研究課題/領域番号 |
22K12670
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分80040:量子ビーム科学関連
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
山北 佳宏 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 准教授 (30272008)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
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キーワード | ペニング電子分光 / 分子配向 / 低温分子 / トラジェクトリ計算 / 電子分光 / 化学反応動力学 / クラスター / アミノ酸 / ナノカーボン |
研究開始時の研究の概要 |
交差分子線を用いた磁気ボトル効果を用いた高感度ペニング電子分光装置と、質量選別クラスターの光解離画像観測装置を開発する。高感度ペニング電子分光装置では、生体分子・機能分子・中性クラスターの実験を行う。電子分光と量子化学計算で分子構造の安定性について厳密な議論ができることを示し、中性クラスターの研究では接触エネルギー移動からの新たなイオン化過程を観測する。一方、クラスターの質量分析・光反応実験を独立に進めながら、正負クラスターイオンの電子分光へと統合させる。本研究で極限的感度を持つ電子分光法をさらに発展させ、極低温に冷却した励起原子ビームを用いた低温衝突実験を行うための展望を得ることを目指す。
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研究実績の概要 |
【クラスターのペニング電子分光】ペニング電子分光法は、準安定励起原子A*と分子Mとの衝突反応(A* + M→A + M+ + e-)で放出される電子の運動エネルギーを測定する手法である。本研究のねらいは、真空中の孤立クラスターの電子構造を明らかにすることと、低温分子反応に電子分光を適用し分子の配向効果を解明することである。クラスターは極微量であり、低温分子反応は低頻度であることから、従来型の電子分光器では測定できない。そのため、電子の捕集効率を極限的に上げた電子分光器を用い、理論計算と合わせてこれらの研究を進めた。【シード分子線のペニング電子分光】令和5年度は、クラスターを生成するための分子線ノズルの開発に成功した。差動排気できる真空槽を整備し、連続分子ビームを生成した。オリフィス径 20,30,50μm のものを用意して実験を行ったところ,50μmが最適と分かった。一酸化窒素NOとベンゼンをシードした分子線で実験を行ったところ、ベンゼンのシード分子線で分子の配向がそろっていることを示す興味深い結果が得られた。そのため、クラスターの実験を行う前に、ベンゼンとアルキルベンゼンの実験を行うことにした。トルエン、エチルベンゼンではベンゼンより大きな配向効果を示す結果が得られた。 【トラジェクトリ計算】分子の配向分布を仮定した理論計算を行い、シード分子線中のベンゼンの配向がキャリアガス(He)によってフリスビーのようにそろっていることが示された。ペニングイオン化過程は、粒子どうしの接近に伴うイオン化過程であり、分子軌道の空間的形状に依存したイオン化確率となる性質から、ペニング電子分光で初めて示すことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
【クラスターのペニング電子分光】クラスターの生成については、まず、一酸化窒素(NO)の単量体でペニングイオン化電子スペクトル(PIES)を測定し、ピークの帰属と既報との比較を行った。その後、質量分析計を組み込み、新しいオシロスコープでアルゴンクラスターの生成を確認する実験を行った。その結果、単量体が確認され、クラスター生成ノズルの押し圧を上げる必要性を明らかにすることができたため、排気性能がより高いターボ分子ポンプを本研究費で購入し設置した。 【シード分子線のペニング電子分光】クラスターの実験を進めていたところ、ベンゼンのシード分子線で分子が配向する現象を発見した。必ずしも当初の目的ではないが、ベンゼンをはじめとする有機分子では全く観測されたことのない結果であるため、クラスターの実験の前にこの現象を研究することにした。また、電子エネルギーを分析するための阻止電極が試料で汚染されることが問題となるため、交換可能な改良型の阻止電極を開発し運用を開始した。 【トラジェクトリ計算】トラジェクトリ計算は、低温分子反応の実験条件を策定し、得られた結果を解析するために重要な手段となる。これまでに、10Kの相対並進運動エネルギーで遠心力障壁の効果が大きくなることを示したが、分子配向の効果は十分に明らかにされてこなかった。さらに、極低温領域では分子回転を量子的に扱う必要があった。そこで本研究では、シード分子線の配向分布を仮定した計算を進めながら、分子の配向をより明確にするプログラムを整備し、回転波動関数を導入することにした。
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今後の研究の推進方策 |
【クラスターのペニング電子分光】シード分子線中の分子の配向効果を系統的に解明することを優先させ、そのあとにクラスターの電子分光と低温分子衝突の研究を行う方針とする。そうすることで、より新規性が高く実現可能性の高い研究課題に取り組むことができ、実験条件を知悉したうえで難易度の高いクラスター実験と低温分子衝突の実験を行うことができる。クラスターの実験で毒性の高い気体を遮蔽するための設備、低温分子衝突のための液体窒素冷却機器などが首尾よく整備されることが期待される。 【シード分子線のペニング電子分光】シード分子線の実験は、クラスターの実験とほぼ同一の実験装置を用いるため、これまで開発してきた設備が極めて有効に活用されている。令和5年度中には、シード分子線の研究を完了させることと、クラスターの実験について予備的結果を得ることを目標に実験を進める。 【トラジェクトリ計算】トラジェクトリ計算では、分子と励起原子の相互作用を量子化学計算で算出する。この際、従来までの近似(Li近似)を踏襲した計算を進めることとするが、衝突エネルギーに対する衝突断面積の依存性(正負の傾向)が近似による誤差を含んでしまう。したがって、Heの励起状態電子配置を規定してLi近似を用いない計算手法を確立することを目指すことも重要である。そのため、シード分子線を対象に回転波動関数等を導入することと並行して、この近似法の問題に取り組む。また、すでに予備的結果が得られている多環芳香族炭化水素のペニングイオン化過程に関する研究成果を取りまとめる。
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