研究課題/領域番号 |
22K12995
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分01040:思想史関連
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研究機関 | 神奈川県立金沢文庫 |
研究代表者 |
櫻井 唯 神奈川県立金沢文庫, 学芸課, 非常勤事務嘱託員 (30822978)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,470千円 (直接経費: 1,900千円、間接経費: 570千円)
2024年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2023年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
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キーワード | 華厳宗 / 東アジア仏教 / 中世東国仏教 / 草木成仏 / 無情仏性 / 宋版単刻本 / 法相宗 / 天台宗 |
研究開始時の研究の概要 |
「草木や国土等の環境世界は成仏するか」を考究する草木成仏というテーマは、殊に平安期以降の日本仏教において論じられ、日本天台宗では「人間と同じように、草木も自ら発心し修行して成仏する(自発心成仏)」という、中国仏教には無い発想も生まれた。本研究では、中国と日本とで天台・華厳・法相といった各宗の関係性が異なることに着目し、他宗への同調や対抗という態度の相違が草木成仏思想の展開に及ぼした影響を考察する。これにより、他宗との交渉が教学形成に及ぼす作用を明らかにし、東アジアの仏教思想史を諸宗の交渉史として捉え直すことを試みる。
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研究実績の概要 |
令和5年度は、前年度に実施した称名寺聖教中の宋版単刻本とその写本の調査・整理の成果を、『金沢文庫研究』第352号にて発表した。加えて、宋版原典調査の結果を踏まえ、南宋時代の華厳宗における無情仏性説の変遷を検討し、その議論が日本中世の華厳宗の説にどのように反映されたのかを考察した。 次に、湛睿の他宗理解に関する考察の一環として、新出の称名寺所蔵『山家要略記』類断簡と関連資料の調査を行った。新出資料の一部を神奈川県立金沢文庫にて開催の特別展「中世学僧列伝!!」に出陳し、調査研究の成果を広く一般に公開するとともに、『金沢文庫研究』第351号にて新出資料の概要を紹介した。本資料群の書写者は鎌倉極楽寺に住した全海という僧侶であり、このうちの一帖『山家最要略記 厳神霊応抄』の奥書には称名寺長老の釼阿と思われる名も見える。本資料は、極楽寺や称名寺といった関東の西大寺末寺と比叡山の記家との繋がりを示すものと言えよう。湛睿も一時、比叡山神蔵寺に逗留し教えを受けていたという記録があり、その思想形成において天台宗からの影響があった可能性も考慮する必要がある。 さらに、称名寺聖教中の湛睿稿本断簡の整理を進め、内容未詳となっていた称名寺聖教406函の断簡約110点のうち、本年度は34点の再調査を終え、半数以上の資料名をほぼ確定することができた。また、その整理の過程で、散逸したと考えられていた湛睿の著作『華厳文義綱目見聞集』の断簡を発見し、東大寺図書館にその一部が現存していることも判明した。東大寺所蔵本に引用される新羅・珍嵩撰『探玄記私記』の一節には、草木成仏を肯定する立場の根拠となる記述があることから、その内容の分析を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
称名寺聖教のうちに含まれる湛睿稿本について、目録の情報から実際の内容を推測できない資料が多数あり、その全容を探る上で障害となっていた。当初は研究代表者のみですべての原典調査を行う予定であったが、本年度から外部調査員にも一部の資料の内容分析を依頼することとした。そのため、令和6年度中に内容未詳の断簡の再調査を終えることができる見込みとなった。また、他所所蔵資料の調査についても、ほぼ予定通りに進めることができている。
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今後の研究の推進方策 |
申請時には想定していなかった新出資料の発見もあり、当初の計画から若干変更を要する点がある。 称名寺聖教の調査については、内容未詳となっている湛睿稿本断簡(406函の約110点)の再調査を、令和6年度中に終えることを目標とする。他の函の断簡とあわせて『探玄記疏抄類聚』の復元的研究を進め、同じく湛睿の手になる『華厳経』註釈書、『華厳演義抄纂釈』にみえる草木成仏説の形成過程を探る。また、『探玄記疏抄類聚』と密接に関係する東大寺図書館所蔵『華厳文義綱目見聞集』についても、翻刻と内容の分析を行っていく。 こうした資料調査の成果を踏まえた上で、中国や朝鮮半島でそれぞれに展開した無情仏性説が中世日本の華厳宗の説に与えた影響を考察する。そして、東アジア仏教において宗派間の思想的対立が教学形成にどのような影響を及ぼすのかを考察し、令和6年度にはその成果をいくつかの学会および雑誌において発表したいと考えている。
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