研究課題/領域番号 |
22K12369
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分63020:放射線影響関連
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
島田 幹男 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 助教 (20548557)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | 重粒子線 / 癌治療 / 中心体 / DNA切断 / 高LET放射線 / 染色体不安定性 / がん治療 / 細胞分裂死 |
研究開始時の研究の概要 |
高LET放射線はp53変異を持つがん細胞においても細胞死を効率的に誘導するが、その要因としてp53の活性に依存しない細胞死の様式の一つである「細胞分裂死」の割合が多く占めているからと考えられる。しかし、高LET放射線がいかに細胞分裂死を誘導するかは不明な点が多く、そのメカニズムを利用した効率的ながん治療法の開発の障壁となっていた。そこで本研究では高LET放射線が細胞分裂死を誘導する分子メカニズムの解明を目的とし、細胞分裂死を促進する化合物の開発に結びつけ、現在よりさらに効率的ながん治療法の確立を目的とする。
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研究実績の概要 |
本研究の目的は高い線エネルギー付与(高LET)効果を持つ重粒子線が低LETであるX線やガンマ線と比較して細胞に照射時に高い確率で細胞分裂死を誘導する現象に着目し、その分子メカニズムの解明を目指すものである。 がん化した細胞は半数以上がp53遺伝子に変異を持つことが知られている。そのため転写産物であるp53タンパク質依存的な細胞死であるアポトーシスの活性が低下しているためにがん細胞では低LET放射線によるアポトーシスの誘導が十分ではないという課題があった。一方で高LET放射線である重粒子線はp53に依存しない細胞分裂死を高頻度で誘導することが知られており、低LET放射線より高いがん治療効果を示すが、その作用機序に関しては不明な点が多かった。そこで、本研究では重粒子線がいかに細胞に対して細胞分裂死を誘導するか、分子メカニズムの解明を目指す。そのために高LET放射線が細胞内の染色体に損傷を与える際、低LET放射線と比較して複雑な損傷を与えるために、染色体の3次元構造レベルで大きな変化を及ぼすと仮定してその解明を染色体立体配座補足法を用いて解析する。さらに細胞分裂の際に正確に染色体を分配するために必要な中心体の数の維持に高LET放射線が影響を与えることは申請者が以前に報告済みであるが、本課題では中心体タンパク質やDNA修復タンパク質の関与など、分子レベルでの解析を進める。 構造、分子レベルでの解析により高LET放射線による効率的ながん細胞への細胞分裂死の誘導メカニズムの解明を実施する。 本課題は2年目であり、昨年度に引き続き、量子科学研究開発機構千葉地区医学生命科学部門重粒子照射施設(HIMAC)との共同研究により重粒子線照射実験を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究課題は重粒子放射線の細胞内染色体への作用機序を明らかにするものであるために、重粒子放射線を照射可能な国内施設の一つとして量子科学研究開発機構千葉地区医学生命科学部門重粒子照射施設(HIMAC)との共同研究を実施している。2023年度は計4回放射線照射のためにHIMACにおいて細胞照射実験を実施した。用いた細胞はヒト網膜上皮正常細胞であるRPE1-hTERT、ヒト大腸がん細胞HCT116およびゲノム編集によりp53遺伝子をノックアウトした細胞HCT116 p53-/-を使用した。また、幹細胞の染色体維持機構と比較するために幹細胞のモデル細胞としてヒトiPS細胞を用いた。これらの細胞に炭素線照射後48時間、72時間後に固定し、中心体マーカーであるpericentrin、微小管マーカーであるα-tubulin抗体を用いて免疫染色し、中心体異常の動態を観察した。その結果、炭素線照射はガンマ線照射よりも中心体異常を引き起こす頻度が増加することがわかった。さらに放射線防護作用を持つラジカルスカベンジャーであるジメチルスルホキシド(DMSO)処理により中心体異常が減弱するかを検討した。その結果、DMSOの放射線前処理は中心体過剰複製と多極性細胞分裂の頻度を減少させることがわかった。
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今後の研究の推進方策 |
初年度において量子科学研究開発機構千葉地区医学生命科学部門重粒子照射施設(HIMAC)において計4回の細胞照射実験を実施したが、3年目である2023年度も引き続き、前期において2回のマシンタイムを配分されているために細胞照射実験を実施する予定である。また、申請者所属の東京工業大学コバルト60照射施設においてもコントロール実験としてガンマ線を用いた低LET放射線照射を実施する。初年度と同様にウエスタンブロッティング法と免疫染色法を用いて解析を進めていく。すでに本課題の実施項目のうち中心体異常と重粒子線照射に関連する内容で論文を投稿中である。 また、染色体立体配座補足法(Hi-C)を用いた解析はすでに公共データベースに存在する照射サンプルの次世代シークエンスのデータを抽出し、解析する実験でも十分なデータが得られることから、引き続き解析を進めていく。
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