研究課題/領域番号 |
22K12540
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分80010:地域研究関連
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
大野 旭 静岡大学, 人文社会科学部, 教授 (40278651)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2024年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | アム河 / シル河 / アラル海 / 遊牧民の定住化 / ソ連の中央アジア政策 / 中央アジア / 中央ユーラシア / 環境問題 / ウズベキスタン / 綿花栽培 / ダム建設 / 環境変動 / 文明の興亡 / イスラーム |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、アラル海周辺の水利灌漑施設の整備と利用が進められていた時代の文明論的対立と思想的論争を当事者へのインタビューと文書解読で明らかにする。アラル海とそれに流入するアム河とシル河流域における社会主義期の開発が、現地社会にどんな変化をもたらしたのか。環境破壊を経験した理由は何なのかについて探究する。アラル海とその水源たる二大河流域の環境問題と社会変化を民族横断の観点から究明する。アラル海問題は独立後の中央アジア諸国の国際紛争と各国内の民族間紛争の遠因の一つにまで発展している。流域諸国・諸民族とアラル海を抱える諸国はどのように水資源をめぐる紛争に直面してきたのかについて分析する。
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研究実績の概要 |
令和5年度は当初の計画通りに夏に現地調査を実施した。 まず、カザフスタン共和国に入り、旧首都アルマトイにあるアル・ファラビ・カザフ国立大学をはじめ、カザフ国立公文書館と中央図書館等でシル河とその沿線に居住する遊牧民の定住化と社会主義時代の生活変容に関する文書資料について文献調査を進めた。それから、遊牧民カザフ人とロシアからの各種移住者(諸民族と政治犯を含む)が河川と湖沼地帯で参加した開発と労働の実態について把握する為に北部カルガンダ州まで移動し、当事者にインタビューを実施した。また、社会主義史観から脱皮してカザフ民族主義の構築に戻りつつある現在において、シル河とアラル海の環境変動に関する認識の変化についてインタビュー調査を進めた。 つづいて隣国のウズベキスタンに移動し、首都タシケントで同国科学アカデミーの研究者と意見交換をおこなった。ウズベキスタン国立中央図書館と「ソ連の迫害による犠牲者博物館」を見学し、資料を収集した。その際、アム河変遷地域におけるダム建設と水利施設の整備に伴う移住と村落の変遷、ソ連の政策の決定経緯と現地住民の反応に重点を置いた。 中央アジア諸国と隣接する中国側新疆ウイグル自治区の動静、特に国際的河川と湖沼の変動に関わる動きについても把握する必要から、台湾で文献調査をおこない、現地の中央アジア研究者と情報交換を進めた。また、冬にはカナダに赴き、トロント大学所蔵の中央アジア研究に関する最新の動向を把握できるよう努めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アラル海の枯渇とそれにともなう周辺と河川沿いの環境変化・現地住民の生活変容に重点を置く本研究は、当初の予定通りに現地調査と文献収集はおおむねスムーズに進んでいる。 初年度のウズベキスタン調査においては、アラル海の水源を成す二本の大河の一つであるアム河流域の水系とダム建設、現地住民の生活変容と移住に関する情報を集めることができた。 その次の年にはシル河が流れるカザフスタン共和国に入った。シル河もアラル海の水源であるし、アラル海はウズベキスタンとカザフスタンの二カ国にまたがって存在していた。旧首都での文献収集とインタビュー調査をおこなつた上で、北部カザフスタン草原まで現地調査を実施した。 ウズベキスタンもカザフスタンも旧ソ連邦の構成員で、均しく中央集権的な政策を受けていた。しかし、農耕都市民を主体とするウズベキスタンと主として遊牧民からなるカザフスタンの違いもまた大きい。農耕都市民社会では水利の整備という大義名分に即した政策が導入されたのに対し、遊牧民の場合だと、定住化は強制された。こうしたソ連時代の政策の違いと現地住民の抵抗等に関する情報は、現地調査が最も有効な手法の一つである。そうしたリアルな情報に接することができたので、研究は着実に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
研究最終年度の令和6年においては、当初の目標を掲げてトルクメニスタンに入る予定である。同国にはソ連時代に建設・掘削された有名なトルクメン運河をはじめ、アム河から取水する複数の運河・水路・貯水施設がある。いずれもソ連時代の「社会主義制度の優越性のシンボル」、「人間が自然に勝つ象徴」的な工事であると位置づけられていた。ソ連邦が崩壊した後も、トルクメニスタンは水資源の面で隣国のウズベキスタンに依存し続けている。水資源の分配と紛争を国際関係の中でどのように処理してきたかについて、現地から資料を集める予定である。 しかし、トルクメニスタンは権威主義体制を維持しており、現地入りが可能か否かも今年の政策を見ないといけない。トルクメニスタン入国が困難な場合は、隣国ウズベキスタンを流れ、トルクメニスタンへ水を供給する地点を複数選んで調査する。また、ウズベキスタンとカザフスタン、それにトルコ共和国に住んでいるトルクメニスタン国民に会い、インタビュー調査を進めることも可能である。
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