研究課題/領域番号 |
22K12554
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分80010:地域研究関連
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研究機関 | 羽衣国際大学 |
研究代表者 |
田渕 宗孝 羽衣国際大学, 現代社会学部, 准教授 (60788735)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,730千円 (直接経費: 2,100千円、間接経費: 630千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
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キーワード | 北欧 / 民族主義 / フォルク / 国民高等学校 / 福祉国家形成 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、19世紀後半から20世紀前半の北欧における民族主義に着目し、それが1930年代における福祉国家成立に与えたインパクトを考察する。対象は特にデンマークを起源とする国民高等学校とし、同学校を通じて共有されていった民族共同体思想のパフォーマティブな影響力の考察を試みる。その際、隣国ドイツとの民族主義の言説的異同は重要なポイントとなる。類似するゲルマン民族主義が一方ではそれが福祉国家体制へ、もう片方はナチズムへと歴史的に連なっていったのであり、本研究では従来好意的に受容されてきた北欧の「民主主義」と民族主義との関係を明らかにし、北欧の独自の近代意識を新たな観点で提示することが狙いである。
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研究実績の概要 |
2023年度の研究実績として、同年11月4日に北海学園大学にて開催された北ヨーロッパ学会大会自由報告にて、本研究の目的の一つである北欧の「フォルク」概念に関する歴史的実例と理論的分析の成果を報告した。 本発表は、「ビョルンソンのグロントヴィ主義」と題し、ノルウェーの作家B.ビョルンソンの「フォルク」の概念の特徴につき、デンマークにおけるN.F.S.グロントヴィとの関係性を焦点として歴史的に考察を行った。同考察の背景として、ジョージ・モッセがドイツの社会史研究を通じて明らかにした「フェルキッシュ」思想の流れを念頭に、北欧における類似の「フォルク」の思想の流れを浮かび上がらせるという枠組みにつき説明を行った。そのうえで、同報告ではビョルンソンの1850年代の初期農民文学における「フォルク」とハウゲ派キリスト教の関係性や、学生に向けたグロントヴィ主義プロパガンダの言説につき、当時のテキストを参考に分析を行った。本発表の結論としては、ノルウェーのビョルンソンはグロントヴィ的な「フォルク」概念に「血とキリスト教」という民族主義的エッセンスを取り入れ、結果的にゲルマン主義に舵を切ったことを示した。このことは、グロントヴィに端を発する北欧の「フォルク」という概念が、従来論じられていたような「民衆」的な意味のみではなく、同時に民族主義的なナショナリズムを色濃く持っていることを指摘し、北欧内における同じ「フォルク」概念であってもその概念をめぐる言説や現象は決して一枚岩でないことを指摘した。 北欧の「フォルク」をめぐる「フォルキッシュ」な思想とドイツにおける「フェルキッシュ」な思想には非常に大きな類似性があり、その後の歴史的な現象として前者は「民主主義的」な物語をもとにする福祉国家へ、そして後者はファシズムのナチズム国家へと結びつくのであり、この異同につき引き続き考察が必要であると結論づけた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の進捗状況についてはやや遅れている。その理由としては、執筆した論文および研究ノートが未刊行であること、および当初予定していたセミナー開催のスケジュール調整がうまくいっていないことが挙げられる。現在投稿中の論文および研究ノートについては近く査読結果が出る予定であるが、刊行は本年度末となる予定である。また、現在執筆している原稿についても、提出締め切りと査読結果、刊行予定を考えると、当初予定していた進捗状況より遅いものとなっている。 また、資料の読み込みやデータ整理も遅れが生じており、まとまった時間の確保が課題となっている。開催予定のセミナーについては、デンマークの研究者の招聘を予定しているが、調整作業で難航しているため、引き続き連絡を密にとりつつ、開催に向けて準備を行っていきたい。ただ、今年度の開催ができるかは微妙なところとなっているため、可能であれば科研費の実施期間を1年延長することとし、来年度に開催をすることも念頭に進めていくこととしたい。
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今後の研究の推進方策 |
現在取り組んでいる考察は、19世紀の国民高等学校のアソシエーション運動の関係に関する分析であり、特にデンマーク・ヒース協会の活動と同学校との関係については、6月末の比較教育学会にて報告を行う予定である。こちらの分析については、論文にまとめる予定であるが、一つの論文では書ききれない可能性もあるため、別の紀要にも分けて執筆を行う予定である。また、19世紀の国民高等学校における「科学」の考え方についても考察予定である。こちらについては19世紀の産業化と科学技術の関係性に焦点を絞って歴史資料を考察していくことになるが、発表先は現在未定であるものの、本年度の発表を予定はしている。なお、研究の進捗が遅れているため、20世紀初頭におけるナショナリズム分析とその政策への影響については、いまだ手を付けられていない。こちらについては引き続き文献資料の収集を進めていくが、可能であれば科研費期間を1年延長し、来年度にこれまでの研究成果と統合しつつ取り纏めていきたいと考えている。
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