研究課題/領域番号 |
22K13018
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分01070:芸術実践論関連
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研究機関 | 東京都立大学 |
研究代表者 |
越智 雄磨 東京都立大学, 人文科学研究科, 准教授 (80732552)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2025年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2024年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2022年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
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キーワード | パップ・ンディアイ / 多様性 / オリエンタリズム / ポスト・コロニアリズム / パリ・オペラ座 / ストリートダンス / バレエ / コンテンポラリー・ダンス / 民主化 / コロニアリズム / アカデミズム / 文化政策 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、17 世紀の絶対王政期に起源を持つパリ・オペラ 座バレエが、21 世紀の現在において取り組む「民主化」の諸相を明らかにするものである。 申請者はフランスにおけるコンテンポラリー・ダンスの興隆を研究する過程で、特に90 年代以降、民主化や民主主義がダンスに関連する文化政策においても創作の場においても重視されていることを発見した。その発見を踏まえ、2000 年代以降に顕著に見られるパリ・オペラ座バレエにおけるコンテンポラリー・ダンスの導入や民主化の動向に注目し、1文化政策、2芸術監督のディレクション 、 3作品分析の観点から、パリ・オペラ座バレエの「民主化」の到達点と課題を明らかにする。
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研究実績の概要 |
今年度ははパリ・オペラ座の民主化動向として、『パリ・オペラ座における多様性に関するレポート』(2020年)および2019年にバスティーユ館で上演されたクレマン・コジトール演出、ビントゥ・デンベレ振付による『優雅なインドの国々』の再演(2019)についての調査および分析を行った。 前者のレポートでは、パリ・オペラ座がムラート(セネガル系黒人とフランス人の混血)である歴史学者パップ・ンディアイに執筆依頼をしたことに着目し、白人が中心となって構成されているパリ・オペラ座がブラックスタディーズの成果を取り入れ、文化的多様性を取り込もうとしていることがわかった。さらに18世紀以降のオペラ演目に関して、コロニアリズム、オリエンタリズム、人種差別を反映してきたことを反省し、旧来からのレパートリー作品に関する修正や新しい解釈の必要性に関しても明文化され、課題として認識されていることがわかった。 実際、パリ・オペラ座では旧来的なオリエンタリズムの修正と文化的多様性を反映する演目づくりに注力している例が見受けられる。上記レポートの刊行年と前後するが、2019年に発表された『優雅なインドの国々』の新演出がその顕著な例として挙げられる。この作品の初演は1735年であるが、当時の台本からは「インド」としてまとめられている非ヨーロッパ圏に対するヨーロッパの優位性が読み取られる。しかし、この新演出ではセネガル出身の黒人振付家ビントゥ・デンベレを招き、有色人種のストリートダンスのダンサーが出演することになった。オリジナル版にもある「平和のパイプのダンス」をこれらストリートダンスのダンサーが現代のダンスバトルに置き換え、圧倒的な存在感を示した。この場面は、「geste marron」と呼ばれる黒人奴隷が植民地支配から脱する身振りの精神が根幹にあることが振付家のインタビュー記事調査から明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
『パリ・オペラ座における多様性に関するレポート』を調査、読み込むことで、人種差別の撤廃や多様性の導入に関して、フランスで最大の公的助成金が投入されている劇場であるパリ・オペラ座が、いかに取り組もうとしているか、多様性の表象に向かうその理念をある程度明確に理解することができた。また当初の研究計画にはなかったが、『優雅なインドの国々』という作品を調査の過程で発見し、その新演出がオペラ座の「民主化」の理念を具体化しようとする作品として評価、位置付けることができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究課題としては、パリ・オペラ座という劇場の空間的境界が必然的に持つ、排他的構造について、オペラ座がどのように意識して、どのような対応を取ろうとしているのかを研究する必要がある。その顕著な事例としては、パリ・オペラ座が現代アーティストJRに演出を委嘱したパリ・オペラ座前広場におけるパブリック・プロジェクトが挙げられる。 また、パリ・オペラ座の元芸術監督のバンジャマン・ミルピエが果たした、あるいは果たそうとしたオペラ座の「民主化」について、調査し、再評価したいと考えている。パリ・オリンピックが開催される2024年にはカルチュラル・オリンピアードの一環としてバンジャマン・ミルピエによるパリ市内の複数の公共空間で行われるダンスプロジェクトも予定されており、出演者はパリを活動のベースにしながらも多様な民族的・文化的背景やアイデンティティをもったアーティストで構成されている。これらの事例について今後調査をすることでパリ・オペラ座の「民主化」の達成点と限界点を明らかにしたいと考えている。
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