研究課題/領域番号 |
22K12781
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分90110:生体医工学関連
|
研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
林田 祐樹 三重大学, 工学研究科, 教授 (10381005)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2024年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
|
キーワード | 神経補綴 / 神経模倣 / 視覚情報 / 神経スパイク / 生理学実験 / 情報符号化能 |
研究開始時の研究の概要 |
ヒト脳神経系における重度損傷や難治性疾患などに対して、神経組織活動を人工的刺激により駆動・調節しようとする“神経補綴技術”は、近い将来、多様な神経機能不全を補償する一つの選択肢となる可能性がある。但し、その技術向上と安全性の確立には、対象となる神経組織の生理学的特性にも親和する、神経駆動刺激の新たな設計の方法論が求められる。この課題に対し本研究では、神経模倣工学的発想に基づく刺激生成器を開発し、これを用いた脳神経刺激の生理学的実験解析を通じて、「感覚器から脳へと入力される神経スパイクの時間系列を、脳組織へ与える人工的な刺激パルスの時間系列の設計に用いることが、如何なる合理性を持つか」を問う。
|
研究実績の概要 |
本研究目的として述べた「生理学実験等を通じ、網膜からの神経スパイク列を模倣して設計した刺激を脳皮質一次視覚野内へ与え、これに対する時空間的な神経応答を高速イメージングによって計測し、従来の刺激を用いた場合と比較解析を行う」の本格的な実施を開始した。我々の先行研究と同様、齧歯動物の脳冠状断切片を膜電位感受性色素で染色し、その脳皮質第1次視覚野内へ刺入した微小電極から刺激パルス列を与え、これに対する神経集団の時空間的な膜電位応答を1ミリ秒の蓄積時間刻みでイメージング計測した。刺激パルス列には、ホワイトノイズ時間系列の光強度変化に対する応答として、1)齧歯動物網膜の一過性応答型神経節細胞より記録した生体網膜スパイク列、2)昨年度開発の新規刺激システムにより同種細胞をエミュレートして生成した網膜模倣スパイク列、3)神経スパイク発火の数理モデルシミュレーションにより生成した準網膜模倣スパイク列、4)昨年度ソフトウェア実装した従来刺激システムにより生成した従来式パルス列、5)昆虫/無脊椎動物の視覚センサー機能に近い“Dynamic Vision Sensor”の電子回路モデルにより生成したイベントカメラ式パルス列、を用意した。これら5種の刺激パルス列自体について検討を行ったとともに、上記1,3,5については、これら刺激パルス列に対する脳皮質神経応答のイメージングデータを取得することに成功した。前者に関し、刺激パルス列が持つ情報符号化能について査読付き国際会議論文として発表した(T. Nokura et al.,IEEE 23rd Int'l. Symp.Comput.Intel.Inform., Hungary, 2023, pp.71-76, doi: 10.1109/CINTI59972.2023.10381907)。後者の実験結果について国際会議発表の投稿準備を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画に沿って、昨年度に開発した新規刺激システムと、高速イメージング法を用いた生理学実験を本格的に開始した。但し、新規刺激システムの一部に不可逆的故障が生じ、その具体的計画については、研究目的の達成に向けた一部変更を行った。加えて、研究代表者が使用する実験室を含む建屋が夏季以降に全面改修工事に入り、全ての実験環境の一時移転を余儀なくされた。一時移転作業および実験系再構築・再調整に約3カ月を失ったが、その後の生理学実験については、データの取得効率および質ともに、ほぼ元の状態にまで復帰するに至った。これにより、生理学実験で当初予定していた2種の刺激パルス様式を5種へ拡充し、そのうち3種については、数例ながら、世界初となる実験のデータ取得に至った。このことは、本研究における学術的問い「感覚器から脳へと入力される神経スパイクの時間系列を、脳組織へ与える人工的な刺激パルスの時間系列の設計に用いることが、如何なる合理性を持つか」において、その生理学的合理性の検討の道筋をより明確にするものとなった。また、この問いにおける情報学的合理性の検討については、当初の想定には無かった機械学習を用いた方法論を示唆することができ、その一部内容を国際会議論文として発表するに至った。 以上より、現在までの進捗状況は、当初の計画に沿っておおむね順調に進展している、と判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究の目的に述べた、“脳皮質内へ与える刺激パルス列の様式の違いによる時空間的な刺激誘発性神経応答の差異の比較解析”を行うべく、十分な例数と定量解析に耐える良質の実験データの取得を続ける。また比較解析のために、機械学習を取り入れた解析方法の本格的開発を同時進行により行う。但し、今年度冬季以降の目安で、再度、研究代表者が使用する実験室の移転の可能性があるため、可能な限り早期かつ確実な実験実施とデータ取得を試み、移転前後および移転後の復帰期間では、データの詳細解析ならびに実験系の再構築・再調整などを行う予定である。当然ながら、ここでも多少の遅延を生じるとは予想されるが、昨年度の経験を踏まえれば、本研究の目的を達成する重要な成果が期待できると考える。
|