研究課題/領域番号 |
22K12674
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分80040:量子ビーム科学関連
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研究機関 | 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
竹田 幸治 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 物質科学研究センター, 研究主幹 (50399416)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 130千円 (直接経費: 100千円、間接経費: 30千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 2,730千円 (直接経費: 2,100千円、間接経費: 630千円)
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キーワード | 走査型透過X線顕微鏡 / 軟X線分光実験 / 放射性物質 / 廃炉作業 |
研究開始時の研究の概要 |
福島第一原子力発電所の廃炉作業は本国に課せられた最重要課題であり燃料デブリの取出しは最難関の工程である。燃料デブリの性状については理論予想だけでなく実験データが不可欠である。燃料デブリの発生場所により化学的進展は異なるので元素分布だけでなく化学状態の採取場所依存性情報は重要である。これには多数の試料片に対する統計的調査が必須であるが、微粒子試料を対象とすれば試料の総数に対し全体の放射線量を抑えて安全に実験を行うことができる。本研究ではナノレベルの空間分解能を有する走査型透過X線顕微鏡を用いて、デブリ微粒子から元素組成比だけでなく元素選択的化学状態の情報を引き出すことに挑戦する。
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研究実績の概要 |
当該研究で使用する走査型透過X線顕微鏡(STXM)の高空間分解能化を図るため、これまで使用していた50nmフレネルゾーンプレート(FZP)にかわり25nm仕様のFZPを取り付けたSTXM装置本体の調整を放射光ビームラインの光学調整とあわせて行った。空間分解能評価は電子顕微鏡校正標準を用い実施し、その結果、ほぼ設計通りである30nm以下の空間分解能を達成していることを確認した。 STXMデータ画像のノイズレベルを低減するため、特に装置内部での可視光の抑制が必須である。一方で装置本体には必要最低限のビューポートが備えられている。装置の空間分解能はFZPによる集光サイズと試料位置制御精度の調和により決定するため、ビューポートの一部はFZPと試料ステージの相対位置のnmオーダー制御を行うためのレーザー干渉計用レーザー光導入ポートとして使っている。装置本体とレーザー干渉計の複雑な立体配置のためにこのポートからの可視光の侵入が問題となっていたが、レーザー干渉計の性能を維持しつつ完全遮蔽のためのカバーを製作・設置した。これにより装置内部の可視光レベルは劇的に低下させることができた。 現在、測定試料を取り付けた試料マウントは装置を大気暴露して実験者が手を使って直接試料ステージに設置しているが、放射性物質を含む試料を安全に取り扱うことができるようトランスファーロッド等を用いて試料マウントを装置内に導入する機構(トランスファー機構)を構築ための部品設計を進め、一部の部品については製作した。R5年度以降、組み立てを進める。 STXM実験において使用可能な密封試料マウントの試作検討のため、100nm膜厚SiNメンブレン2枚でFeを含んだ微粒子試料を挟み込んだものを用意しFe L23吸収端での模擬実験を実施した。その結果、十分な強度での実験が可能であることを実証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでにSTXM装置での設計通りの空間分解能を達成していることを確認し、これらの成果については放射光学会にて発表した。一方で、設計性能を得るには各種の微調整が必要である。そして、その最良の状況を安定維持するための工夫が今後必要となってくるものと考えており、その調整プロセスの洗練化および自動化、および、各種パラメータのモニターおよびフィードバック機能の強化が必要不可欠な状況である。同時並行で効率的実験遂行に有効な測定モードをSTXM測定プログラムへの追加などの改良を行い、長時間実験における安定性が向上した。 装置内部へ遮光対策により、データの質は向上した。しかしながら、現状においても良いS/NのSTXMデータ取得のため、一点当たりのデータ取得に10~20msと比較的長いため込み時間を設定している。走査範囲が広く、必要とする測定エネルギー点が多くなると、ため込み時間が効率的な実験の足かせとなっている。今後、改善策を講じる必要がると考えている。 トランスファー機構の基本設計の再検討を行った。当初計画では装置上部にサンプルバンクを建設する予定で設計を進めていたが、床面から約2.8mの高さが必要であり操作性に懸念が生じたため、設計の再検討を行った。一方で、R4年度では設計変更に影響のない部品の設計・製作を完了した。 2枚の100nm膜厚SiNメンブレンを使った密封試料における模擬実験から、合計200nmの窓材を介しての透過であっても十分な強度のデータ得られることを実証した。このことから放射性物質を含む物質の密封においても同様の構造による密封試料マウントを製作することを決定した。
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今後の研究の推進方策 |
R5年度ではR4年度での模擬実験の結果を基に、放射性物質に対する安全な実験遂行のための密封試料マウントおよび装置への移送システムの検討を行い、設計・作製を重点的に実施する。 試料マウントは二つに分割(上部(移送機構部)と下部(試料固定部))することを予定している。試料の密封作業を行う施設と放射光施設の施設間移動においては、下部のみを専用の移送容器に封入梱包し省スペースかつ安全に輸送できるよう配慮することとした。そして、放射光施設に到着した試料を密封した下部を、グローブボックス等を用いて上部と接合し、トランスファーロッドに取り付け状態で真空容器に格納することで放射性物質に対して複数の遮蔽を保ったままSTXM装置に試料を移送できるようにすることを計画している。 試料マウント上部の設計については、広く使用されている市販の接続アタッチメントを採用する予定である。一方、下部の詳細な設計は検討中であるが、基本コンセプトはR4年度に模擬実験を行った構造を踏襲し、メンブレン開口部、測定試料、X線の光路が容易に一致させることができる構造とする。また、施設間輸送用のコンテナとしては、小惑星探査機「はやぶさ2」が採取した試料の放射光実験を可能にするために開発された大気非暴露型輸送容器の利用ができるよう、下部の外寸法を決定する。 効率的な実験のため、測定プログラムのブラッシュアップを引き続き進めことと並行して、現行の透過法に加えて、測定試料およびオーダーソーティングアパチャーを電気的に絶縁し、それぞれの全電子収量ができるように装置の改良整備を進めていく予定である。
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