研究課題/領域番号 |
22K12370
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分63020:放射線影響関連
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
古谷 寛治 京都大学, 生命科学研究科, 講師 (90455204)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2024年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
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キーワード | リン酸化 / オートファジー / データベース / 機械学習 / 放射線抵抗性 / PLK1 / DNA損傷 / ヒストン / 放射線発がん |
研究開始時の研究の概要 |
本研究課題の目的は、がんの放射線ストレス抵抗性の獲得の仕組みを理解することである。ここまでの研究成果を元に、がん細胞において、オートファジーは放射線ストレスへの抵抗性を獲得する際にPLK1の発現と活性を亢進させる必要があるとの仮説を立てたので、それを検証する。具体的には、生化学、遺伝学的手法を用い、オートファジー機構によるPLK1の発現調節を介した、細胞の放射線耐性の獲得機構を担う因子を同定する。オートファジーの新規機能として、リン酸化ネットワークの調節による、細胞状態の変換という概念を提示することで、放射線照射後の細胞運命の正確な予測を可能とする新たな知見を生み出せるのではと期待している。
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研究実績の概要 |
がんは放射線にさらされながらも増殖し続けることが知られており、このがんの放射線抵抗性の獲得をいかに回避し、克服するかはがん放射線療法における大きな課題となっている。これまでに、申請者は、がん細胞が、放射線によるDNA損傷ストレスに曝されながらもDNA複製を亢進させることで放射線抵抗性、すなわち放射線ストレス下での異常増殖能を獲得することを示し、その仕組みとしてPLK1に依存したリン酸化シグナル経路を同定し、申請に先立ち報告してきた。この独自の知見に対し、データベース解析と分子生物学的手法を組み合わせた解析を行うことで、がん細胞が、PLK1のリン酸化経路の亢進を介して放射線抵抗性を獲得する際にオートファジーの活性化が頻繁に引き起こされることを見出してきた。オートファジーは、放射線ストレスにおいても活性化することは報告されている。しかしながらオートファジーのDNA損傷ストレス応答での制御詳細は、完全な理解には未だ至っておらず、がん自体が細胞種ごとに多様であるということも踏まえると、理解に進めるためには分子生物学的手法だけでは困難を伴うことが予想される。そこで、本研究課題では、情報学と分子・生化学的手法に加え、機械学習による単一細胞解析といった数理的なアプローチを組みあわせた融合研究的手法を駆使することで、がん細胞におけるPLK1とオートファジーの活性化を介して、DNA複製の異常亢進、すなわち放射線抵抗性獲得に向かわせる分子ネットワークを、転写の活性化とリン酸化シグナル経路に着目することで明らかにすることを目指し、放射線照射後の細胞運命の正確な予測を可能とする新たな知見の獲得を目標とする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
人工知能は、人間の目では検出できない微妙な変化やパターンを識別し、その中に埋もれたルールを抽出することに長けている。近年、こう言った人工知能をベースとした機械学習の発展が、画像解析において大きな成果を上げている。申請者らは、ゲノムストレスマーカーである、リン酸化H2AXを蛍光染色により可視化した際に細胞ごとに多様なフォーカスパターンが見られることを見出た。このリン酸化H2AXフォーカスの多様な蛍光細胞画像の中から、教師なしと教師あり機械学習を用いることで、異常増殖を引き起こすがん細胞のパターンを抽出することに成功し、その検出システムを、2022年度に論文として報告した。この経験を発展させ、2023年度には、DNA複製のプロセスをEdUを用いた蛍光染色により可視化し、得られた多様な蛍光細胞画像を教師なし機械学習解析を行った。PLK1が異常亢進し、放射線抵抗性を獲得した細胞とそうでない細胞を比較した結果、放射線抵抗性を獲得したがん細胞に特異的に見られるDNA複製過程のパターンを抽出するに至った。並行して、分子生物学的知見も蓄積しており、がん細胞においてリン酸化酵素PLK1とオートファジーの活性化が引き起こされやすい放射線線量やタイムポイントを特定した。さらに、これまでのデータベース解析に加え、独自のRNA-seq解析を行うことで、がんの異常増殖(放射線抵抗性獲得)が引き起こされた細胞群においてオートファジー関連の因子のうち、転写レベルで亢進するものを特定した。一連の解析結果により、PLK1とオートファジーの活性化に伴う放射線抵抗性の獲得に向かう分子ネットワークを狭めていく、最終年度に向けた解析基盤が整ったと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度(2024年度)は、機械学習を用い、EdUにより可視化したDNA複製中の蛍光細胞画像と、リン酸化H2AXフォーカスの蛍光細胞画像の二種を用いることで異常増殖を引き起こしたがん細胞(放射線抵抗性獲得がん細胞)を検出する手法と、我々の実験結果やデータベース解析から抽出したPLK1とオートファジーに関連する候補遺伝子群のノックダウンなどの分子生物学的手法を用いた解析を組み合わせた手法をおこなう。初年度の報告を踏まえると、この融合研究アプローチにより、着目する分子が、がんの放射線抵抗性獲得に関わるかの可否を判断することができ、放射線抵抗性獲得に向かわせる分子ネットワークを明らかにしていくことが可能となると考えている。機械学習による画像解析により、がんの放射線抵抗性獲得に関与する分子が同定できた際には転写レベルで調節されていることが示唆されるものに関しては、転写因子の同定をプロモーター解析や、既に立ち上げた単一細胞RNA-seqの擬時系列解析システムを用いたデータベース解析から転写ネットワークの抽出を目指す。それらの因子を構築した機械学習解析により放射線抵抗性獲得に関与するかを判定する。栄養源環境や、さまざまな培養条件で時系列解析、機械学習解析を繰り返し行うことで、どう言った状況にある細胞が、どのような仕組みで放射線抵抗性の獲得に向かうのかが明らかになり、これらの知見をもとに、機械学習によりがん細胞における将来の放射線抵抗性の獲得の有無を予測するシステムの構築を目指す。
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