研究課題/領域番号 |
22K13032
|
研究種目 |
若手研究
|
配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分02010:日本文学関連
|
研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
藤原 崇雅 信州大学, 学術研究院教育学系, 助教 (70852432)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
3,120千円 (直接経費: 2,400千円、間接経費: 720千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
|
キーワード | 戦後上海 |
研究開始時の研究の概要 |
戦前期(1920~37)あるいは戦時下(1937~45)における居留民関連メディアの文献目録や復刻は、ある程度充実している。 国策に対して協力的な態度を装いつつ、自らの意見を表明していく立場について、〈グレーゾーン〉という理論を援用した言説分析が行われている。 そうした資料整理や言説分析の手法は、戦後の時期(1945~49)に関する研究にも有用だと考えられるが、いまだ実施されていないことが課題である。 本研究では、戦後の時期における日本人居留民の言論活動についてその総体を調査したうえで、当時当地を管理した蒋介石派国民党のプロパガンダとの偏差に留意して分析する。
|
研究実績の概要 |
2023年度は、中国語文献の日本語訳と解説の作成を行うにあたって、以下の計画を立てていた。「1,これまでに作成した目録上から主要な文献を選定して整理し、リスト化する。2,リスト化した文献のうち中国語のものを選定し日本語へと訳出する。3,訳文を中国語母語話者の協力研究者に依頼しネイティブチェックする。4,ネイティブ・チェックを踏まえ完成させた訳文に対し解説を作成する。」これらの計画のうち、すべての項目において十分な作業が進んだとは言えず、その結果として、研究誌に目録や翻訳を公にすることはかなわなかった。 ただし、その一方で、2024年度の研究計画として予定していた、文学作品についての受容復元と分析を行うことは実現している。そうした業績としては以下のものが該当する。 a,「戦後上海から「父帰る」:日本人居留民集中区における演劇活動 藤原崇雅(単独発表) 第11回東アジアと同時代日本語文学フォーラムバリ大会 2023年9月」、b,「柳沢類寿「上海らぷそでい」論:日本敗戦後上海における居留民の演劇活動 藤原崇雅(単独発表) 中国外国文学学会日本文学研究分会第十八届年会 2023年10月」 a,は戦後上海において新劇の代表作である菊池寛の演劇が上演されていたことと、その受容のあり方を検討したものである。この戯曲は、父親である登場人物が家族の元に帰ってくるという内容であるが、その内容が引揚げる居留民に重ねて上演されていたことを明らかにした。また、b,は戦後上海において当地で書かれた演劇脚本を検討したものである。この脚本が、物価上昇の激しい戦後上海において、居留民に相互扶助的な考え方を啓蒙する内容を持っていたことを明らかにした。 文献リストや訳文を研究誌に発表することはかなわなかったが、調査した資料を用いてこれらの業績を公にできてはいる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度は、所属する大学・コースにおいて教員の欠員が生じたため、その分の校務を負担しなければいけない事態が発生した。そのため、当初予定していたエフォートを研究に割くことができなくなったのが、2023年度に実施するはずであった以下の計画(1,これまでに作成した目録上から主要な文献を選定して整理し、リスト化する。2,リスト化した文献のうち中国語のものを選定し日本語へと訳出する。3,訳文を中国語母語話者の協力研究者に依頼しネイティブチェックする。4,ネイティブ・チェックを踏まえ完成させた訳文に対し解説を作成する。)を進捗させられなかった理由である。したがって、現在までの進捗状況はやや遅れていると言える。 ただし、調査や資料の分析自体はある程度行っており、その過程で、戦後上海における居留民がどのように文学作品を受容していたかということが、部分的ではあるものの分かってきた。特に、演劇に関する資料が多く入手されたため、それらを使用して発表を行うことができた。したがって、研究は当初の計画以上に進展していると言える。 しかしながら、研究計画全体としては、資料調査をし、それを翻訳・解説・紹介したのちに、分析して業績を公にしていくというものであるため、全体として現在までの進捗状況はやや遅れていると言える。 2024年度は教員の欠員が補充され、新しく赴任した教員のサポートを行う校務は必要であるものの、概ね科研費に応募した時期に想定したエフォートの状態に戻っていると言える。想定していた状態に戻っただけであるため、2023年度の遅れを取り戻すことは難しいものの、2022年度に調査自体はある程度行っているので、2024年度に予定している、文学作品についての受容復元と分析を行うという計画は開始できる状態にある。
|
今後の研究の推進方策 |
2022年度は、以下のような計画を立てていた。「居留民が書いた文献の総目録を作成する。具体的な実施計画は以下の通りである。OPACで『上海市年鑑』の目録に掲載されている文献を所蔵調査する。OPACでヒットする文献の複写依頼/ヒットしない文献の現地調査を行う。入手した文献の記事や広告を確認し未見の文献がないかを追加調査する。追加調査を含む文献全体を様式に打ち込み、凡例と併せ目録を作成する。」これはすでにある程度実施しているが、重要な文献などの見落としがないか改めて確認する。 2023年度は、以下のような計画を立てていた。「中国語文献の日本語訳と解説を作成する。具体的な実施計画は以下の通りである。作成した目録上から主要な文献を選定して整理リスト化する。リスト化した文献のうち中国語のものを選定し日本語へと訳出する。訳文を中国語母語話者の協力研究者に依頼しネイティブ・チェックする。ネイティブ・チェックを踏まえ完成させた訳文に対し解説を作成する。」訳文や解説の執筆は部分的にしか進められておらず、エフォートのことを考えると遡ってこれを行うことは難しいので、2024年度の計画の実施を優先する。 2024年度は、以下のような計画を立てている。「文学作品についての受容復元と分析を行う。具体的な実施計画は以下の通りである。訳出した資料のなかから主要な文献を選定する。その文献の意見と蒋介石派国民党の管理方針との偏差を析出する。〈グレーゾーン〉理論を踏まえ分析した文献の書き手の立場を分類する。戦後上海における居留民の主体のありようの総体を再度図式化する。」目下、この計画を進捗させており、その業績を発表する場として、2024年度台湾日本語文学会国際学術研討会審査報告にエントリーしている。充実した内容を発表できるように、準備を進めていく。
|