研究課題/領域番号 |
22K12717
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分90020:図書館情報学および人文社会情報学関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
根本 彰 東京大学, 大学院教育学研究科(教育学部), 名誉教授 (90172759)
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研究分担者 |
河村 俊太郎 東京大学, 大学院教育学研究科(教育学部), 准教授 (90733410)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
3,770千円 (直接経費: 2,900千円、間接経費: 870千円)
2026年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2025年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2024年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2023年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2022年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
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キーワード | 地域アーカイブ / 集合的記憶 / 社会的記憶 / 図書館 / 博物館 / 文書館 |
研究開始時の研究の概要 |
この研究では、ナショナルアイデンティティを一旦括弧に入れることにより、マージナルな地域、あるいは人々の集団が語られる場としてのアーカイブに焦点を絞って、その多様性がアーカイブ資源においてどのように表現されてきたか、あるいは現在どのように発信されているのかを明らかにする。3つの異なる展開をしてきた地域を取り上げることによって、1)地域的アイデンティティのためのアーカイブ表現、2)負の歴史的遺産がある地域のアーカイブ表現、3) 地域アーカイブから問題解決のためのアイディアや将来展望、4)地域アーカイブから浮かび上がるナショナルあるいはグローバルアーカイブの特性について明らかにする。
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研究実績の概要 |
本研究はすでに公刊した『アーカイブの思想』(2021)を具体的に近代日本にさぐるために、沖縄、北海道、福島というまったく異なった歴史的特性をもった地域を取り上げて、それぞれが日本というナショナリティに対して重層的なマージナリティをもつことを明らかにしていこうとするものである。方法的には、文献研究以外に、公立のアーカイブ施設の収集資料を目録の分析や展示活動の分析を中心に見ていく方法と、現時点で継続されているアーカイビング活動を現地でフィールドワークによって把握する方法とがあると捉えた。今後、三つの方法を組み合わせていくこととした。 初年度は、「地域アーカイブ」についての研究イメージを把握し、研究計画を策定するために、文献研究と福島でのフィールド調査を行った。文献研究としては、歴史学、思想史、社会学、教育学などの広い範囲のものに当たり、「集合的記憶」や「慰霊と追悼」「災害アーカイブズ」といったキーワードを用いた多数の先行研究があることを確認した。欧米ではmemory studiesと呼ばれる学際的な領域がつくられ、日本でも紹介が行われている。 福島では、公立博物館、公立図書館、追悼施設、災害伝承施設を訪問して、職員からの運営や資料収集、展示方針についての聞き取りを行った。また、東京電力福島第一原子力発電所事故関係では、当該企業や関係官庁の展示施設や避難から帰宅した住民の自主的な展示施設も含めて多様なアーカイブ活動が行われていることが分かった。 初年度の研究成果は、別記の雑誌論文1から3のとおりである。うち、1は以前からの研究の延長上で発表したもので、2と3は今回の福島調査をもとにしたものである。初年度の検討から、地域アーカイブ研究は、重層化した負の記憶が当該地域の人たちにどのように作用しているのかを見ようというものであることが確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
5年計画の初年度なので、先行研究の把握と今後の研究のための方法を明確にすることを優先した。先行研究については、研究実績の概要で示したように広い領域で関連するものがあることを把握してそれらを入手し目を通すことができた。また、フィールドとする地域についてまず福島から始めたのは研究者両名の居住地から比較的近いことがあり、さらに他の2地域とは異なって現在進行中の原子力災害の被災地であることから特徴をつかみやすいと考えたからである。研究の方法論としては、文献研究、フィールド調査、図書館コレクション調査を組み合わせることにした。 このような枠組みに基づき進めることの計画をつくり、上記のような実績を上げることができた。図書館コレクション調査についても、福島県立図書館の協力を得て、地域資料のデータを入手して分析に取りかかっている。
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今後の研究の推進方策 |
2年目の今年度はすでに進めている福島の調査を継続することと新たに北海道をフィールドに加えることにする。北海道は幕末に内地からの移住が始まったことにより、それ以前からの伝統を継承せずに新しい地域開発を行ったが、同時に、先住民族アイヌの人たちを追いやったという点で、アメリカやオーストラリアなど新大陸と同様の社会的課題をもっている。そういうところの地域アーカイブがどのように形成されていくのかについて、函館、札幌、そして町をフィールドとして調査を行う。 まず、道内の図書館や博物館、資料館などのアーカイブ施設についての概要と北海道で刊行されている地域資料、また蓄積されている地域資料の特徴を把握しておきたい。 函館は最初に開かれた都市の一つであるが、ここに私立函館図書館から始まって市立図書館(現函館市立中央図書館)を一人でつくりあげた岡田健蔵という人物の思想と行動を取り上げて検討する。彼が当初絵はがきコレクターとして始まり、これを膨大な北方資料コレクションとして築き上げた経緯についてはすでに研究(坂本龍三『岡田健蔵伝』)が行われているが、残されている一次資料にも当たって彼のアーカイブ思想の源を明らかにしてみたい。 近代しかない北海道は、内地で近世からあるような土地の慣習や人間関係を超えた自治的なコミュニティ形成の意識がつくられやすかったと言われる。これが図書館運営にどのように活かされてきたのかについてフィールドワークを行う。とくに小規模な自治体(置戸町を予定)の図書館を取り上げてそこが地域情報センターのような役割を果たしているのかどうかを確認したい。 3年目には沖縄もフィールドに加えて3地域を横断的に見ながらアーカイブの考え方がどのように展開しているのかを明らかにできればよいと考える。
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