研究課題/領域番号 |
22K12427
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分64020:環境負荷低減技術および保全修復技術関連
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
高塚 由美子 京都大学, エネルギー理工学研究所, 特定准教授 (70570810)
|
研究分担者 |
原 富次郎 京都大学, エネルギー理工学研究所, 特定教授 (70616193)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
|
配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
|
キーワード | ポリ塩化ビフェニル類 / 還元的脱塩素化酵素 / 遺伝子組換え細菌 / ビタミンB12 / Dehalococcoides / 網羅的細菌叢メタゲノム解析 / ポリ塩化ビフェニル |
研究開始時の研究の概要 |
ポリ塩化ビフェニル類(PCBs)の微生物利用環境浄化技術への活用が望まれる「高塩素置換型PCBsの還元的脱塩素化反応」を、人為的にさらに「大気下で」実現する革新的生物触媒の創出を目的に、遺伝子組換え酵素によるPCBs脱塩素反応に必要な因子及び至適反応条件を探索し、さらに嫌気下で活性を示した組換え酵素に金属結合型補酵素を取り込ませた新機能酵素の創生を目指す。
|
研究実績の概要 |
ポリ塩化ビフェニル類(PCBs)は難分解性の環境汚染物質で、世界に数多い汚染土壌や河川等の有効な浄化法が希求されている。自然界でのPCBs微生物分解には「好気下での酸化的ビフェニル環開裂」と、反応条件が厳しく実利が困難とされる「嫌気下での還元的脱塩素化」が知られる。本研究は、微生物利用環境浄化技術に資する「高塩素置換型PCBsの還元的脱塩素化反応」を人為的に、さらに「大気下で」実現する革新的生物触媒の創出を目的とする。 偏性嫌気性細菌のPCBs還元的脱塩素酵素は、ビタミンB12を補酵素としてコバルト還元に働く2つの鉄-硫黄クラスターを持つと推定されるが、結晶構造や実用的な精製酵素、及び組換え酵素によるPCBs脱塩素化の報告はまだ無い。我々は先行研究(H30-R2年度 挑戦的研究(萌芽))において、唯一の遺伝子同定報告があるデハロコッコイデス属細菌のPCBs脱塩素酵素をモチーフに、これを発現する組換え細菌株を作製したが、まだPCBs脱塩素反応を検出していない。 当該年度は、まず組換え酵素による高塩素置換型PCBsの人為的な脱塩素反応の達成に重点を置き、至適反応条件調査のため、国内のPCBs汚染原位置から採取した地下水にPCBsを意図的に添加した嫌気的雰囲気下のモデルを構築し、PCBs濃度と含有異性体比率の経時的変化、及び試料水中に集積する脱塩素化細菌を解析した。その結果、PCBsの緩やかな減衰を確認するとともに、デハロコッコイデス属細菌の他に、PCBs脱塩素化細菌として報告がある2種属を検出した。また、作製する組換え酵素の選択候補を広げることを念頭に、PCBsが緩やかに減衰する際のPCBs脱塩素化現象の情報を広く得るため、採取した地下水中の細菌叢をメタゲノム解析により網羅的に調査した。その結果、上述の嫌気的モデルで検出した3種属に加えて、新たな候補可能性種属の存在が示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度は、計画していた「PCBs汚染原位置地下水を用いた脱塩素反応の至適条件調査」のうち、人為的な嫌気的モデルでのPCBs脱塩素化細菌の確認や汚染原位置地下水を用いた網羅的細菌叢メタゲノム解析など、おおむね計画通りに進んだ。 より具体的に、人為的な嫌気的モデルでは、30 mg/Lの初期濃度で添加したPCBs濃度が緩やかに減衰することを確認したとともに、PCBs脱塩素化の報告がある細菌3種属が検出されたことから、この現象が微生物によるものであろうと考えられた。また、この結果は上述した先行研究の挑戦的研究(萌芽)の中で実施した予備調査結果と同じ傾向を示しており、両結果を相互に強く支持したと考えた。 さらに汚染原位置地下水中の網羅的細菌叢メタゲノム解析では、嫌気的モデルで検出した3種属のPCBs脱塩素化細菌に加えて、組換え酵素作製の候補となる可能性がある新たな種属も検出されたことから、新たなPCBs脱塩素酵素の情報を取得できることを期待して、次年度も解析を継続したい。 但し他方では、水酸基が結合したPCBsを脱塩素化すると報告のある細菌の存在が疑われたため、その反応経路を追跡する調査を試みたが中断した。その原因はコロナ禍及び近年の国際情勢にあり、水酸化PCBsの分析を依頼する機関において、分析に必要とされるヘリウムガスの供給が滞ったことから影響を受けた。現在も引き続きその入手が困難とのことである。本PCBs脱塩素化機構は本研究の手がかりとなる可能性をまだ秘めていることから、代替法の検討を含めて水酸化PCBsの分析が試行できるように努めたい。
|
今後の研究の推進方策 |
次年度はPCBs汚染原位置地下水を用いた脱塩素反応の至適条件調査を継続しつつ、(1)組換え酵素による高塩素置換型PCBsの人為的な脱塩素反応の達成に重点を置き、必要な因子や至適反応条件を探索し、その上で(2)嫌気下でPCBs脱塩素活性を示した組換え酵素に、1価コバルトを安定再生できる特性を付与した新機能酵素の創生を目指す。 (1-1)組換え酵素によるPCBs脱塩素反応に必要な因子の探索:既に構築しているデハロコッコイデス属PCBs脱塩素酵素の発現系に改良を加える。組換え型脱塩素化酵素の活性検出は世界でも余り例がないが、数少ない成功例である塩素化エチレン類の脱塩素酵素などを参考にして、酵素高次構造や活性へ影響すると予想される多くの寄与因子、さらには酵素異種発現における宿主などについても検討する。 (1-2)PCBs汚染原位置地下水を用いた脱塩素反応の至適条件調査:これまでに嫌気的モデルでPCBsの緩やかな減衰を繰り返し確認できていることから、本モデルでの脱塩素反応を明らかにする。この成果をこれまでの報告と並べて本研究のPCBs脱塩素化機構を構築するための重要な参考データに位置づける。また上記に加え、嫌気的モデル及び網羅的細菌叢メタゲノム解析で検出された数種類のPCBs脱塩素化候補種属についても再現性を確認するとともに、新たな組換え酵素の選択モデルになり得るかについて検討する。 (2)コバルトを安定再生できる特性を付与した新機能酵素の創生:1価コバルトを安定再生するため、活性中心付近に導入する低分子化合物の構造や、導入位置について検討する。
|