研究課題/領域番号 |
22K12573
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分80010:地域研究関連
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研究機関 | 広島市立大学 |
研究代表者 |
田浪 亜央江 広島市立大学, 国際学部, 准教授 (70725184)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2025年度: 130千円 (直接経費: 100千円、間接経費: 30千円)
2024年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2023年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2022年度: 130千円 (直接経費: 100千円、間接経費: 30千円)
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キーワード | パレスチナ / 48年アラブ / パレスチナ演劇 / 市民社会 / 演劇 / ハイファ / 市民性 / 文化活動 / 文化 / 平和構築 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、イスラエルのアラブ系住民の文化活動に焦点をあて、資料によって表現の内実を分析し、フィールドワークのなかでイスラエル国家との関係を明らかにしてゆくことを通じ、国家と市民社会の関係を再考するものである。政治学や社会学の射程のなかでは十分扱われなかった演劇やダンスなど、集団的な活動を基盤とするパフォーミングアートに焦点をあて、合意形成や交渉の作法を鍛えつつ、公正と信義に基盤をおく市民性の構築過程を後づける。イスラエル国家の介入やマジョリティとの軋轢にそれがどのように対応し、文化や表現上の要請とのあいだにいかなる調停を導き出しているのかを検討し、マイノリティの生存戦略を明らかにしてゆく。
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研究実績の概要 |
本年度は4年ぶりとなる現地調査を行った。主な課題は3つあり、課題の一つは、長年パレスチナの「ナショナル・シアター」としての機能を果たしてきた(しかし占領によって無力化されている)東エルサレムのハカワーティー劇場の設立の起源としてのガリラヤ地方の演劇活動史に関する調査である。2点目は、閉鎖に至ったハイファのミーダーン劇場について、関係者に聞き取りを行い、その後継活動のありようを調べることである。3点目は、開催中のアッカ演劇芸術祭「マスラヒード」について参与観察を行い、イスラエルにおける「唯一のアラブ系演劇祭」がどのような文脈と理念のもとに運営されているのかについて知ることである。 一点目については、ハカワーティー劇場の設立メンバーの一人であるラーディー・シェハーダ氏を訪問しインタビューすることである程度それが実現した。2点目については、ミーダーン劇場閉鎖時の同劇場スタッフであったN氏を訪ね、閉鎖に至る5年間ほどの状況について内情を伺うことが出来た。また、ミーダーン劇場閉鎖後、新たな劇場設立を準備しているA氏にも話を伺うことが出来た。しかし、ハイファで新たな若者文化の拠点となっているハシャベ劇場の関係者との面談は、日程上折り合いがつかず叶わなかった。 3点目については、同演劇祭芸術監督のアハマド・モスリー氏にインタビューを行ったが、公式的な発言を伺うにとどまり、予想通りとはいえあまり得るところはなかった。むしろ、同芸術祭とは距離を置く演劇関係者からの遠回しの批判や皮肉などから、同演劇祭のありようを浮かび上がらせることとなった。ミーダーン劇場閉鎖との関係を短絡的に結びつけることは避けるべきだが、学校演劇のスタイルを踏み出す作品が見られない点は、予算不足では説明として不十分であり、イスラエル国内で暮らす48年アラブの市民社会の現在地として理解すべきであろう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
9月のフィールドワークについては、日程上の制約から一部目的を果たせなかったものの、全体としては期待以上の成果を上げることが出来た。上述の通り、ハイファのハシャベ劇場の関係者へのインタビューが叶わなかったことに加え、アッカの文化政策局助役およびアッカ文化協会代表のインタビューは、ご本人の健康上の問題から叶わなかった。他方で期待以上の成果としては、アッカで民間の文化施設を精力的に運営するH氏から、アッカにおける文化活動について詳しい話を聞けたこと等がある。 帰国直後にガザの抵抗諸組織による対イスラエル越境攻撃が始まり、第二のナクバとも呼ぶべき事態に発展した。パレスチナ研究者として取材や問い合わせに応じることが一気に増え、落ち着いて研究することが難しくなったほか、ガザ住民以外の現地のパレスチナ人の多くも、家族や親戚・友人として対応に追われ心労を重ねるようすが伝わってくるなか、メールやSNSを介したコミュニケーションがうまく行かなくなった相手もいる。現地でインタビューを行った相手から、ガザにいる知人への具体的支援を求められたさいにどのように対応すべきかなど、これまでの経験値では対応が難しい立場におかれるなか、フィールドワークの成果のまとめが遅れ気味であることは否めない。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度についても、引き続きフィールドワークを行う予定であるが、どのタイミングで実現させるか、またそもそも渡航自体の可否については、現地情勢を見極めながら判断するしかない。渡航が可能で、かつ現地訪問中に関係者とのインタビューが可能な場合は、アッカとハイファを再訪し、ハシャベ劇場の関係者へのインタビューや、アッカの文化行政関係者等とのインタビューを実現するほか、本年度は訪問先に含めなかったイスラエル国内の他のアラブ系劇場(ウンム・アル=ファハム劇場およびヤーファのサラーヤー劇場)の関係者へのインタビュー等を行なう。 渡航や現地調査が難しい場合、イスラエル国外で活動する48年アラブの劇団関係者へのインタビューを、欧州内の複数の都市で行うことも検討している。
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