研究課題/領域番号 |
22K12780
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分90110:生体医工学関連
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研究機関 | 愛知教育大学 |
研究代表者 |
上野 裕則 愛知教育大学, 教育学部, 准教授 (70518240)
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研究分担者 |
石田 駿一 神戸大学, 工学研究科, 助教 (80824169)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
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キーワード | 繊毛 / 脳室 / 水頭症 / ダイニン / モンロー孔 |
研究開始時の研究の概要 |
繊毛運動の異常が水頭症を引き起こす理由は現在まで分かっていない。一方で、申請者によるこれまでの研究により、この水頭症の原因が側脳室と第3脳室を繋ぐモンロー孔近傍の流れに起因する可能性を見出している。本研究課題は、「水頭症の原因はモンロー孔付近の流れの異常にある」という仮説を立証するための研究である。正常な野生型マウスと水頭症を発症するDpcdノックアウトマウスを用い、モンロー孔付近に存在する繊毛運動に着目し、繊毛細胞の分布やそれによって得られる流体構造を解析する。最終的には数値理論を用いて脳室内の流れを再現し、モンロー孔付近の繊毛運動の異常がどのように脳室の肥大を引き起こすかを明らかにする。
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研究実績の概要 |
本研究課題の目的は、脳室内の流体解析と数値流体力学を用いて水頭症の原因を解明する事である。昨年度はDNAH1のタンパク質レベルでの発現量について間接蛍光抗体法を用いて調査した結果、野生型マウスに比べDpcdノックアウトマウスで約半分になっていることが分かった。今年度はDNAH6のタンパク質レベルでの発現量をDNAH1と同様に調査した。DNAH6はDNAH1と同様、繊毛内に存在するモータータンパク質であり、内腕ダイニンの一種である。先ず、水頭症を引き起こしたDpcdノックアウトマウスの組織切片を野生型のものと比較したところ、モンロー孔付近でDpcdノックアウトマウスの方が野生型と比べ拡大していることが分かった。これはモンロー孔のつまりによって側脳室に髄液が溜まった結果、側脳室が拡大しているわけではない事を示している。また、側脳室の繊毛について、野生型マウスでは基本的に脳室表面に満遍なく繊毛が存在していたが、Dpcdノックアウトマウスでは繊毛の局在に偏りがあり、繊毛がまばらに存在する様子が観察された。間接蛍光抗体法の結果、DpcdノックアウトマウスのDNAH6の蛍光強度は、側脳室、第三脳室共に野生型マウスよりも低いことが分かった。これらのことから、Dpcd遺伝子が欠損すると側脳室及び第三脳室でのDNAH6のタンパク質発現量が減少し、繊毛の運動に異常が生じ、脳室拡大及び水頭症発症に関与することが示唆された。また、クライオ電子線トモグラフィー法による脳室繊毛の3次元構造解析については、野生型マウスの周辺微小管の3次元構造まで解析することに成功した。今後、先ずは野生型について、繊毛の単離方法や凍結サンプルの作製法を工夫することによってダイニン重鎖の構造を確認できるようにすると同時に、Dpcdノックアウトマウスの繊毛の3次元構造についても解析を進めていきたいと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の研究成果として、Dpcdノックアウトマウスが水頭症となる原因の候補として、内腕ダイニンの一種であるDNAH1が関与している事が示唆されていたが、その他にもDNAH6も関与していることが明らかとなった。これは、脳室の繊毛の複数のモータータンパク質の発現量が変化した結果、繊毛運動の波形に何らかの異常をもたらし、脳室内に正常な水流をつくる事が出来ず脳室拡大につながったと考えられる。また、詳細な組織観察の結果、左右の側脳室から第三脳室へつながるモンロー孔の穴の大きさが拡大しているように観察された。これは本研究課題の申請時には予想していなかった結果であり、むしろ予想とは逆の結果となった。しかし、この結果はモンロー孔が拡大することによって、適切な水流、または水圧が得られなくなり、脳室内で適切な流れが生まれなくなった可能性が考えられる。本研究では、当初計画していた研究成果の他、このように新たな知見を得られたことは次の研究につながる進展の1つでもある。さらに、クライオ電子線トモグラフィー法による脳室繊毛の3次元構造解析も順調に進んでおり、繊毛の単離法の開発や、クライオ電子顕微鏡観察のための観察サンプルの作製や詳細な凍結条件も微調整を行いながら最適化することが出来た。また、3次元構造解析を行うため、得られた傾斜像を解析するためのプログラムも、海外の共同研究者の協力のもと行う事が出来た。このような進展のおかげで、今年度は、野生型マウスの脳室繊毛については、周辺微小管の3次元構造を得る事に成功した。分担者である神戸大学石田駿一先生には脳室内の流体シミュレーションのためのコード開発を進めて頂いている。このような研究成果は、国内外の学会発表も行っており、本研究はおおむね順調に進んでいると言える。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究成果として、内腕ダイニンの一種であるDNAH1の他DNAH6の水頭症への関与が明らかとなった。今後はその他のダイニン遺伝子についても同様に野生型マウスと水頭症マウスの両方で調査を行う予定である。既に内腕ダイニンの一種であるDNAH12については、タンパク質レベルの発現解析を今までと同様の方法で行っており、次年度も引き続き研究を進めて行く予定である。特にモンロー孔付近の内腕ダイニンの発現の状況に着目し、野生型マウスと水頭症マウスの両方で免疫組織学的にも研究を進める予定である。クライオ電子線トモグラフィー法については、今年度、脳室繊毛の周辺微小管の3次元構造を得ることに成功している。しかし、周辺微小管上の外腕ダイニンや内腕ダイニンについては3次元構造を得ることが出来ていない。その原因として、繊毛の単離方法や単離から電子顕微鏡用の凍結サンプルの作製までの時間、繊毛の膜処理の条件等に問題があり、周辺微小管上から外腕ダイニンや内腕ダイニンが解離している可能性がある。次年度はこれらの点を改善し、新たな傾斜像を得る予定である。先に挙げた問題点のうちいくつかは既に改善することが出来ており、既に新たな凍結サンプルの作製と傾斜像の取得を行っている。次年度はこれらの得られた傾斜情報を基に画像解析法による3次元再構成やサブトモグラムの取得と平均像の計算を行う予定である。分担者である神戸大学石田駿一先生は引き続き脳室内の流体シミュレーションを行う予定である。既に得られている脳室の流れのデータやモンロー孔付近の構造、ダイニンの発現量など実験で得られた結果と統合させ脳室内の流体構造のシミュレーションを行う事で、脳室内の流れの一端を明らかにしていく予定である。
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