研究課題/領域番号 |
22K13042
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分02010:日本文学関連
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研究機関 | 武蔵野美術大学 |
研究代表者 |
大石 紗都子 武蔵野美術大学, 造形学部, 准教授 (20912504)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
2024年度: 260千円 (直接経費: 200千円、間接経費: 60千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
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キーワード | 近代文学 / 堀辰雄 / 昭和十年代 / 日本古典文学 / 萬葉集 / ジャン・コクトー / 文献学 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、戦時体制下に書かれた文学作品について、改稿や改変のプロセスにも鑑みて、思想的な統制の中で密かながら育まれた言語戦略や隠微な表現の両義性を再検討する。そのことで、時代の危機意識や転機が文学概念の変容と切り結ばれる様相を詳らかにしていく。 上記の考察により、近年着目を集めている「昭和十年代」の状況に、文献学・書誌学的なアプローチを接続することができ、従来の研究成果をより前進させることができると考える。
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研究実績の概要 |
本研究は、主として次の二点を柱としている。 (Ⅰ)個別の作家における古典文学と西洋文化との融合のあり方についての内在的追究 (Ⅱ)古典文学と国文学研究をとりまく状況論的研究
(Ⅰ)について前年度までの調査をもとに、戦前より科学や数学、西洋文学に関心を示しながら日本古典への興味を深めた堀辰雄の独自性や功績を探った。特に昭和初年代の作品『羽ばたき』を典拠論などの観点から分析し、ジャン・コクトーの影響、アンリ・ポアンカレに関する蔵書との関連、戦時下に再録を封印された本作の時代的側面、近年のコミカライズ化から浮彫りになる普遍的側面を考察した。個の内面の充実を追求するロマンティシズムが時に死と隣り合わせになる悲劇を描出することの文学的意義、それらが過剰な意味を帯びてしまう戦時下の状況について論じた。 (Ⅱ)については、堀辰雄の「萬葉集」関連の蔵書調査を行い、戦時下の軍歌や戦意高揚とも結びつきかねなかった「萬葉集」を、同時代の堀辰雄がどのように受容しえたのか考察した。蔵書と併せてノートや草稿を閲覧することで、萬葉歌の知識を血肉化していく作家の足跡が見え、短絡的な時局への迎合と異なる古典文学受容の細やかさが浮彫りになった。同時に、戦時下の英雄的な死の賛美に留まらない形で、人間存在の生と死を描いた足跡も見出された。それは歴史学・文化人類学など、国文学と異なる専門の執筆者をも含む研究書や学術書を所持した堀の、幅広い読書行為にも見て取れる。「萬葉集」に取材にした作品の草稿からは、ライナー・マリア・リルケの作品や、昭和初期以来のプルーストの影響なども指摘することができ、東西の文学に開かれた堀の創作姿勢と、「古典回帰」的な戦時下の気運との距離がさらに詳らかにできると思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(Ⅰ)個別の作家における古典文学と西洋文化との融合のあり方についての内在的追究 戦前の堀作品とジャン・コクトーとの関連を考察することで、戦前・戦後をまたいで、堀辰雄がどのような文学を志向したのか、また戦時下に於いてはいかなる限界があったのかについて、展望が開けた。また、ジャン・コクトー受容を補助線として、同時代の作家坂口安吾との比較から、戦中をまたぐ時代の東西文学受容についての回路が開ける可能性がみられた。 (Ⅱ)古典文学と国文学研究をとりまく状況論的研究 2022年度は主として堀辰雄の「萬葉集」関連の蔵書や草稿を考察したが、堀辰雄文学記念館に補完された「萬葉集」関連の蔵書には、膨大な書き込みなどの痕跡が残っている。各々の蔵書の受容や書き込みの時期を完全に詳らかにすることは難しいが、とりわけ戦時下に於いて重点的に参照したと思われる文献や書き込みを絞り出すと同時に、堀の西洋文学受容とも共通点をもつ書き込みを抽出した。
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今後の研究の推進方策 |
(Ⅰ) 堀辰雄の原稿や蔵書が保管されている「堀辰雄文学記念館」(長野県軽井沢町/信濃追分)、「神奈川近代文学館」(神奈川県横浜市/中区)における調査を継続する。2022年度に参照した「萬葉集」関連の蔵書調査をさらに進めると共に、これまでの古典文学関連・外国文学関連の蔵書調査の研究と合わせて、網羅的なデータの整理を行う。
(Ⅱ)昭和十年代の古典文学研究において、実証主義と美学的アプローチとのせめぎ合いを知るため、当時の、文献学・歴史社会学派・文芸学・「日本浪曼派」の応酬が浮き彫りとなる当時の雑誌を広く参照する必要がある。
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