研究課題/領域番号 |
22K12372
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分63020:放射線影響関連
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
寺東 宏明 岡山大学, 自然生命科学研究支援センター, 教授 (00243543)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | DNA損傷 / 変異 / 重粒子線 / 中性子線 / BNCT / TRT / LET / アルファ線内用療法 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、近年新しいがん治療法として実施されている重粒子線照射、BNCT、TRTなどの手法において、がん細胞にどのようなDNA損傷が生じ、その結果、どのような変異が誘起され、がん細胞が死滅するのかを明らかにすることを目的とする。実験はそれぞれの放射線(放射性物質)を培養細胞に処理し、培養細胞中に生じるDNA損傷と変異スペクトルを分析することにより、がん細胞に致死的影響を与える損傷と変異を明らかにする。さらに、細胞致死や変異との関係性を変異株やモデルDNA分子を用いて分析し、これらがん治療法の有効性に係る議論を行う。
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研究実績の概要 |
本研究は、新しいがん治療法として知られる重粒子線照射、BNCT、TRTにおいて、がん細胞にどのようなDNA損傷が生じ、どのような変異が誘起され、がん細胞が死滅するのかを明らかにし、これらの手法の作用機序を知り、その効率化に資するためのものである。実験はそれぞれの放射線・放射性物質を培養細胞に処理し、細胞中に生じる損傷と変異スペクトルを分析することにより、がん細胞に致死的影響を与える損傷と変異を明らかにする。さらに、細胞致死や変異との関係性を変異株やモデルDNA分子を用いて分析し、これらがん治療法の有効性に係る議論を行う。 今年度は引き続き重粒子線とBNCTに注目して検討を行った。重粒子線は高LET放射線として、局所的な細胞傷害を引き起こすことから、修復困難で複製阻害効果の大きいクラスターDNA損傷を効率的に生じる。私はその損傷分析を行ってきたが、変異の情報は少ない。本研究では炭素イオン線を用いてその変異スペクトルを明らかにするとともに、変異の原因となる損傷を確認した。炭素イオン線照射はQSTのHIMACを利用した。BNCTはホウ素が中性子と反応して生じるα線とLi線が、がん細胞を効果的に殺傷することを利用する治療法である。BNCTの先行研究においても、DNA損傷に注目した研究はほとんどなく、BNCTでの細胞傷害にどのようなDNA損傷が関与しているかは明らかではない。中性子線照射は、京都大学複合原子力研究所ならびに近畿大学原子力研究所の二つの研究炉で行い、DNA損傷の分析と生存率を指標とした細胞傷害を観察した。その結果、中性子線照射のみでもガンマ線と比較して高い感受性とDNA損傷収率をみることができた。BNCTでは中性子のみの照射と比較して若干の感受性とDNA損傷収率の増加をみたが、臨床で見られる効果の向上をみることができなかった。よって、条件を変えて実験を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の成果として、重粒子線では、プラスミドDNAを炭素イオン線照射した後、大腸菌コンピテント細胞に導入し、クローン化した後、シークエンスを行った。炭素イオン線で生じた変異は一塩基欠失が最多で、次にCG to TAトランジションであった。一方、ガンマ線では欠失はほとんどなくGC to TAトランスバージョンであった。質量分析により、炭素イオン線では5-ヒドロキシシトシン、ガンマ線では8-オキソグアニンが最も多く生じる損傷であり、変異スペクトルと一致する結果が得られた。 BNCTでは、培養細胞を原子炉中性子照射してDNA損傷分析と細胞傷害観察を行った。この実験はBNCT条件下、非条件下で行い、結果の比較を行った。BNCT非条件下でもガンマ線より多くの損傷が生じ、細胞生存率が低下した。BNCT薬剤としてはBPAとBSHの二種類を用いた。いずれの薬品処理においてもBNCT非条件下と比較して細胞生存率低下とDNA損傷収率の増加が認められたが、BNCT治療から期待される程度ではなかった。このことについてはさらに検討を行う必要がある。 TATについては、α線源としてRn-222を用いた実験系を構築し、検討を始めた。 重粒子線の結果は学術論文雑誌(J Radiat Res)に投稿中である。また、国際学会(17th International Congress for Radiation Research)、国内学会(日本環境変異原ゲノム学会第52回大会)で報告した。BNCTの結果は京都大学複合原子力研究所報文集KURNS Progress report 2022ならびに国内学会(京都大学複合原子力科学研究所第58回学術講演会)で報告を行った。以上、二年目において三種類の線種のうち二種類について成果を得ていること、また、結果を論文等により発表できており、本研究はおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の進め方としては、BNCTでまだ解析ができていない変異スペクトルの分析を行う。このことについては重粒子線で行った方法と同様に精製プラスミドDNAを原子炉中性子線にてBNCT条件下、BNCT非条件下で照射し、クローニングによるDNA複製過程を経て、シークエンスにより変異を検出する。BNCTについてはBPAとBSHという二種類の代表的な試薬があるが、前者については、水系溶媒に対する溶解度が低いことが問題となる。このことが今年度の結果が予想より低い数値になった原因である可能性がある。このことについて、イオン溶液ならびにDeep Eutectic Solvent(DES:深共晶溶媒)を用いた溶解方法の検討により解決を目指す。 ATについては、α線エミッターとしてRn-222を用いる。Rn-222は気体の放射性物質で、Ra-226培地に加えることによって処理を行い、同様にDNA損傷を分析するとともに、変異スペクトルの解析も重粒子線やBNCTと同様に行う予定である。TATにおける線量測定は培地中の放射性物質濃度から計算する。 研究遂行上の課題としては、重粒子線ならびにBNCTについてはそれぞれ量子科学技術研究開発機構のHIMAC、京都大学複合原子力研究所ならびに近畿大学原子力研究所の二つの研究炉を用いて照射実験を行うが、これらは全国共同利用施設であり、全国から多くの利用者が利用することから、配分されるマシンタイムに制限があり、それが研究遂行の律速になるという問題がある。HIMACならびにKURはここ2-3年での運転停止が決まっており、本研究期間中での実験完了が求められる。
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