研究課題/領域番号 |
22K12805
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分90110:生体医工学関連
|
研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
岡本 英治 東海大学, 生物学部, 教授 (30240633)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
|
配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
|
キーワード | 人工心臓 / 補助人工心臓 / 磁性流体 / 軸流血液ポンプ / 磁性流体軸シール / 急性重症心不全 / 超小型軸流血液ポンプ / Impella |
研究開始時の研究の概要 |
急性重症心不全患者の救命・治療を目的に現在に臨床使用されているカテーテル設置式補助人工心臓Impellaより長期使用可が可能な,次世代型超小型軸流血液ポンプの開発を行う.Impellaのパージシステムの代わりに超小型磁性流体軸シールを採用して機械的構成を簡略化し体外ユニットとの“紐付き”状態を解除することで耐久性の向上と経皮的エネルギー伝送システムによるワイヤレス化を実現する. 本研究ではImpellaと同等のポンプ性能をもち3ヶ月程度の長期駆動可能なカテーテル設置式超小型軸流血液ポンプの実現を第1目標,そして2番目として経皮的エネルギー伝送で駆動できるワイヤレス化を基礎開発を目標とする.
|
研究実績の概要 |
カテーテル設置式超小型軸流血液ポンプImpellaは急性重症心不全の治療に大きく貢献し,新たな補助人工心臓の展開を果たした.一方,Impellaの機械的寿命がin vitro実験で20日程度,我が国の保険償還上は7日程度である.Impellaの機械的寿命を決定している要因の一つがモータ部への血液侵入を防止するパージシステムである.また,Impllaではモータは体内にあり,パージシステムがなければ経皮的エネルギー伝送システムでの電力伝送でImpellaはワイヤレスで稼働させることができる.そこで本研究の目的は,モータ部への血液侵入を防ぐ新たなシールとして磁性流体軸シールを用いImpellaでは達成できない一ヶ月以上の長期使用を実現する,カテーテル設置式超小型軸流血液ポンプを開発することを目的としている.そこで本年度は,本研究の要となる磁性流体軸シールの寿命試験装置を開発し磁性流体軸シールの寿命評価試験を行った. 本研究では,大動脈弁位置に装着するImpella5.0を想定し,すなわち大腿動脈から挿入し大動脈弓屈曲部を通過できる最大寸法である外径7mm×長さ40mm程度の大きさ,通常にインペラ回転速度30,000回転/分でポンプ拍出流量4L/分程度で稼働し,このポンプ単独で一ヶ月以上の循環補助をする超小型軸流血液ポンプの開発を目的とし,この超小型軸流血液ポンプに装着可能な軸流磁性流体軸シールとして外径4mm×長さ3mm程度の磁性流体軸シールを開発する.このサイズで実現できればImpellaCPなど一回りサイズの小さいでも使用でき,日本発のカテーテル設置式超小型軸流血液ポンプを実現できるものである. 磁性流体軸シールModel1ではモータ回転速度25000rpmまでは10日以上のシール寿命を確認できたがそれ以上は難しく,磁性流体軸シールModel2を開発し試験を行っている.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の磁性流体軸シールは,モータ回転軸に外径2.5mm×長さ2mmのリング型ネオジウム磁石を装着しその周りに外径4mm×内径2.6mm×長さ3mmの鉄リングを配置するもので,製作が容易で構造が簡単な超小型軸流血液ポンプに適した構造である. この磁性流体軸シールの寿命を評価するため超小型軸流血液ポンプの流路形状をもつ磁性流体軸シール寿命試験装置の開発を行った.これにより実際の超小型軸流血液ポンプへの装着と同じ状態における磁性流体軸シールの寿命を評価でき,ポンプ内血流による磁性流体に加わるせん断応力を再現している.この寿命試験の結果,羽根車回転速度25000rpmで10日以上の寿命であったが,30000rpmでは1日であった.磁性流体軸シール内部を観察すると,磁性流体中のナノ強磁性超微粒子の凝集とベース液の流出が見られた. モータ回転速度の上昇と共に,磁性流体に作用するせん断応力の増加,磁性流体軸シール内部で発生するローレンツ力に起因する磁気的損失があり,この損失を測定したところ,30000rpmまでは0.08W程度であったが,それ以上の回転速度で急上昇し50000rpmで0.2Wに達した.この結果より損失による温度上昇で,ナノ強磁性超微粒子の凝集を防ぐ界面活性剤がダメージを受け,磁性流体粒子の凝集とベース液の流出を招いたことが原因と推測している.従って,回転速度30000rpmを超える領域で使用する超小型軸流型血液ポンプ用に磁性流体軸シールver.2を開発し,現在に寿命試験を行っている. 磁性流体軸シールにおける磁性流体粒子の凝集とベース液の流出に関する報告はこれまでないが,磁性流体軸シールを液体中で高速回転させる試みが過去になく,新たな発見とも考えられる.
|
今後の研究の推進方策 |
超小型軸流血液ポンプ用に超高速回転に絶えうる磁性流体軸シールver.2を開発している.磁気的損失を抑制するため,回転軸の周速度を低く押さえるため回転軸を細くするため従来型磁性流体軸シールの形状に戻し,またナノ強磁性超微粒子表面の界面活性剤保護のための放熱を考慮した構造とすることが必要で,血液への放熱に頼らない構造とする. 本研究と同様に長期使用を目指した超小型軸流血液ポンプの開発が4つの研究グループで行われているが,全て磁気カップリング方式であり,ポンプ外径を細くすると時期吸引力が低下し羽根車を回転させるのに十分な磁気吸引力が得られない. 磁性流体軸シールを用いた超小型軸流血液ポンプの特徴は,上記磁気カップリング方式では実現できない外径4.7mmのImpellaCPサイズで長期使用可能な超小型軸流血液ポンプを実現する可能性を持っていることである.そのため,新たに開発中の磁性流体軸シールver.2は外径4mmとしImpellaCPサイズでも提供可能とすることを考えている. 研究室で磁性流体軸シールver.2を製作できることを確認しており,実際に製作し試験を開始している.また,このImpella5.0を想定した磁性流体軸シール寿命試験装置は,血液流路がImpella5.0とほぼ同じであるが故に羽根車ポンプ性能試験装置でもある.現在,CFDを使い,様々な羽根車形状のポンプ特性と流体力学的特性を評価しているが,磁性流体軸シール寿命試験装置を用い,CFDで設計した羽根車を実際に製作し試験を行うことも考えている.
|