研究課題/領域番号 |
22K12451
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分64030:環境材料およびリサイクル技術関連
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研究機関 | 岡山理科大学 |
研究代表者 |
山田 真路 岡山理科大学, 理学部, 教授 (80443901)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2022年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | プロタミン / バイオプラスチック / 生分解性素材 / 抗菌性素材 / 環境材料 |
研究開始時の研究の概要 |
プロタミンは核タンパク質の一種でありアミノ酸組成としてアルギンが2/3以上存在する強塩基性である。そのため、食品保存剤として使われるほど抗菌性を有している。その上、プロタミンは産業廃棄物として処分されている魚類の白子から容易に得ることができるため、サスティナブルな資源である。そこで、本研究課題ではプロタミンを用いた抗菌性バイオプラスチックの創製を提案する。プラスチックの創製にあたり、プロタミンは低分子量で特定の立体構造を有しない水溶性タンパク質であるため、不溶化が必須である。そのため、分子架橋を用いた不溶化を行う。更に、得られたプラスチックに対して構造、熱物性、抗菌性、生分解性評価を行う。
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研究実績の概要 |
海から多くの資源を得る日本にとって、海洋を漂うマイクロプラスチックは深刻な問題である。マイクロプラスチックの発生要因は様々あるが、石油由来のプラスチックが自然界で分解されないことが1つであると考えられている。この問題を解決する方策として、生物由来の資源を用いたバイオプラスチックがある。そのバイオプラスチックの代表として生分解性を有するポリ乳酸がある。ポリ乳酸は植物由来デンプンの発酵によって得られた乳酸を重合することで得られ、工業生産が行われている唯一のバイオプラスチックである。しかし、ポリ乳酸は植物の栽培やデンプンの発酵、乳酸の重合等で多くのエネルギーを消費する上、植物を栽培する広大な土地も必要とする。そこで、サスティナブルな生物サイクルから得られ、重合プロセスを必要としない生体高分子を用いたバイオプラスチックが注目されている。本研究課題では魚類の白子に含まれる核タンパクの一種・プロタミンに注目した。プロタミンはアミノ酸の2/3以上がアルギニンであり、強塩基性タンパク質である。そのため、抗菌性を示すことが知られている。そこで、本研究課題では抗菌性を有したプロタミンプラスチック(P-プラスチック)の創製を試みた。 初年度は当初の計画通り、P-プラスチックの創製および力学的な特性評価を行った。プロタミンには市販のプロタミン硫酸塩と脱塩したプロタミンの2種類を用いた。初めにP-プラスチックの創製として架橋剤の検討を行った。特に、初年次は架橋剤としてホルムアルデヒド(HCHO)を中心に検討した。作製したP-プラスチックの水安定性は、プラスチックを水に浸漬しその形状変化を見ることで評価した。また、P-プラスチックの構造は赤外吸収スペクトルにより解析した。力学的な物性は万能試験機により評価し、市販の高分子素材と比較することで、P-プラスチックの有用性を検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初、P-プラスチックの調製を溶液から試みたが、粉末状の試料しか得ることができず、プラスチックとして評価することができなかった。そこで、現在までに申請者が行っている脱脂大豆プラスチックやDNAプラスチックの手法を応用した。油圧式プレス機を用いてプロタミンペレットを作製し、そのプロタミンペレットをHCHO溶液に一定時間浸漬後、オーブン中で熱処理を行った。実際の実験ではHCHO溶液の濃度、浸漬時間、加熱温度および加熱時間を検討した。更に、作製したP-プラスチックを水に浸漬し、目視による形状変化から水安定性を評価した。その結果、HCHO濃度が10-15%で最も水安定性を示した。更に、熱処理の温度は80℃、加熱時間は1時間が最も高い水安定性を示した。 作製したP-プラスチックの膨潤性はエタノール-水混合溶媒を用いて評価した。その結果、水の割合が高くなると膨潤度が高くなるが、ホルムアルデヒド濃度を15%で作製した試料の方がネットワークの網目が小さくなることで膨潤度が抑制されることが示された。 P-プラスチックの構造は赤外吸収スペクトルから評価した。その結果、HCHOと反応することでC-Nの伸縮振動の増加がみられた。更に、C-Hの伸縮振動の増加も見られた。このことから、プロタミンはHCHOと反応することでメチレン架橋を形成していることが示唆された。 P-プラスチックの曲げ強度は万能試験機により評価した。曲げ強度はHCHO濃度の増加とともに大きくなった。この結果、架橋部位が増加することで力学的強度が増加することが示された。しかしながら、得られた曲げ強度は最大で約14 N/mm^2 であり、市販のポリエチレンの1/2以下であった。この結果、P-プラスチックの力学的強度を更に上げる必要性があること考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度の計画はおおむね当初の予定通りに進行した。そこで、2023年度は他の架橋剤も用い検討を行いたい。具体的にはグリオキサールやグルタルアルデヒド等を検討している。また、架橋剤ではないがアニオン性界面活性剤を用いた複合化等も検討している。異なる架橋剤または界面活性剤で得られたP-プラスチックは2022年度と同様に、目視による水安定性評価、エタノール-水混合溶媒を用いた膨潤性評価、赤外吸収スペクトルによるP-プラスチックの構造評価、万能試験機による曲げ強度評価を行う予定である。更に、これらと並行して、2023年度は生分解性の評価も行いたいと考えている。生分解性の評価としては、申請者が現在までに報告している脱脂大豆タンパク質の生分解性評価を応用する予定である。具体的には、プロナーゼ溶液(複数のタンパク質分解酵素が入っている酵素溶液)に、P-プラスチックを浸漬し、その質量変化から生分解性を評価する。実験温度としては酵素が最も効率よく作用する37℃で行う予定であるが、異なる架橋剤濃度で調製したP-プラスチックを用い評価をする予定である。更に可能であれば、生分解前後のP-プラスチックの電子顕微鏡観察を行い、その生分解メカニズムの解明等も行いたい。 現在は油圧式プレス機を用いるためP-プラスチックのサイズは直径13 mm、厚さ約1 mmであるが、2023年度に購入予定であるホットプレス機により、様々な形状のP-プラスチックを作製することができる。更に、ホットプレス機を用いることで反応させながらペレット化することができるため、新しい物性が生じることも期待される。 上記の研究が順調に遂行することができれば、2023年後半もしくは2024年度は抗菌性評価を行う予定である。そのため、抗菌性評価を行う部署とサンプルの準備等で打ち合わせが必要であると思われる。
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