研究課題/領域番号 |
22K12819
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分90120:生体材料学関連
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
巣山 慶太郎 九州大学, 基幹教育院, 助教 (60707222)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | エラスチン様ペプチド / 自己集合能 / 温度応答性分子 / 光応答性分子 / 薬物送達システム / 光線力学療法 |
研究開始時の研究の概要 |
エラスチン様ペプチド(ELP)は温度変化等の外部刺激に応答して凝集・溶解状態を何度でも切り替えることができるペプチドであり、天然アミノ酸から構成されるため生体適合性も高いことから、がん組織をはじめとする標的部位への選択的な薬剤輸送(薬物送達システム)の担体としての応用が期待されている。本研究では、ELPの可逆的な凝集能に関与する特徴的なアミノ酸配列と光スイッチ構造をもつ分子を組み合わせ、光照射によって薬物放出の制御可能なペプチドを合成する。合成したペプチドの温度・光照射による凝集体形成の制御により、ELPをがんの光線力学療法に適用可能な医療材料として応用することを目指す。
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研究実績の概要 |
本研究では、天然アミノ酸を原料とすることで生分解性・生体適合性が高く、温度依存的可逆自己集合(コアセルベーション)特性を示すエラスチン由来の合成ペプチド・ELP(Elastin like peptide)を母体として、光照射により薬剤放出の時間的・空間的な制御を可能とするペプチド性薬物送達担体を開発する。 本研究は3年計画であり、2年度にあたる本年度においては、初年度に合成したアゾベンゼン・短鎖ELP複合体ペプチドの光化学的特性の調査、ならびに、それを発展させた新規ペプチドの開発を行った。具体的には、アゾベンゼン誘導体の2個の芳香環にそれぞれ短鎖ELPである(FPGVG)2および(FPGV)2を付加した直鎖状、あるいはダイマーペプチド様アナログと、水溶性の調節のためのアミノ酸残基をさらに挿入したアナログの合成を実施した。短鎖ELPは一般的なFmoc固相合成により合成し、アゾベンゼン誘導体の合成ならびにペプチドとアゾベンゼン誘導体の縮合は液相反応で実施した。また、合成した光応答性ペプチドに対して光照射に伴う可逆的なシス・トランス異性化を誘導し、それぞれの異性体における自己集合能の評価を実施した。その結果、合成したペプチドは光照射により可逆的にシス・トランス異性化すること、シス・トランス異性化によりペプチドの自己集合能を制御可能であること、自己集合したペプチドに光照射することにより自己集合を解消して再溶解させることが可能であること等が明らかとなった。これらの結果により、次年度の温度・光応答性ELPを用いた薬物放出制御に応用可能なペプチドアナログならびにアッセイに関する知見を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究の方針は概ね予定通りであり、本年度において目的のペプチドアナログの特性解析を実施することができた。具体的には、初年度に合成した温度・光応答性を有するプロトタイプのELPアナログをベースとして、光応答性の解析ならびに発展系のペプチドの開発を実施した。近年の当研究室での研究成果により、FPGVG配列を有するELPは、短鎖でもダイマー化・多量体化・芳香族アミノ酸の導入によって温度応答性を増強できることが判明している。そこで、この短鎖ペプチドと光応答性分子・アゾベンゼンを組み合わせ、光応答性ELPアナログを開発した。その結果、ベンゼン環にカルボキシ基およびアミノ基を有するアゾベンゼンに(FPGVG)2(10残基)縮合したペプチドが、波長330 nm程度の紫外光照射により、トランス型からシス型に異性化することが明らかとなった。このペプチドの自己集合能を濁度測定により調べたところ、トランス型の方がシス型と比べて自己集合能が高く、光照射により温度応答性を変化させられることが判明した。しかしながら、このペプチドは疎水性が高く、低温・低濃度でしか使用できない可能性が示唆された。そこで、親水性アミノ酸であるリシン、アスパラギン酸を有するアナログを合成したところ、生体条件に近いPBS溶液中(pH 7.4)において、体温付近で温度応答性を発揮させることに成功した。これらのアナログは、中性の水溶液中において双性イオンとなることにより、水溶性と温度応答性の両方を達成できることが示唆された。また、リシンを挿入したELP-アゾベンゼン複合体は、暗所保存下においてシス型構造を安定に保つことができ、より熱安定性の高い刺激応答性分子素材として有用であると考えられた。加えて、分子動力学計算を用いた検証により、異性化による温度応答性の変化は、アゾベンゼン部分の水溶性の変化に依存する可能性が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策として、より高機能な温度応答性・光応答性ペプチドの開発と、これを用いた薬物放出試験を行う。これまでにELP-アゾベンゼン複合体の光照射によるシス・トランス異性化と、それぞれの異性体における温度応答性の評価を濁度測定により実施し、トランス型がシス型より高い自己集合能を有することを明らかにした。しかしながら、光照射によるトランス型からシス型への異性化効率が最大で50%程度と低く、また、冷暗所においてもほとんどのアナログがシス型からトランス型に自発的に異性化してしまうことが明らかとなった。そこで、シス型がより安定となるように、アゾベンゼン上の置換基ならびにELPの鎖長、アミノ酸配列を変化させたアナログを合成し、濁度測定、粒径測定により自己集合能の調査を行う。シス型・トランス型がそれぞれ安定に保持できるアナログを開発できたら、これを用いてペプチド凝集体内部にモデル薬剤(フルオレセイン、1,8-ANS等の蛍光化合物)を封入し、光照射によって凝集体の解消・薬物放出が可能かどうかを検討する。これにより、体温(37℃)付近で薬物の蓄積に適する数マイクロメートルの凝集体の形成・溶解の切り替えを光照射により制御可能かを検証し、その光応答性薬物輸送担体としての性能を評価する。
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