)と高分子有機物であるフミン様物質(HULIS)をZhou et al. (2022)の方法で2分画に抽出し、エアロゾル質量分析計で定量分析を行った。本研究で同一気塊中に分類されたWSOC の生成と分解を調べるために、EC の規格化により定式化(生成及び分解率=WSOC/EC(Hedo or Nagasaki) / WSOC/EC(Tuoji)×100)をした。その結果、Tuoji 島から長崎へ輸送時のWSOC/EC の平均値は105%の生成率を示した。長崎から辺戸岬へ輸送時のWSOC/EC の平均値は152%の生成率を示した。このことより、WIOC が酸化され水溶性化したことが考えられた。次に、WSOC 中の低分子であるHP-WSOM と高分子であるHULISのどちらの割合が増加しているか調べるため、上記の式と同様にHP-WSOC とHULIS をEC の規格化により定式化した。Tuoji 島から長崎への輸送時のHP-WSOC/EC とHULIS/EC の平均値は172%と250%となり共にとも生成を示した。長崎から辺戸岬への輸送時のHP-WSOC/EC の平均値は94%となり分解を示し、HULIS/EC は285%を示し生成を示していた。このことより、HP-WSOCとWIOCの酸化によりHULIS の生成量がHP-WSOM よりも多くなっていることがわかった。
3: やや遅れている
2022年度は、まだ新型コロナの影響があったので化学分析が順調にすすまなかった。しかし、2023年度は化学分析を急いで行ったが、まだ十分でない。
1)試料採取:2024年の1月と3月の春季と冬季に辺戸岬に位置する国立環境研究所 辺戸岬 大気・エアロゾル観測ステーション(CHAAMS)(日本)、長崎大学(日本)とTouji島(中国)で2週間のサンプリングを行い、1季節、1箇所につき14個、計42個の試料採取を行う。2)SOAの分析と評価方法2-1)捕集されたエアロゾル中の有機物における全有機物濃度はTOC計(水溶性有機物分析)とOC/EC計(水溶性と疎水性の有機物分析)で分析する。各地点で同一の大気汚染物質を観測したか調べるために3次元大気シミュレーションモデルであるCMAQ、エアロゾルを検出できる衛星のCLIPSOと上記の時系列データを組み合わせた解析を行う。そうすることで、各地点で同一の大気汚染物質の試料を選別できる。2-2)2-1)で選別した大気試料をZhou et al. (2021)の方法を用いて、カラムにより有機成分を3分画し抽出する(疎水性有機物、水溶性有機物、フミン様物質)。Touji島と沖縄とで、フミン様物質の分画が占める割合を比較することで、輸送中に高分子有機物が生成しているかどうかを推定する。2-3)分画された各々の有機物をZhou et al. (2016)に従い、エアロゾル質量分析計(AMS)を用いて分画された各々の有機物の酸化度および定量化を行う。
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