研究課題
基盤研究(C)
不純物の存在によって電気伝導性や磁性が大きく変化する酸化亜鉛(ZnO)は、次世代の機能性材料として大いに注目されている。本研究では、不純物元素の存在状態を原子レベルで把握し、ZnOの電気伝導性や磁性を制御することを目的とする。極微量の不純物の存在状態を高精度で観測する手法として、放射性核種から放出されるγ線を利用する核分光法(摂動角相関法ならびにメスバウアー分光法)を採用する。また、ZnOの合成過程で不可避的に混入する不純物水素を即発γ線分析法によって定量し、水素濃度と電気伝導度との相関関係を調べる。
酸化亜鉛(ZnO)は不純物の導入によって光学特性や電気特性が大きく変化するため、不純物の存在状態(局所構造)を制御することは、機能性材料としての応用を目指す上で大変重要である。我々は不純物の状態を観測する手段として、極微量の放射性核種から放出されるガンマ線を検出する手法(ガンマ線摂動角相関法)を採用し、ドナーとして導入したインジウム(In)の局所構造を追跡してきた。先行研究では、固相反応法によって導入された不純物InはZnO中でZnIn2O4様スピネル型のナノ構造体を形成すること、さらにはこの構造体が伝導電子を散乱し、電気伝導の妨げとなっていることを報告している。本研究では、一度形成されたナノ構造体を分解し、InをZn位置に置換させる方法を確立し、Inの拡散状態と電気伝導性の相関について知見を得ることを目的として実験を行った。Inによるナノ構造体が形成された試料を真空中で熱処理すると、電気伝導度が飛躍的に向上した。しかし、同じ熱処理操作を未ドープのZnO試料で行っても、程度の差はあるが電気伝導度の向上が見られた。この観測結果は、真空処理によってナノ構造体が分解した効果とは別の要因によって伝導度が向上していることを示唆している。そこでZnOの表面をX線光電子分光法によって調べたところ、真空での熱処理によって酸素が脱離し、粒子表面が金属化していることが判明した。電気伝導度の向上はこの現象に起因しているものと考えられる。今後、簡便な方法によってInの均一な固溶状態を実現する必要がある。
2: おおむね順調に進展している
真空中での熱処理によって表面が金属化した場合においてもInを導入した試料では未ドープの場合と比べて伝導度が向上する結果が得られ、Inのドナーとしての寄与を確認することができた。ZnO中の微視的構造と電気伝導度の相関について理解が進んだ点において、進展があったものと評価できる。
ZnOの電気伝導性の向上にむけて、均一なドナー導入法を検討する。そのためには、摂動角相関法によってIn-111プローブ位置での電場勾配の変化を追跡することによってIn周辺の局所構造をモニターしながら、空気中と真空中での熱処理条件(真空度、熱処理時間、温度)を検討する必要がある。また、現在は0.5 at.%でInドナーを導入しているが、より高濃度のInを固溶させる手法の開発を目指す。
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