研究課題/領域番号 |
22K12988
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分01040:思想史関連
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研究機関 | 亜細亜大学 |
研究代表者 |
岡崎 弘樹 亜細亜大学, 国際関係学部, 講師 (30860522)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2025年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2024年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
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キーワード | 自由 / 暴力 / イスラーム / 神学 / レジリエンス / エキュメニカル / 宗派主義 / 中東 / アラブ / 思想 / 文学 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、宗教や宗派、民族間の分断や対立を抱えてきた東アラブ地域において、シリアをはじめとするアラブの思想家や文学者がいかなる「共存」を構想してきたかを、19世紀後半の思想的源流とそれを引き継いだ現代の思想的・文学的実践の両面から解き明かすことを目指す。具体的には①ナフダ時代の女性解放論における「神学と社会学の併存」、②ナフダ時代における「文学の有用性」論争、③現代シリア思想にみられる「市民社会」構想、④現代シリア文学にみられる「複合的なアイデンティティ」といった各主題について、同時並行的に考察を進める。
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研究実績の概要 |
本研究は、宗教や宗派、民族間の分断や対立を抱えてきた東アラブ地域において、シリアをはじめとするアラブの思想家や文学者がいかなる「共存」を構想してきたかを、19世紀後半の思想的源流とそれを引き継いだ現代の思想的・文学的実践の両面から解き明かすことを目指す。世俗的あるいは宗教・宗派・民族的な背景を有するそれぞれの論者が各自のイデオロギー的背景を抱えつつも、「同時代人としての意識」の下で同じ祖国や共同体の一員として、政治的、社会的な共通課題の克服を共に模索した思考過程を分析する。また対立や暴力反復の要因を思想的に認識するだけでなく、具体的な人間像を描く文学作品を通じて共同体精神の回復(レジリエンス)を希求した取り組みにも着目する。 2022年度においては特に(1)ナフダ時代の女性解放論における「神学と社会学の併存」と(2)現代シリア思想にみられる「市民社会」構想という2つの課題について大きな進展があった。(1)に関しては、19世紀末アラブの女性解放論者カースィム・アミーンの翻訳書に関して翻訳作業が完了した。また関連する報告を、上智大学で開かれた国際ワークショップで行った。 (2)に関しては当初の計画を大幅に広げる形で研究が進んだ。2022年度に査読論文2本をそれぞれ学会誌と大学紀要で発表したほか、新たな論考も学会誌に投稿した。加えて八木久美子編集『イスラーム文化事典』において第16章「政治とイスラーム」シリア編を分担執筆した。さらに東京大学で開かれた国際セミナーで関連する研究報告を行ったほか、シリアを取材したフォトグラファーの講演会を実施、ならびにドイツ在住のシリア人作家を日本に招聘し、京都、広島、東京で講演会・ワークショップを実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2022年度においては特に(1)ナフダ時代の女性解放論における「神学と社会学の併存」と(2)現代シリア思想にみられる「市民社会」構想という2つの課題について大きな進展があった。 (1)についてはアミーンの翻訳書に関して翻訳作業がほぼ完了し、関連する国際ワークショップで"How did Nahda thinkers understand women’s labor? -with a focus on Qasim Amin’s The New Woman"という題名で研究報告を行った。 (2)については、2022年度に査読論文2本を発表した。ひとつは①政治思想学会誌『政治思想研究第22号』掲載の「シリアの知識人は〈反復する暴力〉をいかに理解したか」で、政治思想学会研究奨励賞を受賞。もうひとつは②『亜細亜大学―国際関係紀要 Vol.32-2』掲載の「現代シリアにおけるパルミラ監獄経験の表象―ムスリム同胞団員手記にみる〈意味のレジリエンス〉―」。新たに③「現代シリアにおける〈市民社会〉構想とその行方」という題名で別の学会誌に論文を投稿。なお②と③の執筆のために2022年夏にカイロとアンマンで2週間資料収集を実施した。 また関連する国際シンポジウムで"New Form of Protest Shown by Syrian Islamists -Reading the Palmyra Prison Memoirs of a Former Muslim Brotherhood Member-"という研究報告を実施した。そのほかシリア国内を取材したフォトグラファー小松由佳氏の講演会を実施、またシリア人作家ヤシーン・ハージュ・サーレハ氏を日本に招聘し、京都、広島、東京での講演会・ワークショップを主催し、盛況に終わった。
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今後の研究の推進方策 |
(1)ナフダ時代の女性解放論における「神学と社会学の併存」というテーマに関しては、2023年11月にカースィム・アミーンの『女性の解放/新しい女性』の翻訳を後藤絵美氏との共訳で刊行する。「ナフダ思想におけるアミーンの女性解放論の位置づけ」という題名で解説も執筆する。さらに邦訳刊行に合わせて複数の研究者を招いてイスラームとジェンダーをめぐる諸課題を中心としたシンポジウムを実施する予定である。また関連するコラムが『論点・ジェンダー史学』(ミネルヴァ書房)や『イスラーム・ジェンダー・スタディーズ 第8巻 労働の理念と実態 』(明石書店)に収録され、近日刊行される。 (2)現代シリア思想にみられる「市民社会」構想に関しては、2023年度中に①日本中東学会(5月)と②ISA International Conference 2023(6月、モロッコのイフランで開催)にて、イスラーム主義者によるパルミラ監獄手記を取り上げつつ世俗と宗教の分断を超える市民社会構想について報告する。また③政治思想学会(5月)でも、シリアの市民社会論について報告することが決まっている。 (3)現代シリア文学にみられる「複合的なアイデンティティ」という主題に関しては2023年12月に他の科研事業との協力の下、シリア人女性作家サマル・ヤズベク氏を日本に招聘し、東京や京都などで講演会を開くとともに、インタビュー調査も実施する予定。関連してヤズベクと一世代前の女性作家ガーダ・サンマーンの生と作品を比較する論考を執筆する予定である。 なお、これに関連して、雑誌『思想―エドワード・サイード没後20周年特集、2023年12月号』(岩波書店)において「アラブ近代思想におけるサイードの位置づけ」という題名で寄稿する予定である。
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