研究課題
基盤研究(C)
近年、領域気候モデルの発展により、南極氷床内陸部における表面質量収支の時空間変動が明らかになってきた。南極氷床上では、地吹雪によって表面の積雪が削剥・再堆積するが、これらは氷床表面微地形に起因するため、表面質量収支の空間変動を複雑にしている。表面質量収支に対する氷床表面微地形の影響の評価は、領域気候モデル計算の高精度化に不可欠である。本研究の目的は、氷床表面微地形と卓越風向に着目した、東南極氷床の高精度表面質量収支の解明である。具体的には、雪尺観測、UAVレーザー測量、気候再解析データ・衛星データ解析により、表面質量収支と氷床表面微地形、卓越風向の二次元(面)的相関関係を定量的に解明する。
申請者は第64次南極地域観測隊に越冬隊員として参加し、2022年10月から2024年3月まで南極に滞在した。この間、2022年11月から2023年1月、および2023年11月から2024年1月の二度にわたって南極氷床内陸旅行に参加し、氷床上S16観測拠点からドームふじ基地に至る内陸ルート沿い、およびルート上の雪尺網、雪尺列観測サイトにおいて表面質量収支観測を実施した。新しく取得したデータと、1990年以降に取得されてきたデータを統合し、1990-2023年にわたる表面質量収支データをまとめた。氷床の表面地形に応じて表面質量収支を3つの領域に区分し、同期間の年々変動および傾向を調べた。その結果、当該調査地域である東ドロンニング・モードランドにおいて、表面質量収支は1990年以降にわずかな増加傾向を示した。また、人工衛星観測や領域気候モデル実験で指摘されていた、2009年および2011年の顕著な氷床質量の増加も本観測で捉えていた。表面質量収支の年々変動幅は大きく、涵養量の増加傾向に関する統計的優位性は見られなかった。今後は表面質量収支の年々変動と南極振動(Antarctic oscillation)との相関関係を解析する。表面質量収支の大きな増加は大気の川(Atmospheric River)と呼ばれる、南極周辺の海洋からの水蒸気輸送に由来することが先行研究により報告されている。本研究で明らかになった南極氷床内陸における表面質量収支の年々変動のメカニズムを、低緯度地域からの水蒸気輸送と絡めて明らかにしたい。
3: やや遅れている
氷床表面微地形の空間分布の評価については、近赤外レーザー距離計の購入を延期したため、南極氷床上での測量も延期とした。卓越風向と氷床表面微地形の関係においては、気候再解析データの整備、および断面曲率解析を実施している。また、表面質量収支の年々変動に関しても最新のデータまで解析が進んでおり、雪尺を用いた表面質量収支観測およびデータ解析については概ね順調に進展している。
近赤外レーザー距離計による氷床表面微地形測量の実施が遅延する見込みのため、代替として回転翼UAVによる空中写真撮影、およびSfM解析による数値標高モデルの作成を計画する。
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