研究課題/領域番号 |
22K12498
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分64060:環境政策および環境配慮型社会関連
|
研究機関 | 大阪公立大学 |
研究代表者 |
遠藤 崇浩 大阪公立大学, 大学院現代システム科学研究科, 教授 (50414032)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
|
配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2024年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2023年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
|
キーワード | 地下水 / 災害 / 井戸 / ガバナンス / 防災 |
研究開始時の研究の概要 |
地下水ガバナンス研究の主要テーマはアクター・法制度・政策・情報を視座として、地下水の有効利用に向けた官民の連携策を検討することである。既存の研究は平時の地下水利用を前提としており、災害時を想定した研究は極めて少ない。本研究では災害用井戸を「非常時における地下水ガバナンス」と捉え、地下水の防災利用に向けた官民連携を可能にする制度を考察する。具体的には札幌・仙台・熊本市における震災時地下水利用の実例に注目し、災害用井戸を機能させる制度設計上のキーポイントを明らかにする。これは非常時の地下水ガバナンスの特徴の明示化につながり、地下水ガバナンス研究の射程拡張が期待できる。
|
研究実績の概要 |
日本ではかつて地下水は主に産業資源として捉えられてきたが、災害時の断水の備え、すなわち防災資源としての有効性が注目されつつある。災害用井戸は自治体設置のものだけでなく、地域にある様々な民間井戸(一般家庭、自治会、工場、ショッピングモールなどの井戸)を断水被害の軽減に活用する取り組みである。これは災害という公共問題の解決に向けて地下水を官民連携で有効利用する動きであり、地下水ガバナンスの一例と見なすことが出来る。 本研究の全体目標は、3年間のうちに過去の震災経験から地下水の防災利用に向けた官民連携の課題とその解決策を抽出し、それにより災害用井戸を機能させる制度設計のキーポイントを提示することである。この目標に向けて2022年度は災害用井戸の実装段階(準備→維持→活用→見直し)と、地下水ガバナンス評価項目(アクター、法制度、政策、情報)をかけ合わせて、各段階で発生しうる課題の洗い出しを行った。 これまでの予備調査にて、準備段階および維持段階での課題(そもそも自治体は地域内の井戸所有者をどう把握するのか、地下水採取規制と震災利用をどう両立させるか、地域内の井戸の数をどのように維持するのか等々の課題)があることは把握していたが、活用段階における課題の把握が不十分であった。 そこで2022年度は活用段階における課題を抽出すべく、実際の災害時地下水活用の諸事例を調査した。具体的には本研究の主要調査対象地域である北海道札幌市、宮城県仙台市、熊本県熊本市をはじめ、茨城県神栖市、茨城県鹿嶋市、広島県呉市、広島県尾道市における災害時地下水利用を調査した。 また一部別予算を活用して、2年目で行う予定であった被災者(北海道札幌市・宮城県仙台市・熊本県熊本市)へのアンケートを前倒しで行い、その内容を踏まえた査読論文2編(和雑誌、国際誌)を公表した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで地下水の防災利用に関する既存研究の多くは、今後の災害に備えた地下水の探査技術の紹介や、断水時における地下水からの水供給量の推定など、将来の災害を念頭においたものであった。一方で、震災後の地下水利用は被災直後の混乱期に、地域に散在する民間井戸を通してなされることが多く、公的な記録に残りにくい性質をもつ。そのため震災後の地下水利用の実態には不明な点が多かった。 こうした状況を踏まえ、本研究では災害時の地下水利用に関するアンケートを行い、特に熊本地震について集中的な検証を行った。このアンケートは91の地下水の供給者(熊本市内の災害用井戸登録事業者)と328の需要者(熊本市内の高齢者関連施設)双方にアンケートを行い、うち57の供給者と118の需要者から回答を得たものである。このアンケートの解析の結果、以下の4点が明らかになった。 それらは①企業や事業所等の井戸30ヶ所の他、少なくとも戸建ての井戸25ヶ所が一般市民に開放された。その主な用途は飲用ではなく生活用であった。②民間井戸の活用は水供給の迅速さ、水アクセスの改善を通じて、自治体の給水活動を補完する効果をもった。③他方で、近くで井戸が開放されているにもかかわらず、井戸を利用しなかった高齢者関連施設が少なからず存在した。④このことより井戸の位置情報の周知が、震災後の地下水利用促進のための政策課題となることが明らかになった。 この研究は、これまで不明だった震災後の地下水利用の詳細、有効性と限界、将来の政策課題を初めて明らかにしたものである。これまで地下水は工業用等の産業資源、希少な動植物を育む環境資源としての性質を持つとされてきたが、本研究により新たに防災資源としての性質をもつことが明確化されたと言える。現在、国内の多くの市区町村が災害用井戸を導入しているが、熊本市の事例はそれらの自治体に有用な情報を提供する。
|
今後の研究の推進方策 |
災害用井戸活用に関する3都市(北海道札幌市・宮城県仙台市・熊本県熊本市)アンケートのうち、熊本市の調査結果を先行的に論文化した。これら3都市は近年発生した大規模地震(2018年の北海道胆振東部地震、2011年の東日本大震災、2016年の熊本地震)で被災した政令指定都市であることから主要調査対象地としたものである。今後は熊本市のアンケート結果と北海道札幌市、宮城県仙台市のそれを比較し、熊本市における災害用井戸の活用内容の相対化を図る。 また2022年度は上記3都市の他、他の市町村における災害時地下水利用の諸事例を調査し、井戸の活用段階における課題を抽出した。その結果、従来の想定よりも多様なアクターが関与することが明らかとなった。災害用井戸の多くは民間井戸であるため、その井戸の持ち主がボランティアとして出現することはかねてから知られていた。しかし今回の調査で、場所によっては開放されている井戸の情報を周知するボランティア、その情報を地図などに一元化して情報共有を進めるボランティア、開放されている井戸水を運搬するボランティアなど、多様な主体が存在することが明らかとなった。 災害関連組織の類型として、警察や消防など定置型組織、赤十字など拡大型組織、学校や企業などの転置型組織、自然発生的ボランティア集団などの創発型組織が知られている。この一般類型にあてはめると災害用井戸は転置型組織や創発型組織の色彩が強い取り組みと言える。災害研究においては、転置型組織や創発的組織と公的機関(定置型組織)との連携が重要な課題になっている。2023年度以降はこうした災害研究の知見も踏まえ、本年度の研究で明らかになった活用段階での課題(自治体等の公的機関と多様なボランティアの連携方法、井戸情報の周知など)について更なる調査を進める。
|