研究課題/領域番号 |
22K12764
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分90110:生体医工学関連
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
今井 國治 名古屋大学, 医学系研究科(保健), 教授 (20335053)
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研究分担者 |
藤井 啓輔 名古屋大学, 医学系研究科(保健), 講師 (40469937)
川浦 稚代 名古屋大学, 医学系研究科(保健), 講師 (60324422)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
3,770千円 (直接経費: 2,900千円、間接経費: 870千円)
2024年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
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キーワード | 非イオン性ヨード造影剤 / 嘔吐 / 分子動力学的解析 / セロトニン5-HT3受容体 / Y234 / Y153 / 副作用発症 / 被ばく増幅効果 / 抗がん剤の可視化 / 単色X線CT画像 |
研究開始時の研究の概要 |
本申請研究では、被ばく線量増幅効果を含む非イオン性ヨード造影剤の副作用発症機序に関する詳細な検討を行うこととCT装置による抗がん剤の可視化について検討することを主たる目的とする。その具体的な検討内容は、以下の通りである。 1.非イオン性ヨード造影剤がX線光子や生体機能を司るタンパク質とどのような相互作用を起こすかをin-silico解析すること。 2.化学塞栓療法で使用される抗がん剤の薬物動態解析を実施し、抗がん剤がCT画像としてどの程度可視化できるかをシミュレーション解析すること。これに加え、CT装置による抗がん剤のDrug Delivery System(DDS)の構築が可能かを検討すること。
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研究実績の概要 |
本申請研究では造影剤分子が生体物質とどのような相互作用を起こすかをシミュレーション解析し、非イオン性ヨード造影剤による副作用発症機構を解明することを目的の一つとしている。本年度は、特に発症頻度の高い嘔吐に注目し、これを検討した。 本研究で対象とした造影剤は、イオメプロール、イオヘキソール、イオベルソールの三種類である。これらを使用した理由は、5位に結合している親水性側鎖の構造が異なることを除けば、全く同じ分子構造となっているため、比較検討が行い易いためである。そこで、これらの造影剤がどのような機構で嘔吐を惹起するかを検討するため、申請代表者は「造影剤分子がCTZ内のドーパミン受容体D2、セロトニン5-HT3受容体、NK1受容体に対しアゴニストとして作用し、嘔吐を引き起こす。」と言う仮説を立て、これを検証することにした。特に本年度は、三種類ある受容体の内、直接、嘔吐中枢に作用するセロトニン5-HT3受容体を対象とし、造影剤との相互作用を分子動力学的に解析した。その際、動作薬であるメチルセロトニンについても、同様の解析を行い、どのような点で造影剤と異なっているかを検討した。まず、メチルセロトニンについてであるが、この動作薬は受容体の結合ポケットを介して内部に侵入し、Y234及びY153と結合した。つまり、嘔吐を惹起するにはこれらのアミノ残基と同時に結合する必要があると考えられる。一方、造影剤については、受容体内部に入ることはなかったが、どの造影剤も1もしくは3位の親水性側鎖が、Y234またはY153のいずれかと結合した。一般に造影剤の投与量は、動作剤と比べ数千倍高いことを考慮すると、造影剤二分子が同時にこれらの残基と結合する可能性はあると予想できる。以上のことから、申請者は「造影剤二分子結合モデル」の提唱に至ったが、その妥当性について学会等の意見を踏まえて検討していく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
申請時の計画では、初年度に解析用コンピュータの購入を予定していたため、科研採択早々、この申請研究に特化したコンピュータを選定し、予定の時期にコンピュータの購入とカスタマイズができた。コンピュータ購入後、解析に必要となる三種類のソフトウエア(量子化学解析ソフトウエア:Gaussian16W、分子動力学解析ソフトウエア:Auto-Dock、数値解析ソフトウエア:Mathlab)をインストールし、問題なくシミュレーションできることも確認した。 シミュレーション解析については、「研究実績概要」で述べたように、造影剤による嘔吐発症機構の解明に着手し、「造影剤二分子結合モデル」の提案に至ることができた。この結果については、当初、受容体内部に造影剤分子が侵入し、嘔吐を惹起すると、予想していたが、それとは異なる結果となり、ユニークな結果となった。この造影剤分子の挙動は、これまでにない新しい知見であるため、薬学を専門とする学会等で発表し、様々な意見交換を行った上で、このモデルの妥当性について検討を推し進めたいと考えている。さらに、このシミュレーション解析では、セロトニン5-HT3受容体を対象としたが、残り二種類の受容体でも、同様の現象が起こるのかもしくはこの受容体特有の現象なのかについて検討を進めたいと考えている。 本報告では、嘔吐発症機構について検討したが、本申請研究では、抗がん剤の一つである白金製剤(シスプラチン)の可視化と言うテーマも掲げている。そこで、これに関する予備研究として、臨床で使用されている油性造影剤(リピオドール)とシスプラチンの混濁液をDual Energy CT装置で撮像し、シスプラチンが画像化できるかを検討した。その結果、リピオドール単剤とは異なるエネルギ特性を示し、シスプラチンの可視化は可能であることが示唆された。 以上のことから、本申請研究は順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、本年度の進捗状況を踏まえ、以下の検討を行う予定である。(1) 分子動力学解析に基づく造影剤分子のシミュレーション解析、(2)肝動脈化学塞栓療法(TACE)施行時のシスプラチンの薬物動態特性のシミュレーション解析。 まず、項目(1)についてであるが、「現在までの進捗状況」で述べたように、本年度はセロトニン5-HT3受容体のみを対象に検討を実施したが、次年度はドーパミン受容体D2を対象に、本年度と同様の検討を行う予定である。その際、5-HT3受容体と同様の現象が起こるのかについて検討し、「造影剤二分子結合モデル」の妥当性を検証する。また、進捗状況に応じて、造影剤の重篤な副作用である血圧低下についても、検討を開始する予定である。 次に、項目(2)についてであるが、本年度後半、解析対象となる上腹部の数値ファントムの構築が終了した。そこで、臨床で使用されているCT装置と同じスペクトルを有するX線を仮想的にこのファントムに照射したところ、各臓器のCT値は実機によるものと同程度になることを確認した。さらに、本解析の対象薬剤であるシスプラチンは、二相性の代謝過程であることが、シスプラチンの添付書に記載されていたことから、肝細胞がんと動静脈系の2-コンパートメントモデルで薬物動態解析を行うことにし、この解析に必要となる様々な定数も、この添付書に記載されている薬物動態パラメータから推定することにした。その結果、実際の薬物動態と類似した特性が得られ、2-コンパートメントモデルによる解析には妥当性があることを確認している。そこで、上述した腹部数値ファントム及び薬物動態特性をもとに、肝細胞がん内で、経時的に変化するシスプラチンが可視化できるかを臨床条件に従って検証する。 これらの項目で得られた研究成果は、随時、国内外で開催される学会及び国際会議で発表し、最終的には投稿論文として世界に発信する。
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