研究課題/領域番号 |
22K13045
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分02010:日本文学関連
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
田部 知季 早稲田大学, 文学学術院, 講師(任期付) (70846419)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
2024年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2023年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2022年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
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キーワード | 地方俳誌 / 明治俳句 / 高浜虚子 / 河東碧梧桐 / 新傾向俳句 / 俳句雑誌 / 近代俳句 / 日本派 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、既存の近代俳句研究で軽視されてきた明治期の地方俳誌を多角的に考究する。まず、東京の俳誌『ホトトギス』との比較を通じ、句風における「地方」と「中央」の関係性を批判的に問い直す。また、雑報欄などの諸記事を対象に、各誌の編集方針やその特色を分析する。さらに、日記記事を含む散文にも目を向け、写生文運動の伝播状況を検証する。 一連の調査・分析を通じ、従来看過されてきた地方俳人の活動に光を当て、中央俳壇の動向に偏ってきた近代俳句史叙述の見直しを図る。併せて、一部の俳誌については総目次を作成する。また、各誌の句を適宜電子データとして入力し、近代俳句データベースの構築に向けた基礎作業を進める。
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研究実績の概要 |
2023年度は前年度までの研究成果が随時公表されるとともに、新たに学会発表や調査研究を実施した。まず、2022年度実施の一般講座を踏まえた論文「雑誌『四国文学』と地方色――高浜虚子・自然主義・新傾向俳句――」(『文学・語学』、2023・8)において、従来参照されていない虚子の記事にも触れつつ、松山の文芸誌『四国文学』の同時代的な位置づけを考察した。次に、明治30年代の俳壇に関する論文として、「新派俳句の起源――正岡子規の位置づけをめぐって」(『渾沌と革新の明治文化 文学・美術における新旧対立と連続性』、2023・7、勉誠社)と「明治三十年代前半の虚子句評――選評と句合に見る俳句評価の一面――」(『「夏潮」別冊虚子研究号』、2023・8)を発表した。前者では日本派台頭期の「新派」をめぐる言説を概観し、後者では地方俳誌に見える虚子の句評を紹介、分析した。さらに、日本文学協会での口頭発表「日本派の地方俳誌『アラレ』にみる明治俳壇の軌跡」を元に、論文「日本派地方俳誌『アラレ』の位置――個人への関心と俳書堂との繋がりを中心に――」(『日本文学』、2024・2)を執筆した。当該論文では、当時の地方俳誌が必ずしも特定の地域のみに閉塞していなかったことを指摘するとともに、『アラレ』の特色として書肆俳書堂との密接な繋がりを明らかにした。そのほか、明治34年の河東碧梧桐による俳句表現や、多くの文学者が参加した早稲田吟社の来歴に関する論文をそれぞれ投稿し、2024年度中の刊行が決定している。 他方、2022年度に引き続き天理大学附属図書館などの公共施設で複数回資料調査を実施した。また、継続して調査を実施した大阪の倦鳥文庫では、松瀬青々の日記を確認、撮影することができた。そのほか、複数の俳人の遺族と連絡を取り、資料閲覧の機会や有益な情報を得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年度は全国学会での口頭発表や論文の公表など、成果発表の面で概ね充実した結果となった。特に、当初想定していなかった『四国文学』の研究は、虚子や碧梧桐といった中央俳壇の動向とも関連する点で、今後さらなる展開が見込まれる。また、『アラレ』の調査を進めるなかで、既存の俳句史では顧みられていない俳書堂周辺の交流圏について新たな示唆を得られた。同社は大正期の俳壇でも重要な位置を占めるため、新規研究の萌芽として継続して調査を進めたい。 一方で、当初の研究対象であった明治30年代後半の地方俳誌については十分検討することができなかった。特に『木兎』や『浮城』は掲載される散文の情報を収集するに止まり、口頭発表や論文にまとめる機会を得られなかった。また、2022年度から計画していた『明治大正俳句雑誌レポート』も発行に至らなかった。年度後半には計画段階では予期していなかった設備機器(ノートPC)を購入したため、発行費の工面も含め、当該誌の発行は2024年度に持ち越す結果となった。なお、一部の俳誌は所蔵先や目次等の情報も揃っており、解題の入稿準備を進めている。 他方、資料調査の面では過年度に引き続き新たな成果が多数得られた。公共の図書館や文学館での情報収集に加え、複数の俳人の遺族と連絡を取ることができた。一部は資料の所蔵状況等を確認し、2024年度の調査について内諾を得ている。また、俳誌『アラレ』の編集に関わる中野三允宛籾山江戸庵葉書約40枚を入手し、翻刻と公開のための準備を進めることができた。当該資料は2023年度に公表できた論文や、現在執筆している俳書堂関連の論文を補うものとして今後の活用が期待される。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度は、2023年度までに蓄積してきた研究成果を公表するとともに、新傾向俳句が台頭する明治40年代の俳誌に関する基礎的な調査を進める。まず、これまで調査してきた『蓑虫』や『雪吹』、『木兎』、『アラレ』について、総目次と所蔵先一覧、解題から成る『明治大正俳句雑誌レポート』を刊行する。また『紫苑』や『浮城』、『くぢら』など、明治30年代後半の地方俳誌についても継続して調査中であり、情報の整理が終わり次第、同様の方法で成果を公表する。また、俳誌上の句評や俳人評、俳壇評も幅広く分析し、各誌を支えた俳人たちの交流の実態を検証する。さらに、明治30年代後半の地方俳誌に載る小品文を対象に、『ホトトギス』のみに拠らない俳人たちの多様な散文実践について考察する。従来、『ホトトギス』派の散文を論じる際には、作者の実体験を有りの儘に報じる「写生」が注目されてきた。しかし、当時の地方俳誌には類型的な写生文とは異なる雑多な「文」が掲載されており、検討の余地が多分に残されている。さらに、『九重桐』や『早苗』、『北斗』、『ウロコ』など、新傾向派の俳誌に焦点を当て、各誌に参加する若手俳人たちの素性を検証する。加えて、長期間存続していた『宝船』や『俳星』の時期的な変遷についても個別に検討する。 過年度同様、天理大学附属図書館や俳句文学館、神奈川近代文学館等で資料を閲覧するとともに、村上霽月邸をはじめとする個人蔵の資料を調査したい。既に連絡を取っている所蔵先との交渉を継続するとともに、各地の文学館にも協力を仰ぎながら、新たな所蔵者との関係構築を図る。また、富山県立図書館や高志の国文学館にも他箇所にない明治期俳誌が所蔵されていることが分かった。それらの資料も有効活用しながら、高岡の結社、越友会に関する研究も展開できればと考えている。
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